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無言の抵抗。それが効く相手でもなく。いつ、戻ってきたのか、と仕方無く僕が口火を切る。昨日さ、昨日、帰ってきたてなんだよ。やつは笑う。お帰り、親友。ただいま、相棒。挨拶を交わす。かれこれもう数年の付き合いになるだろうか、僕の唯一にして無二の親友。彼は発作的に途轍もなく強い破壊衝動にかられてしまう。物だろうが人だろうが他人だろうが自分だろうがお構い無しに。傷つけ壊し徹底的にうちのめす。僕は完璧に傍観者を勤める。手を出すことも出されることもなく。彼と知り合って程無く彼は発症した。
発作は余りに圧倒的で、彼は世界中の病院と言うよりはむしろ研究所をたらい回しにさせられた、らしい。あるいは次々と破壊しては別の場所に連れて行かれたといった方が正しいのだろう。この既に壊れきった親友がどんな行動にでるかなど想像に難くない。久々の再会。何があったのかなど聞かずとも予想できる気がする。というか、単に日本に戻りたくなっただけのことだろう。彼は言う。聞いたぜ、お前人間食ってるんだってな、どうだ、味の方は?平然とアイスを食べながら言う。僕もアイスを食べる。別に…、只欲求を満たしてるだけだから。
ひんやりとした冷たさが心地よい。冷蔵庫に入ってるよ、と勧めてみたが彼はベジタリアンなので丁重に断られた。しばらく思い出話に花を咲かせ多愛のない会話を交わす。やがて彼は飽きてきたのか外に遊びに行こうぜと言いだした。彼は常に前を向き外を見る。仕方無い。脱ひきこもり。しばらくぶりに出てみると、世界はただ、混沌としていることには変わりなく、しかして僕には一片の感慨ももたらさなかった。彼は公園内の並木道を歩きながら言う。だんだんとたまらなくなってくる。視界の中も外も視界すら壊したく成ってくる。芸術さ。
30分程して店を出た。大量の酒を買い僕の家に戻る。僕らはかなりな酒豪なのだ。ちまちまと瓶を開け飲んでいると、彼は突然僕が今日会った少女について述べた。少女についてと言うよりはむしろ彼女のとった行動について。彼はひどく羨ましいという。衝動ではなく、計算し尽くされた計画に則った行動。更に提案する。取りあえず殺してみよう。了解。即答。僕ははっきりと理解した。僕らは狂っている。遠足の様に楽しい話しに酒が進み、もう恐らくは引き返せないところに来てしまったのだろう。電池が切れたようにそのまま昏倒した。




