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とある鉄路の模型列車  作者: Kanra
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キリシマ艦隊遭難事件

 学校を休んだ日、群馬帝国帝都防衛連合艦隊第4艦隊指揮官の三条神流が見舞いに来た。

「今日は霧降少将からの預かり品を持ってきた。」

 と言い、霧降から預かっていた物を渡した。

 それは、旧日本海軍の准尉の階級章だった。

「君は今日から、第4艦隊の准尉官である。まあこれはグリコのおまけってやつなんで、いつもつけろとは言わないが、連合艦隊所属メンバーの証しだから、大切に扱いたまえ。」

「―。」

「どうした?顔色が優れ無いな。今日は学校を休んだと聞くが。」

「三条少佐。キリシマ艦隊の遭難事件の詳しい経緯について、知っていたら教えてください。私は昨日、学校のクラスメイト全員に集団レイプされました。そして、今日は、また同じ目にあうのではないかと不安で学校を―。」

「つまり、キリシマ艦隊の遭難事件は、昨日君が受けたことと同じ事をされたキリシマ艦隊のメンバー全員が、集団自殺したのではないかと言いたいのかね?」

「そうです。」

「俺はキリシマ事件の時、連合艦隊には居なかった。当時は独断行動中で、長野方面へ進出していたからな。その後、俺もある事件があって連合艦隊に入ったんだ。だから、キリシマの事は霧降少将か、望月大佐が詳しいだろう。今度の土日、伊勢崎市の華蔵寺公園に来い。そこで、二人に聞いてみな。」

「はい。」

 その週の土曜日、三河は三条神流と情報士官である松田彩香と共に群馬県の華蔵寺公園にやって来た。

 松田彩香の姿を見て、三河は怯んだ。

「大丈夫だ。彼女は情報士官だ。倉賀野高校の連中とは違う。それに万が一なんかやったら刺殺するから安心しろ。」

「はい。」

 松田彩香は三条神流とは幼馴染みで、三条神流の連合艦隊加入に関しては彼女が勧めた部分も多いらしい。

 両毛線で伊勢崎に着き、伊勢崎からタクシーで華蔵寺公園に向かう。

 華蔵寺公園では霧降要が待っていた。

「グリコのおまけは貰ったか?」

 と、霧降要が言う。

「はい。右も左も解らない状態の私に、准尉官の階級を与えていただき感謝しております。」

「三条少佐は普段、多くを語らないが、指揮官としてはそこそこの腕を持っている。同じ新潟生まれだから、余計に親身になってくれるだろう。それより、君が聞きたがっていた、キリシマ事件のことだが―。」


 2012年元日。正月恒例のニューイヤー駅伝が群馬県の赤城山南麓で行われる中、連合艦隊は上信電鉄で初詣に出向いていた。その中には、三条神流の姿もあった。

「独断行動で今まで来たのでね。」

 三条神流はその一点張りだった。

「分かった。だがお前の今までの功績を鑑みて、精鋭ぞろいの我が第1艦隊にと思うのだが、仮メンバーという形であるからな。2月の長野遠征まで、第3艦隊所属傭兵士官と言う事でどうだ?それで、2月の遠征で入りたいと思ったならば、第1艦隊戦術指揮官として抜擢する。松田を差し置いてな。」

 霧降が最後の部分に笑いを込めて言ったら、三条神流も僅かに笑ったが、

「まあ、入るかって聞かれたら、入らないと答えるだろうけどな。」

 と言い返した。

 初詣を終えた後、新前橋で新年会をした連合艦隊は、終電時刻の1時間前に解散した。そして、キリシマ艦隊のメンバーは倉賀野へ帰るため、高崎線直通の両毛線に乗り込んだ。事件はその列車の車内で発生した。

「萬野の馬鹿め。付き合ってねえ奴を「リア充シートの二人」って余計なことを。おかげでまた三条ヘソ曲げたぜ。」

 と、金剛が頭を掻く。

 高崎から115系で前橋に向かう時、三条神流は松田彩香に誘われて件のリア充シートに座り、カラオケでの新年会で、

「リア充シートの二人。」

 と言われ、松田は照れたが三条神流は「ふざけるな」と、それに反感を買い、連合艦隊所属の意志がまた無くなってしまったのだ。

「でもさ、松田が三条を好きって噂はかなり前から上がっているらしいぜ。」

 比叡が言う。

「あのな。その、らしいでからかってヘソ曲げられたんだよ。だいたい恋愛関係でからかわれていい気になる奴居ねえだろ?」

 榛名が舌打ちをしながら言った時、優先席に座っていた女子大生が突然倒れた。

 霧島が駆け寄る。

「榛名、車掌を呼べ。心肺停止状態だ。比叡、心臓マッサージ。金剛は人口呼吸。俺は比叡と交代で心臓マッサージをする。」 

 第3艦隊は先日、上級救急救命講習を修了し、こういった事態の対処方法を学んだばかりだった。そのため、すぐに心肺蘇生法を実施する。

 榛名が車掌を呼んできた。しかし、列車は高崎問屋町駅を発車したばかりで、高崎駅で救急隊に引き継ぐという処置を取った。高崎問屋町駅へバックするには運輸指令への連絡等で時間がかかるのだ。

