芽衣子の変化
「艦隊各艦へ告ぐ!」
霧降要からの一斉送信メールが三河の元にも来た。
「群馬DCのラストを飾る「SL重連レトロみなかみ」へ出撃する。現在の連合艦隊の総力決戦となる。各員奮励努力セヨ。」
三河は自宅でカメラの整備をする。
三河は気合いが入る。
出撃は9月25日。
群馬DCのラストは、なんと秩父鉄道のC58‐363がC61‐20と重連で旧型客車を牽引するのだ。
群馬DCの間に、三河はすっかり群馬の鉄道に馴染んでいた。
特に、群馬を走るSLの迫力と姿には心を奪われた。
「新潟より、こっちの方が凄い。」
と、三河は言う。
「これが群馬帝国だ。またの名を、群馬帝国国有鉄道。新潟や東京ではまず有り得ない迫力と魅力で全てを圧倒するのだよ。」
三条神流や霧降要といった連合艦隊上層部の者は、群馬の鉄道に魅せられた三河の姿を見てこう言った。
だが、出撃直前の9月23日だった。
「二人で出かけたい。」
と、三河に言ったのは松宮芽衣子だった。
「俺は土日予定がある。日曜日、連合艦隊と共に行動するのだがそれでもいいなら。」
「ダメ!二人で!」
「しかし―。」
「連合艦隊と私、どっちが好き?」
「何故そんなことを聞く?どうせまた、嬲り者にしようって事だろ?付き合ってられん。何が日教組だ。何がPTAだ。何が男女共同参画社会だ。アホな大人の事情でこんな目にあってる奴には、連合艦隊しか居場所がないんだよ。」
三河は言い放つ。
この日、三河はカメラの調整のため放課後、倉賀野貨物ターミナルで入換作業を撮影する。
踏切から踏切へ駆ける三河を、自転車で無理矢理止めたのはクラスメイトの水樹麗奈だった。
「どけよ邪魔だよ!」
「何よ!芽衣子の気持ちも解らないクセに、偉そうにしないでよ!」
「なんだと?ぶっ殺されてえのか?」
「芽衣子は本気なのよ!本気で三河君を思ってんだよ?」
入換線を、DE10がヤードに向かって走行する。
「鉄の固まりを追いかけて、何が楽しいの?」
三河はこの発言に更に反感を買った。
「女?鉄道が鉄の固まりなら、テメエらなんか肉の塊だ。」
麗奈はいきなり三河に平手打ちをした。
「何すんだこの野郎!」
「一回でいいから、芽衣子と向き合ってよ。芽衣子には私が言っとくから、日曜日、芽衣子も連れて行きなさい。」
「俺は断った訳では―。」
言いかけた時には、麗奈は自転車にまたがって帰路に着いてしまった。
「やってらんねえぜ。」
と、三河は舌打ちをした。
土曜日。芽衣子はコンビニのバイトを終えて、水樹麗奈と帰路に着く。
「芽衣子。明日、三河君と―。」
「連合艦隊と一緒だと、絶対喧嘩になる。」
「霧島君達の事?」
「うん。私達、三河君に対して仲良くなってもらいたいとか、親睦を深めたいって思って集団レイプとかやってたけど、そのために三河君は連合艦隊に逃げ込んで、麗奈に怒鳴ったり、冷たくなったりしたんじゃない?実際、霧島君達のことだって、面白半分で拷問してその後不登校になって、最後は事故で死んじゃった。このままだと、三河君も―。」
芽衣子はうつむく。
「だからこそ、連合艦隊と行動を共にした方がいい。本当は仲良くしたいって事を伝えるためにも。」
「この前の高崎第一で散々ヤジ飛ばして、その後連合艦隊は大喧嘩してたじゃん。今更、仲良くしたいって言うのも無理よ。特に、三条君なんか、私が霧島君を殺したって思ってるし。」
と言った時、三河からメールが来た。
「明日のことだが、俺は別にいい。一応、霧降長官も許可している。だが、三条少佐は真っ向から反対している。よって、作戦中の勝手な行動は禁ずる。君はオブザーバーだ。」
と言う内容だった。
「来てもいいって言ってるなら、行きなよ。」
「でも―。」
「不安なら、私も一緒に行くよ。」
「大丈夫よ。早く帰って支度しないとだ。それで、明日伝えるわ。」