C62
HONDAのディオZXに跨り、三条神流は倉賀野高校に着くと、三河と芽衣子が出てきた。
「今日の作業はもう終わりです。」
と、三河が言う。
「そうか。」
三条神流は言う。
「霧降少将と望月大佐もすでに帰りました。」
「そうか。なら、俺も帰るか。」
三条神流は言いながら、エンジンを掛ける。
「待って。」
と言ったのは芽衣子だった。
「あのさ。私、連合艦隊に入る事になる。三河君と付き合うから。」
三条神流は溜め息を着く。
「告白はしたのか?」
「えっ?」
「それは俺に言うんじゃない。三河准尉に言う事だ。俺に言ってどうするつもりだ?」
「―。」
「じゃあな。また何かあったら言ってくれ。後、月曜日だけど来ても大丈夫かね?」
「別にいいと思うけど―。」
「なんだ?」
「本当にいいの?連合艦隊に入っても。」
「いいんじゃねえ?それに俺も、好きな人が連合艦隊に入りたいって言っているし。」
三条神流は言う。
「エメラルダスさんですね。」
三条神流は空を見上げ、遥か彼方に見える浅間山を見た。
「あの人はエメラルダスではない。俺の姉だよ。」
三河が言うのに答えると、三条神流はバイクを発進させた。
バイクで倉賀野貨物ターミナルの入換線の終端部に行く。
(銀河超特急なんて、夢の中の存在。それでも、夢を持つ事はいいことだ。そして、俺は鉄道で旅をして大切な人と出会えた。三河も、新潟から群馬にやって来て、俺達と出会ったのだから、三河にも同じ体験をしてほしい。鉄道の旅の果てで、出会った人とのかけがえのない時間を。だが、俺のような軍国主義の人間になるか、倉賀野高校の女達に喰われるかは、三河の自由だ。そこまで俺が加担する必要なない。)
「銀河超特急」は三条神流が鉄道模型で生み出した列車である。
C62蒸気機関車が重連で15両の24系25型客車を牽引するブルートレインだ。
実際にC62はブルートレインの先頭に立った経験があり、特に常磐線を駆け抜けた寝台特急「ゆうずる」の先頭に立つC62は有名であるが、三条神流にとってC62と言うと急行「ニセコ」と言うイメージがある。
巨大な蒸気機関車C62が重連で函館本線を駆け抜けた姿は、現在でも語り継がれている。
三条神流は、倉賀野高校の学園祭に備え「銀河超特急」の整備をしていた。
牽引するC62の2号機と18号機は除煙板に特急「つばめ」を牽引した証であるツバメのマークが付いている。三条神流はこの機関車を「銀河超特急」の専用機関車としていた。
新潟で産まれ、3歳の時から高崎に住み、高崎機関区を出入りする機関車を見て育った三条神流も、三河と同じく機関車が好きな鉄道マニアになっていたが、その中でも、煙を盛大に吐き、汽笛を鳴らしながら驀進する蒸気機関車が好きである。そして、松本零士の「銀河鉄道999」の影響でC62が飛び切り好きになった。
2009年に高崎機関区のD51‐498が故障した際、JR東日本はJR北海道のC62‐3号機を購入して復活させる計画を立てたものの、JR北海道が出し渋ったため頓挫した時、三条神流は激怒したものだった。実際に動いているC62を見たことが無い三条神流にとってこの計画は、高崎機関区でC62を見ることが出来るようになる事を意味していたからだ。
結局、高崎機関区には伊勢崎市に保存されていたC61‐20号機がやって来た。
だが、C62には会えなかったが、鉄道の旅を通して出会った南条美穂との間には、友人以上の仲が芽生えいつしか恋仲をも飛び越えて姉と弟という関係になった。
(C62が高崎に来なかった代わりに、姉ちゃんと出会えたのだ。)
と、三条神流は思う。
それでも、三条神流は一度でいいから本物のC62が博物館ではなく本線上を驀進する姿を見てみたいと思っていた。そして、その横には南条美穂の姿もあった。