 高崎駅に列車が滑り込むと既に駅員と救急隊がAEDと担架を持って待機していた。

 後の事は彼等に任せた第3艦隊は後日、助けた女子大生は意識を取り戻したと聞き安心した。そして、女子大生とその家族から感謝され、群馬県知事と消防から賞賛され群馬県内で僅かにニュースになった。

 これにより、三条神流が連合艦隊に所属する意志を持った。そして、三条神流は霧降に対し、

「遠征までの間、第3艦隊に所属したい。その後も、出来れば第3艦隊に所属したい。」

 と言った。

 だが、その第3艦隊が話題になった1週間後から連絡が途絶えたのだ。

 2月11日~12日までの間、連合艦隊は長野県安曇野市に拠点を置く「クイーンエメラルダス艦隊」と対決する遠征を行う予定だが、行動計画が建てられず霧降は困ってしまった。

 連絡が途絶える直前、倉賀野高校でも第3艦隊の活躍は話題になった。

「まさか、上級救急救命講習がすぐに役に立つとは思ってもなかったが、ここまで話題になるのはな―。」

 と、霧島は言う。

 周囲をクラスの女子達に囲まれた状態だったが、構わず第3艦隊のみの会話をする。

「これでリア充シートの二人」って余計なことを言われた三条も連合艦隊に所属したいって言ってくれたらなおいいんだがな。」

「安心しろ比叡。奴は入る意志を見せたらしい。それも、第3艦隊への所属を希望している。」

「マジか金剛。しかし、こんな女子校に放り込まれた俺達の部隊に来てもな。倉賀野支部所属ってことになるぜ。精鋭揃いで高崎司令部直属の第1艦隊のほうが良いぜ。」

 と、会話していた所に、クラスのリーダー格である上原綾と水樹麗奈、そして松宮芽衣子が近付いてきた。

「新聞みたよ。誰かが携帯で撮った写真付きでね。」

 と、松宮が言う。しかし、その顔は不気味な笑みを浮かべていた。

「それがどうした。」

「服、脱がそうとしているね?」

「AEDのパットを付けるためにな。金剛がジャケットを脱いで被せたよ。」

 写真には、衣服を脱がせた上でAEDを付けようとする第3艦隊と駅員、救急隊の姿があった。また、駅員が常備品の毛布を持ってきている様子も写っていた。

「服脱がせたってつまり、レイプしたって事よね?」

 と、上原が言う。

 それに、クラス全員の女が反応して集まってくる。

「では服を脱がさずにどうやってAEDのパットを付けろと?」

「女の子の服脱がせて痴漢だよ!」

「目の前で人が死にかけているのだぞ。そんなこと言ってる場合か!」

 霧島が本気で怒鳴った。

「なるほど。それなら痴漢しても止むを得ない。お仕置きです!」

 水樹の一声を皮切りに、一気にクラスメイト全員が襲いかかってきた。

 この日、学校の地下壕に引きずり込まれ一晩中いたぶられた第3艦隊は生きる希望までも奪われてしまっていた。

 結果、霧島、金剛、比叡、榛名は気絶寸前までいたぶられた。

 キリシマ艦隊全員は苦しみから逃れようと、不登校になり、最終的に自殺を決意した。

 そのことを、霧降に伝えると、霧降は当然止めた。

「集団レイプされて死ぬなんて、お前それでも男か!?」

 と言う霧降に対し、

「私は辱められるまで辱められました。人命救助を行った結果です。今後何をやっても、この記憶は消えません。そして、これが原因で今後何も出来なくなるのならば、自殺したほうがましです。」

 と言った。

 必死に霧降はキリシマ艦隊を止めたが、キリシマ艦隊は猛吹雪の草軽電気鉄道の廃線跡へ突入し遭難、それから2日後に遺体が発見され警察や消防は事故死として扱ったが、霧降はそうだとは思わなかった。

 そして、連合艦隊の活動記録にはこのように記述された。

「今回のキリシマ艦隊遭難事故は事故ではなく事件である。これは集団レイプが原因で起きた事件である。近年、痴漢等の男性から女性に対する犯罪から女性を守ろうと言う動きが強いが、逆に女性から男性に対する犯罪から男性を守ろうと言う動きが無い。確かに女性を守る事は重要であるが、女性を守るあまり、男性に対する守りが無くなってしまうと、今回の事件のような事がまた起きるかもしれない。」


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