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とある鉄路の模型列車  作者: Kanra
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試運転 松田彩香の淡い想い

 学園祭まで5日になった。

 倉賀野高校は学園祭一色になる。

 三河と芽衣子の鉄道研究部では、ジオラマが完成し学園祭まで試運転や訓練運転をする。

 最初は機関車一両での試運転である。

 機関車だけでの試運転は問題なく終わったが、その後の貨物列車の回送線入線試運転で失敗した。

 原因は、芽衣子が高架線となる回送線への勾配を急にしすぎたためであった。

「勾配が急過ぎで貨物が上がれないんだったら、他の列車も上がるのがきつい。どうりで昨日の機関車の時に機関車が空転するなと思った。」

 三河は言いながら、回送線の勾配を緩和させようとしたが、その時なぜ芽衣子が急勾配にしてしまったのか原因が分かった。

 ジオラマ中央の駅から左右に伸びる回送線の内1本はジオラマの内側の留置線に通じるが、このためには本線の高架線を越えなければならずそのために急勾配になってしまっていて、この勾配を登れなくなっていたのだ。

 勾配を緩やかにすると、本線の高架線を超えることができず留置線も短くなってしまう。

(東北循環線(上野東京ライン)だってこんな急勾配にはならないだろうが。)

 と三河は思う

「どうしよう。」

 と芽衣子。

「内側留置線外して外側留置線を増やすかな。でもそうすると中央駅付近で回送線に入る奴が渋滞しちまうし、ショートする可能性もあるな。」

「マジか。」

「こうなったら、内側留置線を高架線にするか。でも、短い列車しか入らないな。」

「なら、長い列車は外側留置線にいれて、内側留置線には短い列車や機関車を入れるってのはどう?」

「貨物列車やブルートレイン。客車列車はどうする?」

「バックで入れるか、機関車を切り離して機関車を内側留置線に入れて客車は入換機関車で外側留置線に入れるって感じでやってみよう。」

 芽衣子の提案を受け、実際に線路を組み治すが、今度は高架橋が足りない。

「こうなったら教科書でもノートでもなんでも積み上げちまえ。」

 と三河。どうにか出来たが、内側留置線は作業スペースの関係で7両編成分の有効長しか確保できなかった。


 修正した後、再度回送線の試運転を行った結果、今回は上手くいった。

 そして、ブルートレインや貨物列車もバック運転で回送線に入ることが出来た。

 留置線は、ジオラマの外側と内側に設けられ、外側留置線は15両編成から18両編成の列車が8編成。内側留置線には7両編成の列車が4編成入る。この外にも外側留置線には機回し線と機関車留置線も設けた。

 留置線の試運転を行うと、ジオラマでの運転プログラムの訓練と保線を学園祭当日まで行う。

 といっても、まだ連合艦隊の列車が持ち込まれていないため、手元にある列車だけで行う。

「いきなり運転プログラムから始めるから、最初の運転プログラムでは留置線から全部の列車が出てくるって事になるね。」

 と、芽衣子がプログラムのスケジュール表を見ながら言う。

「ああ。一番最初のやつが一番忙しいし、一番大変だ。変にポイント動かしてショートしたら恥じだ。入念にやっとかんと。」

 三河は言う。

「車両の入換も運転プログラムの時にやるんでしょ?」

「そうだ。」

「だとすると、急な車両変更が発生したりすることは?」

「チェック時に不調が見つかると、そうなることがあるな。」

「脱線したら?」

「当該線のパワーパックの電源を切った上で直ちに復旧させる。まあ、リレーラーレールが設置されているから脱線は無いとは思うが。」

 等と、三河と芽衣子は話しながら、運転プログラムの訓練運転を行う。

「あっ。」

 と、芽衣子が言ったのは、ポイント操作を間違えて回送線からの入換車両に別の列車を衝突させたからだ。

 この後も、芽衣子はポイント操作を謝り停車中の列車に別の列車をぶつける等のミスをしたが、その度、芽衣子は謝る。

「股尾前科って言われそう。」

 と、三河は苦笑いした。


「またか。」

 と、三条神流は松田彩香に言う。

 三条神流は彼女に呼び出され、二人で高崎駅のファーストフード店にいた。

 連合艦隊の技術士官松田彩香は先日、高崎駅の駅員が誤った案内放送をした事に対する謝罪が無い事に激怒した事をTwitterに載せたのだが、「お前おかしいだろ!」と言う声が殺到したのである。これ以外にも、松田は「ミスをしたことになんで謝罪がないの?」「ルール違反が優遇されて、正直者がバカを見るってどういうこと?」と言うツイートをしたが、それも同じ事をされた。

「いや、ミスをしたなら謝るべき。そして、謝罪をしない奴を庇うバカもおかしい。松田はおかしくないよ。」

 三条神流は言う。

「最近はどういうわけか、ルール違反やマナー違反が多いし、そういう人を優遇したり、ミスをしたのに謝らなかったりする奴が得するよね。」

「最近のテレビ番組見りゃ分かる。ほら、鉄道Big4ってキチガイが居るだろ?あいつら「ルールは破るための物だ!」って、車内で騒いだり、歩道塞いだり挙句の果てには列車妨害。それをおもしろ可笑しくテレビで取り上げる。それを見た奴らが「ルール守ってる奴はバカ」って思うんだよ。まあ、低脳な奴は低脳な奴同士仲良くどうぞ。」

 三条神流の言ったことに、松田は笑って答えた。

「そもそも、連合艦隊はお前みたいな奴等の集まりだろ。類は友を呼ぶって言うが、その通りさ。俺だって、正しいことするといつもお前みたいなことになる。だが、俺達には解ってくれる奴が居るだろ?そのための群馬帝国帝都防衛連合艦隊だ。」

「うん。ありがとう。」

 ファーストフード店を出ると、二人は両毛線に乗る。

 115系のドア横の席に二人並んで座る。

 件のリア充シートである。

「間違った案内したら、お客さん困るよね。」

「ああ。それもわからない低能野郎が鉄道マニアって、馬鹿じゃねえの?」

「でもよかった。三条君は分かってくれて。」

「バカ。んなもん常識だろが。」

 と話しているうちに二人の自宅最寄り駅の前橋に着く。

 三条神流は前橋駅に近い場所に住んでいるが、松田彩香は上毛電気鉄道の中央前橋駅の近くに住んでいるため、前橋駅から中央前橋駅へ行くシャトルバスに乗るので、ここで二人は別れる。

「じゃあな。」

「ありがとう。三条君。」

 松田は笑って言うと、バスに乗り込んだ。


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