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全てを燃やす炎

「フランメ、陛下からのご命令だ。ありがたく思え」


 私の小屋に許可なく入り込んだ輩――全身鎧を着ている、国王直属の騎士らしい――は、高慢な態度で紙をこちらに突きつけた。

 何やら文字のようなものが書かれているが、さっぱり読めない。


「何と書いてあるんだ?」

「貴様、無礼であるぞ! 貴族である私にその態度でよいと思っておるのか?」

「親の顔も知らない貧民に学を求めないでくれ」

「むむっ」


 卑しき民め、と騎士が不愉快そうに言ったが、紙の内容を読み上げてくれた。

 ……が、やはり何を言っているのかわからない。


「フランメしか聞き取れなかった。もう少しわかりやすく説明することはできないのか?」

「……貴様は相手が先に仕掛けてきたとはいえ、過剰防衛で死者を複数出した。この罪は死刑に値する」


 確かに私は襲撃者から身を守るため、己の力を使ってきた。だが、殺したくて殺したわけではないことを声を大にして言いたい。


「私は燃やすしか能がない。火魔法で自分の身を守ろうとした結果、相手が燃え尽きただけだ」

「言い逃れする気か? 貴様に殺された者が戻ってくることはない。理由が何であれ、殺人は殺人だ」

「……そうだな。それで?」


 私が素直に罪を認めると、騎士は「は?」と一瞬固まった。


「それで、とは?」

「殺人犯である私を、あんたが処罰なり連行なりするんじゃないのか? その腰にぶら下げている剣は本物なんだろ?」


 まぁ、殺されるつもりも捕まるつもりもないから、相手が実力行使に出たら反撃するが。

 謝罪も反省もしない私に動揺したのだろうか、騎士が瞬きする回数が多い。


「い、いや。宮廷魔法使いになればこれまでの罪を不問にすると陛下からのお達しだ」

「……宮廷魔法使い?」

「本来は由緒正しき貴族のみがなれるものだ。ありがたく思え」


 国王に仕えて国王の命令で魔法を使う人のことを指すのか、宮廷魔法使いとやらは。

 私を兵器として利用するつもりなのだろうか。当然受け入れられるものではない。


「断る。何故私が誰かの下につかなければならない?」

「なっ!?」


 断られるとは思ってもみなかったのか、騎士が目と口を見開いて硬直する。


「貴様、自分が言った言葉の意味を理解しているのか? 陛下のご命令を無視するのは反逆罪であるぞ」

「殺人罪に加えて反逆罪か。罪深き私にあんたはどんな罰を言い渡すんだ?」


 私は口の端を上げて挑発する。手に魔力を集めるのも忘れない。

 案の定、騎士は激昂して剣を鞘から抜いた。


「陛下の元につかぬのなら、貴様はここで処刑する! かかれ、お前達!」

「はっ!」


 小屋の外で待機していた騎士達が一斉になだれ込んでくる。皆武器を構えているが、こんな狭い小屋の中で密集していては扱いづらいだろう。

 互いが互いを牽制して動けないでいる騎士達。私はそこに魔力を解き放った。


 ボウッと騎士の一人が火に包まれる。


「あ、熱い! 誰か水を……」

「うわっ! こっちに来るな!」

「おい、水魔法を使っても火が消えないぞ!?」


 慌てる人々に火が燃え移っていき、苦悶の表情を浮かべながら消えていく。

 少し経てば、無傷の私と後方に退避していたため難を逃れた騎士、燻る炎と半分焼けた小屋しか残っていなかった。

 騎士の骨も鎧も見当たらない。全て私が燃やし尽くしたからだ。


「さて、後はお前か」

「ひ、ひいっ!」


 一歩前に踏み出すと、騎士は怯えた顔で後退る。少し離れた程度ではまだ射程の範囲内なのだが。


「私は別に好き好んで人を殺しているわけではない。処刑やら捕縛やらを諦めるなら命は取らないが?」

「……くそっ、魔女め! 次は大軍を送り込んでやる、ここで私を殺さなかったことを後悔するがよ……い」


 捨て台詞を吐きながら馬に乗ろうとした騎士に手をかざせば、燻っていた火が奴のところへ飛んでいった。


「なっ、殺さぬのではなかったのか!?」


 他の騎士と同じように燃え尽きるかと思いきや、火だるまになりながら火傷している感じはなかった。鎧は少し黒ずんだだけで原型を留めている。特殊な加工がされているのだろうか。


「だが、甘いな。貴様が火魔法の使い手と知って、何も準備せずに挑むわけがなかろう。魔石を使って耐性を上げておるわ、わはは!」

「……これが私の限界だと誰が言った?」

「は?」


 私が拳を握りしめると、騎士の顔から勝ち誇った笑みが消えた。奴を包む火は黒く染まり、奴の鎧を大きく変形させる。


 ……もっと。


 さらに魔力を解放すれば黒炎は大きく燃え盛り、溶けた鎧の隙間から歪んた男の顔が見えたが、一瞬にして消え去った。

 後には灰も骨も残っていない。そして、自分の小屋も。


「うわっ! 魔女が小屋を燃やして出てきたぞ!」

「騎士様がどこにもいない……まさか!」

「逃げろ、燃やされるぞ!」


 辺境の村に現れた騎士団に村人達は何事かと集まっていたようだが、小屋が燃えて出てきたのが私だけだと知ると、散り散りになって逃げ出した。

 燃え尽きた小屋の前には、かつて友達だったアルマだけが残る。


「アルマ……」

「この村から出ていって」


 彼女はきっぱりと言い放った。


「騎士団に通報したのはあたし。村のみんなもあなたが怖いと思ってる。これ以上人を傷つけるのなら、もうこの村から……ううん、この国から出てよ」


 私とアルマは年が近くて子どもの頃はよく一緒に遊んだ。私の火魔法にも最初は目を輝かせていたが、十代になり魔法が強力になっていくと、彼女は私から距離をとるようになった。

 成長した火魔法を見せても「怖い」と言われるようになり、実際にその力で人を殺してしまった。


 いつから私達の道は分かれてしまったのだろうか。


 私が火魔法を使わずに生きるのは無理だ。その過程で傷つく人が生まれ、殺す可能性もある。

 私がこの村にいることを誰も望んでいないなら、出ていくしかない。


「……さようなら、アルマ」


 私は一人、名前も知らない王国から旅立った。

 国の外に広がるのは外国ではない。国外追放された犯罪者が闊歩する無法地帯だ。そこには魔女と呼ばれる生き物も住んでいるらしい。


 魔女という存在が大陸中に知れ渡ったのは、世界が闇に覆われたときだった。大陸全土に覆う黒い雲のようなものが、たった一人の魔法使いによってなされたとは思いもしなかっただろう。


 その魔法使いは災厄の魔女と呼ばれるようになった。そして、時代が変わったことを象徴するように、その年から魔女暦が使われ始める。

 災厄の支配は約四百年続いた。その間に十数人の魔女が誕生し、その内の一人――災厄の魔女の七女が光魔法で闇を打ち払い、災厄を討伐したのだ。


 今でも災厄の子孫である魔女は存在する。黒髪の女で数百年から千年以上若い姿を保ち、魔力の扱いに長けた生き物だ。

 その気になれば一国を滅ぼすことができるし、空を飛んだり瞬間移動したりと超常的な力を持っているから、迫害の対象にされ続けている。

 そして、手に負えないからなのか、魔女が自ら国を捨てるのか。ほとんどの魔女がどこの国にも属さない地――魔境で生活している。


 そんな危険極まりない世界を、私は火魔法のみで生きていくのだ。

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