黒い桜は花見の宴で優雅に舞う 【後編】
何かを察した助手君が駆けつけてくれて、手分けして荷物を運ぶのを手伝ってくれた。進藤 啓斗と言ったかな。私と同じで根っからの庶民。大学のサークルで真守葉摘と知り合ったそうだ。かなりの美人だけど、オカルト研究会とか普通入らないよ。
まあ本人も先輩目当てと認めていたし、彼女の美貌を巡り事件もあったようだ。犯人はいまだ行方不明だそうだ。
「どうせ証拠が残らないくらいに消し済じゃなくて……消し炭でしょ」
あぶねぇ、親父ギャグる所だった。センスないギャグは桜子にからかわれるからね。助手君が来たので葉摘は彼に任せた。桜子はマヤの面倒を見ている。なんか木星人の縄張りかもと言い出したので面倒臭い。それ、土星人かもしれないよ。
「ジー……じゃなかった。由希子、マヤが興奮するから余計な事を言わないの」
興奮させると金魚人を呼ぶからね。呼ぶというか、ワラワラやって来る。昆虫かよって思うくらいやって来る。試したくなるじゃない? でも桜子がブチキレたらもっと怖いのでしないよ。
護衛だって、桜子に運転手さんにリーさんがいる。リーさんは葉摘より桜子を庇いそうでいらないんだけどね。
被害が増えそうなので、少数精鋭の方が良いのかもしれない。とりあえず今はみんな肉を焼くので食べてほしい。六人増えたので一人当たりのノルマは2キロになったよ。マヤと桜子がいっぱい食べてくれるので私のノルマは500グラムで済みそうだ。
煙を気にせず豪快に肉を焼くのは楽しいね。塊のまんまだと分厚いので時間掛かり過ぎるから、リーさんに切り分けてもらった。流石は菓子職人見習いだよ。
「菓子職人見習いがナイフ捌き上手いわけないじゃない」
桜子の早いツッコミいただきました。リーさんは元エージェントだからナイフの扱いが上手でした。そしてたまごは火元に近づくんじゃないよ。花火の惨劇は食べ終わってからにしてよね。
「肉、ウマイ」
顔色の悪い青年と、あどけない少女のカップルはバーベキュー自体初めての体験なんだね。
「葉摘の親戚なんでしょう? なんだか禍々しいけど大丈夫なの?」
桜子の問はもっともだよ。私にも見えるよ、なんか黒い煙。バーベキューの肉の焼ける煙と違って不味そうだ。
「!」
二人から睨まれた。この二人も特殊な能力の持ち主確定だね。ただ少女の反応が幼い。葉摘と違って場数は踏んでない気がする。どこかマヤと似ていて放っておけないから、頑張って守るんだよ顔色の悪い青年君よ。
肉と野菜が次々となくなっていく。助手君が、ごはんを炊いてくれたので私は肉焼き係りに専念出来る。リーさんには野菜のカットもお願いした。カットが終わった後は、たまごの護衛と運転手さんと予備のテーブルで肉をもりもり食べてもらう。
マヤと桜子はバーベキューの竈門近くに陣取らせて焼いた側から肉を与えている。葉摘は顔色の悪い二人と仲良くバーベキューを楽しませておいた。
「替わろうか、由希子?」
「まだまだ大量に焼くから、桜子は座っていなよ。それに私もツマミ食いで食べてるから気にしないで」
ご飯を炊いた後、助手君も葉摘のいるテーブルに座らせて肉を積んだ。料理は得意ではないけれど、これは楽しい。良いお肉な上に、バーベキュード素人の私らのために、肉も野菜も下ごしらえ済なのが助かる。
雛鳥に餌を与えてる気分だよ。20キロの肉はあっと言う間になくなった。マヤと桜子、張り合って競争していたけど二人で半分以上食ったんじゃないかな。
「食後のデザートのアイスを食べたら片付けるよ。葉摘、その二人は戦えるのよね」
「何を言ってるのよ、由希子?」
やだなぁ、桜子ってば。お酒好きの貴女がお酒をまったく飲んでないじゃない。怪しい気配に気がついていて、あれだけの肉を食べるんだから凄いよね。どうなってるのよ、そのお腹。食後すぐに激しい運動大丈夫なのか少し心配だよ。
「マヤ以外は気づいていたようだね。ちなみにこの二人は戦える」
「なら食後の片付けに借りるよ。私は戦えないからね」
「ジーコさん、いや由希子さん。ボクも手伝いましょう」
リーさん、桜子に良い所を見せたいんだね。強い本人の側にいるより、クソ雑魚な私を守る事で有り難みが倍増する。流石はエージェントだっただけあるよ。
「オー、神様。由希子は悪魔ネ」
急に胡散臭い片言の日本語とか嘘っぽいから止めた方がよいよ。桜子は僕が守るって言ってるのを期待したのに小賢しい。
「由希子……戦う前から戦意を削ぐのは止めなさい」
桜子に叱られた。本当はね私も桜子に守ってもらいたいんだよ。由希子は私の親友、だから私が守る!
