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とある鉄路の模型列車  作者: Kanra
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1日目終了

 1日目の全運転プログラムが終了した。

 明日の運転プログラムに向けて、三河は車両を入換。

「今日は例の「銀河超特急」は登場しなかったな?」

 と、霧降が三条神流に言う。

「ええ。あの列車は、明日の最後の運転プログラムである「終わらぬ鉄路」以外では使用しません。」

「ふん。「終わらぬ鉄路」ね。お前はそれを、身を持って知った数少ない鉄道ファンだな。「クイーンエメラルダス」との出会いでな。」

「あの人と出会って分かったのです。「鉄道は遠くの町と人を結びつける物である」と言うことに。」

「俺も、お前からその話を聞いて目が覚めた。私利私欲のために鉄道を追っていたが、それは間違っていた。俺達は鉄路の彼方にある、まだ見ぬ世界を求めて旅をし、永遠に終わることのない鉄路を駆け抜ける列車達の一瞬の姿を焼き付ける。それが、連合艦隊のポリシーだって。」

「ええ。もしも、あの人に会えなかったら、今の私はいないでしょう。」

 三条神流は教室の窓から、遠くに見える浅間山のシルエットを見た。

「それなら、どうしてエメラルダスに「好きだ」って言わないのよ。」

 松宮芽衣子が言う。

「もし、振られたらどうすればいい?」

「意気地なし。いつまで煮え切らぬ思いを載せて旅をするの?」

「―。」

「あなたも男なら、覚悟を決めなさい。」

 芽衣子が言うのを、松田彩香が止めた。

「私も、三条君と同じ思いよ。」

「どういうこと?」

 松田は、非常階段へ行く。

 そこで芽衣子に、

「私は、三条君が好きなの。」

 と言った。

「えっ―。」

「だから、三条君の気持ちが痛いほど分かる。好きな人に好きな人が居る。告白しても振られるだけだって。ずっと思いを伝えられずに居る。」

「―。」

「でもね、私は三条君の泣き顔を見たくないし、悩ませたくない。だから、遠くで三条君が幸せになるのを祈っているだけ。だから、あまりヤイノヤイノ言わないで、見守ってあげて。」


 三条神流は迷っていた。

 先日、南条美穂が高崎に来た時、彼氏と別れたと言い、その証拠として破壊したアルカディア号を見せた。

 だが、南条美穂に好きだと言ったところで、上手くいく自信がないのだ。

 事実、前に付き合った女が中国人の男に寝取られ、怒り狂った三条神流は女と中国人をボコボコにし、中国大使館に空きビンを投げ込んだ上で、うさ晴らしに秩父鉄道へ出かけたが、そこでマナー違反や撮影妨害をしてきた鉄ヲタと駅のホームで殴り合いの喧嘩になり、暴走して他の乗客に多大な迷惑をかけた上、最後はアニメのコスプレをしたおっさんをホームから線路に突き落として列車の運行を妨害し、秩父鉄道や鉄道警察隊等から警告を受けるというとんでもない事をしでかしたのだ。一歩間違えれば、列車往来危険や暴行罪等で逮捕されてもおかしくなかった。

 南条美穂と付き合ったら、また同じ目に逢うのではと三条神流は思い、告白すれば確実に成功する状況にも関わらず、告白出来ずにいた。

 三条神流は自宅で、EF63と189系特急「あさま」の整備をしていた。

 かつては碓氷峠を越えて信越本線を長野まで行っていた特急列車であるが、今は長野新幹線(北陸新幹線)に取って代わり、2両のEF63の力を借りて碓氷峠を越えた姿は過去の物になってしまった。

 三条神流は整備を終えると、部屋の片隅に箱に入れたまま放置していた物を引っ張り出す。

 それは、松本零士作品でキャプテンハーロックやエメラルダスが持っている重力サーベルだった。

 銃にもなり、剣にもなる武器で、松本零士作品の主な登場人物はこれを持っている。

 最も、銀河鉄道999が好きな三条神流は、重力サーベルよりも鉄郎が持っていた『戦士の銃』が欲しいのだが。

 三条神流は南条美穂に思いを伝える勇気が出ないままだった。

(どうせ振られておしまい。仮に上手くいってもまた同じ目にあって、今度は列車を壊す事もするだろう。そして、逮捕されるだろう。そうしたらどうすればいいんだ。)

 その日、三条神流に南条美穂からメールが来た。

 (カンナ。クリスマスかお正月は、二人で過ごそう。長野の冬は寒いから、カイロを持ってきなさい。そして、冬の長野の夜空は澄み渡っているわ。だから二人で、双子座流星群を見るのも悪くはないわね。カンナさえよければ、ずっと二人で居たいわ。)

 南条美穂からのメールに、三条神流は返信することなく、倉賀野高校へ向かっていた。

 一瞬、三条神流はこの誘いに乗って長野へ行こうと思ったが、また迷ってしまっていた。

 そして、自転車にまたがり、リュックには、「銀河超特急」と特急「あさま」の編成を入れ、前カゴにも鉄道模型を積み込み倉賀野高校へ向かう。

「あーっ。重い重い。」

 倉賀野高校に着いた時、三条神流は思わずつぶやく。

「大丈夫ですか?何か持ちましょう。」

 と、三河が言う。

「すまん。」

「エメラルダスさんの事ですが―。」

 三河が心配そうな顔で言う。

「今朝メールが来た。冬休み二人で過ごせないかって。」

「それで?」

「何も言ってねえ。」

「なぜ?」

 三条神流は理由を言う事が出来ず、

「霧降少将が、お前を下士官から部下を持つ事が出来る将校へ引き上げる事を考えているそうだ。准尉官であったからおそらく、少尉だろうが、これで仮にこの学校の女共がお前と一緒にいたいとか遊びたいって理由でなだれ込んだ場合、お前が試験問題を作っても良いことになるから、存分にやれ。」

 と、三河の今後について話した。

「それはありがたいのですが、エメラルダスさんはどうなるのです?」

「エメラルダスとは―。」

 三条神流は何も言えなかった。



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