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第24作品目:エージェントのリーは、暖炉の前でたまごと静かに佇むことになる

 エージェントのリーは某国のスパイである。


 金魚人達の秘密を探るために、雪の降るとある町へやって来た。


 任務の内容は金星人のマヤが重宝する、元ぼやき事務員の社長秘書の誘拐だった。




 企画投稿時はその他〔その他〕作品でした。


・作品についての思いやお話しなどは後書きに掲載します。




 

 私は某国のエージェントをしていたリーという者だ。いわゆるスパイというやつだ。その中でも私は武力行使を伴う活動を中心に動いていた。


 武力を伴うといっても殴る蹴るの類いだけではない。破壊工作や要人誘拐などの実働部隊、それが私の所属する組織だった。


 私の紹介が過去形になるのは、作戦に失敗して死んだ事になっているからだ。


 ターゲットは金星人の社長が営むビール会社の女秘書だった。


 以前勤めていた会社から、逆ハニー・トラップを仕掛けてまで引き抜かれた優秀な人材のようだ。


 コード・ネームは「ジーコ」。サッカーの神様の一人の名前を付けるとは、なかなか興味深いものだ。


 それにしても……この女、隙がない。絶えず周りを気にしているせいで不用意に近づくと面が割れる。


 町中での行動は危険(リスク)がありそうだ。我々が機会を待つ間に、不要となった前の会社を潰す徹底ぶり。使える人材を確保するマッチポンプな手腕も冴えている。


 手を出してはいけない、とんでもない相手なのかもしれない、私はそう思い始めていた。


 しかし上層部は報告を無視し、強硬手段に出る。ジーコが雪山の山荘に黒いコスモスと呼ばれる部下と、二人きりで出かけるらしい情報を掴んだからだ。


 山荘には一応たまごの護衛がいるが、所詮はたまごだから問題ないと判断したようだな。


 ────総数二十六名。一般人を囲むのに随分人数を集めたものだ。一筋縄ではいかないと言う警告と、強硬手段を遂行する上層部の面子がせめぎ合った結果だろう。


 そして襲撃は失敗に終わった。実行部隊が侵入路を探す間に、山荘が爆発したからだ。計算されたかのように、爆発に誘導されて雪崩が起きた。


 ほくそ笑むジーコの影が浮かんだ。全ては彼女の手の内にあったのだとわかった。


 幸い私は部隊から離れていたので爆発には巻き込まれずに済んだ。それと帽子を被ったお地蔵さまの近くにいたため、雪崩に対しても無事やり過ごせた。しばらくこの辺りは立入禁止となるはずだ。


 ────私は埋もれた雪の中から這いずり出て、吹き飛んだ山荘の方へ向かう。既に真っ暗だったが、三日月の明かりを頼りにゆっくり進む。


 山荘は雪崩で建物が完全に倒壊していた。ただ残された暖炉の前で、静かに佇むたまごの姿がやけに美しく感じた。



 私は何も言うことが出来ずに、小さな炎をあげる暖炉の前に立つ。



 たまごは無言で、私にたまご酒を振る舞ってくれた。



 ────あたたかい。空腹と寒さに、染みるようなたまご酒。


 人の温かさに触れるのは、エージェントに加わる前────もう五年以上前か。


 作戦に失敗した私は、もうあの頃には戻れない。最後にたまごに会えて良かったよ。


 私は某国の誇りを胸に、人らしく己の生命を絶とうとした────その時だ。



 たまごがスッと差し出したのは……一本の串。


 暖炉の炎に焼かれ少し焦げ臭い。しかし串先の白い雪のような食べ物は、丸くフワフワ。甘く柔らかく蕩ける美味さ。

 

 そうか、祖国はもう私を必要としていないのだな────


 ────こうして私は老舗の三日月堂で、マシュマロを使った和菓子を作る見習いになった。

 お読みいただきありがとうございます。


 投稿時はシリアスな場面を描いたスパイものにするつもりでした。投稿していた、なろラジ企画作品の世界観がコメディよりなので、完全に切り離した作品にしないと駄目でしたね。


 加筆再掲載版には作中にワードが追加されてます。

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