ビシッと決めポーズ付きでそんなセリフを吐かれた日には、惚れてしまうよね。
ゴンッ!!
桜子からゲンコツいただきました。
「馬鹿な事ぼやいてないで、みんなで洗い場に移動するよ」
テントはたまごの護衛がたまご爆弾を仕掛けていた。敵対者がエージェントなら爆弾に、管理者が片付けに来るならたまご爆弾になるそうだ。あいつ、爆弾使いだったっけ?
まあマヤと葉摘の近辺には敵も味方もおかしなのが多いから気にすると損だ。エージェントなら、そもそも怪しいテントに近づかないものだ。
洗い場はバーベキューしていた所より入口近くにある。トイレが防壁がわりにあり、守りを固めるのにいいようだ。
「雪山の時のように、私達だけを囮にしないだけマシ……と言いたいけどさ。マヤと葉摘と揃って狙われるのは悪手じゃないの?」
真守葉摘は策士だ。ごり押しして来た時点で何かあると思っていた。
「相変わらず鋭いね君は。今回は裏切り者の炙り出しだったのさ」
肉だけに炙るって────面白い冗談だよ。葉摘が真っ赤になった。そういう意図で言ったんじゃなかったようだ。
「その二人を連れて来たのは真偽を確かめる為でね。それで、どうだい」
葉摘が立ち直り、いつもの調子を取り戻す。
「黒ですね」
浦守 武という顔色の悪い青年は、面倒そうに言った。バーベキューの間、楽しんで見えたのは少女の笑顔が見れたからだろう。今は仕事モード全開で二人共、表情が硬かった。
「充分だ。桜子と一緒に、由希子とマヤを頼むよ」
葉摘の言葉に二人は無言で頷く。ゲフッっと少女の口から可愛らしい息が漏れた。あの大量のお肉も、作戦の内なんだよね? 裏切り者がいるのに、みんな大量に食っていたけど……。
「私、武、それに君と、三者の目と感性の網から逃れるのは容易じゃないのさ」
桜子じゃなくて、なんで私? あぁ、調理担当だからか。
「先に毒でも仕込んであれば、君は気づく。調理中は見事なまでに隙がない。怪しい挙動を取れば桜子も気づくナイスな配膳だったよ」
いや偶然だっての。たらふく食うマヤと桜子だもん。離れたテーブルに何度も運ぶのはダルい。毒を盛られても、どのみち葉摘が気づくだろうし。だいたい葉摘の行動から、怪しい気配は気づいていたけど、裏切り者がいたなんて知るかっての。
葉摘が目を泳がせた。なんかドヤってたのにゴメンね。でもね、聞いてほしい。私は数ある能力を神様から授かっているわけだけど、ぼやく以外に使える能力なんざ貰ってないんだよ。ガチの一般人に過剰な期待をかけるのは止めようよ。
「由希子……貴女のぼやきは心を抉る武器なの。いい加減学習しなさいよ」
心を挫かされた葉摘に替わり、桜子が間に割って入った。その鋭い蹴りは運転手さんの手にしていたナイフを宙へと舞わせていた。
「マヤ! 由希子の側にいて!」
急に戦闘が始まった。裏切り者は運転手だった老人。長年真守家に仕えていた執事のような人なのに。忍び寄る気配も、葉摘が膝をついた瞬間ワラワラと飛び出して来た。いや、なんか本当にすまない。
ドォーン!!
開戦と同時に、放置したままのテントが爆発した。雪山の時といい、エージェント共って爆発大好きだよね。
桜子は浦守武青年とテルヒメ少女と一緒にマヤと私を守りつつ、応戦する。進藤啓斗助手は、リーさんとたまごの護衛が守っていた。
葉摘は単独で銃弾から私達全員を守りつつ、運転手と戦っているので特殊能力がなかなか使えない。
「桜子、葉摘のフォローしてあげて」
このまま守りながらの戦いだと数で負ける。運転手がジジイなのに中々手強いみたい。いい歳なんだからギックリ腰にでもなればいいのに。
「ぐぉっ!」
────まじ?
