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第47話:最高幹部たちの共闘 〜聖女排除作戦〜

 魔王城「パンデモニウム」の緊急会議室。かつては人間界侵攻の軍議が行われていたその場所に、今は魔王ルナリスを中心に、将軍バルバラ、参謀メルヴィ、諜報員ゼノビア、そして筆頭カサンドラが集結していた。

 全員の顔には、共通の「危機感」が色濃く刻まれている。その原因は、他ならぬ聖教国の聖女セレレスであった。


「……看過できぬ。あやつ、今朝もアルベルトの『おやすみの回診』に紛れ込み、聖水で彼の寝所を清めるなどと称してベッドに潜り込もうとしたのだぞ!」

 ルナリスが机を叩き、憤怒のあまり角を赤く発光させた。


「俺のトレーニング中にも現れた。アルベルトが俺の筋肉を調律メンテナンスしている横で、『不潔な接触はやめなさい』と叫びながら、神聖魔力で俺とアルベルトの間に割り込んできやがる……。あの女、神の名を借りたただの略奪者だ!」

 バルバラも、自慢の鎧を軋ませて拳を握る。


「あはは……。僕の図書室も、聖女様の放つ『浄化の光』のせいで、文字が薄れて読みづらくなっちゃったよぉ。……それに、執事さんに『懺悔ざんげ』を聞いてほしいって、密室に連れ込もうとするしねぇ」

 メルヴィの言葉に、影の中からゼノビアがぬらりと現れる。

「……あたいの影も、あの女が通るたびに白く焼き切られるんだ。……アルベルトの背後が、一番危ないよ……」


 規律の番人であるカサンドラが、重々しく口を開いた。

「……結論は一つです。あの聖女、セレレスは魔王城の『調和』を乱す不純物。……エドワード王との和平は守らねばなりませんが、彼女個人を執事から引き剥がし、本国へ叩き返す、あるいは再起不能なまでに『教育メンテナンス』する必要があります」


「異議なし!!」

 最高幹部四人の声が、一点の曇りもなく重なった。

 普段はアルベルトの「独占」を巡って互いに火花を散らす彼女たちだが、外部からの「聖なる略奪者」という共通の敵を前に、ついに魔王軍史上初となる【最高幹部合同・執事防衛戦線】が結成されたのである。


 その頃、当のアルベルトは、ルナリスの命令により「城内全体の空気管理」のために地下の魔力炉へと向かわされていた。……それが、幹部たちによる「聖女誘き出し作戦」の一環であることも知らずに。


「……さて。作戦開始だ。……聖女をアルベルトに近づけさせぬよう、まずはあやつの『信仰心』という名の壁を、魔王軍の流儀で粉砕してやろうではないか」


 ルナリスの不敵な微笑と共に、最高幹部たちによる「聖女排除作戦」が幕を開けた。


 聖女セレレスは、自室にて至福の時を夢見ていた。魔王軍の幹部たちが急な会議で席を外した隙に、一人で魔力炉の点検へ向かったアルベルト。その「無防備な執事」を神聖な光で包み込み、今度こそ自分だけの聖職者として再定義する――その妄想に、彼女の敬虔な祈りは淫らな独占欲へと変質していた。


 しかし、彼女が地下回廊へ足を踏み入れた瞬間、その「聖なる計画」は無残に打ち砕かれた。


「……遅かったな、聖女。貴殿の浅浅しい策略など、この俺の野性の勘ですべてお見通しだ」

 暗闇から現れたのは、磨き上げられた白銀の鎧を纏う将軍バルバラであった。彼女は抜剣することなく、ただその圧倒的な「武」の威圧感だけでセレレスを壁際へと追い詰める。

「なっ……将軍!? なぜここに……。私はただ、アルベルト様の不浄を浄化しに……」


「浄化だと? 笑わせるな。貴様がアルベルトの指先に触れたいだけなのは、そのいやらしい目を見ればわかる」

 バルバラが放つ殺気は、聖女の神聖結界を物理的に軋ませた。さらに、反対側の壁からは参謀メルヴィが、無数の数式が刻まれた魔導書を片手に現れる。

「あはは。……聖女様、君の脳内、今すごい不潔な演算でいっぱいだねぇ。……執事さんに甘えたいなら、まずは僕たちがアルベルトさんに施された『教育しつけ』を、君も受けてみるかい?」


 メルヴィが指を鳴らすと、廊下全体の魔力重力が数倍に跳ね上がり、セレレスはその場に膝をついた。

「……く、何をするのです! 私は聖教国の使者ですよ!」

「規律違反の略奪者には、相応の処置が必要です。……エドワード王への報告は、『聖女様は魔王城のあまりの清潔さに感銘を受け、修行に没頭されている』としておきましょう」

 筆頭カサンドラが、冷徹な事務手帳を閉じながら宣告する。


 そして、最後の一撃は影の中から訪れた。

 ゼノビアの影がセレレスの足を縛り、彼女の神聖な魔力供給を完全に遮断したのである。

「……アルベルトの背後は、あたいの特等席なんだ。……横取りする奴は、影の底で永遠に掃除をしてもらうよ」


 最高幹部四人に完全包囲され、魔力を封じられた聖女。彼女が抱いていた「執事を救い出す」という傲慢な正義感は、魔王軍の圧倒的な、そして狂気じみた「執事愛」の前に、見る影もなく崩壊していった。


「……あ、ああ……。なんてこと……。この城の女たちは、皆……あの方に、魂まで磨かれて……。……いいえ、羨ましい……。私も、私もあの方に、あんな風に……強引に管理されたい……!!」


 排除される恐怖を、自らの変態的な渇望へと変換し始めた聖女。それを見た最高幹部たちは、引き攣った笑いを浮かべた。

「……おい、ルナリス様。この女、やっぱり普通の方法じゃ追い出せませんよ」

 バルバラの声に応じ、廊下の奥から魔王ルナリスが、アルベルトを伴って姿を現した。


 アルベルトは、地面に這いつくばる聖女を一瞥し、深々と溜息をついた。

「……やれやれ。皆様、私がいない間に、これほどまでに『不潔な喧嘩』をなさるとは。……主人の品格が損なわれるのを防ぐため、私が仲裁に入らざるを得ませんね」


 アルベルトはセレレスの前に跪き、彼女の乱れた法衣の襟を、白手袋の指先で冷徹に正した。

「……聖女様。貴女の望み通り、今夜、徹底的な『再教育』を施して差し上げましょう。……ただし、魔王様と、最高幹部の皆様の『監視下』で、です。……一人だけ特別扱いなどという、非効率な管理はいたしませんので」


「あ、あああああッ!? 皆の前で……お世話……!! 最高のご褒美です、アルベルト様ぁ!!」


 ルナリスはアルベルトの腕をぎゅっと抱きしめ、最高幹部たちに向けて勝ち誇ったように宣言した。

「……見たか! 結局はアルベルトがすべてを整えるのだ。……さあ者共、この不潔な聖女を連れて行け! 今夜は、アルベルトによる『最高幹部合同・聖女強制メンテナンス』の夜会とする!」


 魔王軍最高幹部たちの共闘は、聖女を追い出すことには失敗したが、代わりに彼女を「執事の管理下にある新たな獲物」へと変えることに成功した。

 魔王城「パンデモニウム」は今や、聖女さえも取り込み、世界で最も過酷で、最も甘美な「秩序の迷宮」へと、さらにその深みを増していくのであった。


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