転校生
新潟からやって来たと言うより新潟から追い出されるように、上越線の普通列車に揺られて転校生は高崎に向かっている。
外は、冷たい雨が降る夜だった。
高崎に着いた。
高崎からは高崎線で倉賀野に行く。車両は211系だった。
倉賀野に着くと、そのまま住まいまで歩く。今日からは一人暮らしだ。
住まいに着くと、長旅の疲れというより、絶望感に襲われた。
ネットで知り合った「彼ら」には、上越線の車内で「明日の放課後待ち合わせで」とメールしてしまったため、今は独りだ。
絶望感の中で眠りにつき、眠い目を擦りながら、周囲の目を避けるように朝一番で登校。そして、クラスの担任や校長と対面した。
だが、それでもその時は来る。
担任に導かれるように教室へ向かい、合図があるまで廊下で待つ。
「さて皆さん。転校生が来ることになっています。」
と、若い女性教師の城山明美が言う。
「男の子!?女の子!?」
クラスメイト達が言う声が廊下にまで聞こえた。
廊下で一人、入っていいと言われるのを待つ転校生は、僅かな期待よりも不安な方が大きかった。
(なぜ俺がこんなことに―。)
と、三河日引は吐き気を覚えた。
「さあて、どっちでしょうか?」
城山明美は言い、
「さあ、入って。」
と、転校生の三河日引を呼んだ。
三河日引は黒板の前まで歩くと、黒板に自分の名前を書き、
「新潟県新潟第三高校から来ました、三河日引と言います。よろしくお願いします。」
と、挨拶した。
クラスメイトの反応を見る。
(まずい。俺はまるでジパングみたいな状況だ。親の都合で女子高のような高校に転校。男子はこの学校に一人だけ。更に言えば俺は、女子受けしない趣味を持っている。このことは何としても隠さなければ。)
三河は男子である。
女子高のような共学の高校に、ただ一人の男子生徒として転校したのである。
席に着く。
改めて周りの様子を見る。
クラスメイトは、目を疑うようにしながら、三河を見ている。
(みんな狐につままれたような面してやがる。だが、新潟には帰れない。こんなことになるなら、昨日の内に例の連合艦隊に顔見せすればよかった。放課後集合セヨってことにしなくて。)
朝のホームルームが終わる。
クラスメイト達が一斉に、三河の周りに殺到した。
(来やがった!)
「私、小林瑞希!」「私は有村夏奈!」
全員が自己紹介をしてくる。
しかし、堰を切ったように自己紹介されて対応できなかった。
「順番に言ってくれ。」
と、三河は言う。
「そんなに緊張しないの。」
と、一人の女の子が背後から手をかけた。
「私は水樹麗奈。よろしくね。」
「ああ。よろしく。」
三河はふと、クラスの端に佇む一人の女の子に目が止まった。
「あの、あの子は?」
「ああ。松宮芽衣子って言う子よ。呼んでくるね。」
「芽衣子!呼んでるよ!緊張しないでおいでよ。」
松宮芽衣子は、オロオロしながら三河の所に来た。
松宮の携帯のストラップに、三河は目が止まった。
(D51‐498のナンバープレート。)
それを見たとき、僅かに絶望感は消えたように思えた。