運転手は急に動きが鈍ったようだ。私の能力がついに開花したのかもしれない。
「ハッハ〜食べ過ぎだよ、爺。悪意のない由希子の肉責めを避けられなかったのが敗因さ」
能力じゃなかった。食べ過ぎによる腹痛だったよ。だって裏切り者なんて知らなかったし、残すのは美学に反する。
葉摘の守りに加えて、悪意や殺意ある攻撃を弾くテルヒメちゃんの結界でマヤも私も守られていた。
私の言葉の意味を理解した桜子が、一瞬の隙を突くいて動く。桜子は運転手の死角から、強烈な蹴りをお見舞いした。葉摘もそれに合わせて運転手を無力化させる。まだ消さないのは尋問のためだろう。
「テントの爆発で四名死傷、残るは三十名というところか」
飛び道具が効かないとわかり、三十名のエージェントの内、二十名が突撃して来た。素人の私にもわかるくらい殺意が凄い。これはいつもの人さらい連中ではない。
「リー! 武! マヤ達を守れ。桜子は迎撃、たまごは私と狩りだ」
おぉ、葉摘が格好いい。助手君は運転手の老人を縛りあげ、口を塞ぎ、調理器具の入っていた布袋を頭から被せ視界を奪っていた。
「あとは彼女の仕事だ」
荒事に随分と慣れていらっしゃる。桜子とリーさんは向かって来る相手を二手に分かれ倒していく。
桜子は考えるより先に身体が動く。私も人の事は言えないけれど、しょっちゅう襲われてるので動じなくなるものだ。
桜子と共闘しているせいか、リーさんが張り切り過ぎてキモい。おっと、戦意を削ぐからぼやきは禁止だっけ。マヤの真似をして、脳天気に声援を送ろう。
────花見の宴を狙った襲撃は、敵陣営の壊滅で終わった。マヤを殺しても構わないとの指令が出ていたので、遠慮のない殺意と銃器が向けられた分、新人の能力が役に立ったようだ。
「それで、結局この運転手の正体はなんだったの?」
意識を取り戻した運転手は、情報を与えないために自害した。助手君が頭から袋を被せたのは視界を奪うためではなくて、グロい光景を見せない配慮だったようだ。記憶を脳から取られないために、頭を破壊する小型爆弾を埋め込んでいたのだとか。
「彼らは某国のエージェント達と組んだ、マヤとは別の異星人だよ」
花の咲いていない森から戻って来た葉摘が、私の疑問に答えてくれた。一人で隠れていた連中全て始末して来たんだね。なんだかんだ一番ヤバいのは葉摘だ。そして桜子もだ。蹴り一つで鍛えられたエージェントの筋肉を破壊するとか空手家もびっくりだよ。
「……マヤの騒いでいたのが、当たりだったわけね。マヤ、心当たりはあるの?」
木星人や土星人か。金星人とのたまうマヤを殺すのを躊躇わないあたり、敵対していた異星人には違いない。
「ん~~、滅んだ火星人の生き残りかもしれない」
適当だな。マヤはお姫様のようだし、武闘派でもないから知らないだけかな。会社に戻って金魚人達に聞けばわかるかもしれないね。
◇
雨がポツポツと降り出したので、私達は後片付けを早々に済ませて帰る事にした。リムジンは破壊されてしまっていたので助手君が別の車の手配を済ませていた。何気に有能だよ、助手の進藤啓斗君は。
「サプライズで、お花見お見合い会を催すつもりだったんだよ」
────助手君、いま何て?
こっそり逃げようとする葉摘の襟首を、桜子が捕まえた。葉摘が余計な事を企画したから招かざる客が来たのが確定した。
「助手君、企画概要の文言を見せてくれる」
葉摘が能力で妨害を試みるが、桜子がくすぐり攻撃をして防ぐ。渡されたリストには私と桜子の他にマヤの名前もあった。葉摘、アホだ。地位も能力もあり、頭もキレるのにどこか抜けてる。嬉々として情報を流せば、そりゃヤバい連中だって群がるよ。むしろ連中もバカじゃないから、罠を疑ったんじゃないだろうか。
裏切り者の運転手も、慎重に潜入行為を続けていたから見つからずに済んでいた。容疑がかかっても葉摘の能力を知っているのなら誤魔化す術はあるからだ。
「由希子のおかげで不自然な思考の羅列は、見破る事が出来るようになったのだよ」
得意気に話すけれど、私の中のうっかりさん認定は消えないよ。あと私はお花見がしたかったんだ。早急に雪山の別荘を復旧し、温泉で雪見と花見が楽しめるように要求するよ。暖炉の魔人の旨いおでん鍋を肴に、のんびり酒を酌み交わしながら……今度こそ桜子と恋バナをするんだ。
参加資格はぼっちのみ。葉摘と助手君、顔色の悪い二人は却下。リア充は死ねとは言わないけど、去れ。
それにリーさん、貴方は三日月堂の孫娘さんに惚れられて猛アタックを受けているはず。町の名物を絶やさぬ為にも、とっとと桜子は諦め跡を継いでほしいものだよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。なろラジ登場キャラクターたちはまた別な作品で顔を出すと思いますが、設定を詰めて人物をイメージして伝える文章力になってることを……願うばかりです。




