用水路
気がつくと、三河が倉賀野高校に転校してきてから半年近く経っていた。
夕陽に照らされた倉賀野貨物ターミナルを見ながら、三河と芽衣子は歩く。
「知ってた?大きい蜘蛛ってほとんどが雌なんだよ。」
と、芽衣子が用水路に張られた蜘蛛の巣を指差して言う。
「へえっ。それは知らなかった。」
三河は答える。
「それにしても、鉄道模型ってあんなに大変なんて思わなかった。」
「そうだろ。」
「でも、霧島君達の夢だったからね。今はこの世に居ない。でも、三河君なら、霧島君は認めてくれるかな。」
芽衣子は言う。
三河は自転車を押しながら、
「それはどういう意味で?」
と聞く。
「いろいろな意味で。」
芽衣子は笑うだけだ。
二人が別れる場所である踏切まで来た。
ちょうど入換作業が始まった所で、DE10がタキ43000を押して踏切を通過していた。
「もうすぐ冬だから、ここで寝ていたタキが灯油を運ぶために動き出すんだね。」
と、芽衣子が言う。
倉賀野貨物ターミナルには、春から秋の間、石油を運ぶタンク車であるタキが数十両留置されている事がある。これは、灯油の需要が低い春から秋の間はここに留置し、灯油の需要が高くなる冬季の多忙期になると、点検整備の上で灯油を運ぶ臨時列車や増結車両として活躍する物だ。
「こっちも、貨物列車はコンテナだけって予定だけど、タキあるから石油列車も走らせるか。」
と、三河は言う。
「そうだね。それに、倉賀野貨物ターミナルはコンテナよりタキのほうが多いから、分かりやすいんじゃない?」
「機関車はDE10かな?」
「そうだね。DE10と電気機関車にしよ。」
「おっけ。連合艦隊にも言っとくよ。」
「ありがとう。じゃあ、明日ね。」
芽衣子と三河は別れる。
その足取りは軽やかだった。
三河の横を、DE10が単機で通過していく。
「なんだろうな。芽衣子の奴―。」
と、遠くに見える踏切を渡る芽衣子の姿を見た時、三河は呟いた。




