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少女Aは愛されない  作者: 大木戸いずみ
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5 自己紹介

 私はゆっくりと男性の方へと顔を上げて、彼の顔を見つめる。

 とても穏やかな表情をしている。……初めてしっかりと彼の顔を見る。

 助けられた時は、意識が朦朧としていて「綺麗な人」という印象しか受けなかったが、よく見てみれば、男性というより少年という雰囲気だ。顔も幼さがある。

 ……じゃあ、最初に見た彼の姿は一体何だったんだろう。

 視界が少しぼやけていたし、頭も回っていなかったけれど、立派な大人の騎士に見えた。

 

 私の目がおかしくなっちゃったのかな?


 思わず私は目をこすって、もう一度彼を見つめた。

 やっぱり少年だ。……幻覚でも見てたのかな? 

 あの時は死にかけていたし……。けど、きっと彼は素晴らしい騎士になると思う。正義感が強く、人望があり、実力のあるカッコいい騎士になるに違いない。

 

 気付けば私の涙は自然と引っ込んでいた。

 彼は私と目を合わせるようにかがんでくれた。


「俺たちの言葉が分かる?」


 私は彼の質問に小さく頷く。

 容姿で私が異国の者だということはすぐに分かる。

 ……それでも受け入れてくれるんだ。髪も真っ黒だし、目の色も……。

 その瞬間ハッと思い出し、私は長い前髪を掴みしっかりと目を隠すようにした。

 もともと目を隠す為に前髪を伸ばしていたんだ。……見られていないよね?

「呪われた瞳」、「穢れている」という嫌悪感のこもった言葉が頭の中で響く。

 

 顔の傷も全て丁寧に手当されていた。頭にも念入りに包帯が巻かれているのが分かる。

 手当する時に瞳を見られたかもしれない。そんな不安が一気に押し寄せて来る。

 心臓の音がどんどんうるさくなっていく。

 ……眠っていたから、目の中までは見られていないことを祈るしかない。


「名前は?」


 え、と思わず声を漏らしてしまう。あまりにも想定外の質問に、髪を握る手の力を緩めてしまう。

 まさかこの流れで自分の名前を聞かれるとは思わなかった。

 戸惑っている私に彼は先に自己紹介をしてくれた。


「俺の名前はアシル。アシル・ナイトリー」

 

 外国の人の名前だ、と思った。

 自分の名前を思い出すことはできないが、私のいた場所ではそんな名前の人達はいなかった。

 言葉、外見、文化、そして名前さえも異なる。

 本当に違う国に来ちゃったんだ……。しかも、なんだか不思議な世界。


「……アシル」

「そうだよ。君の名は?」

「…………分からない」


 頑張って思い出そうとするが、何か遮られるように自分の名前が思い出せない。

 記憶喪失、というよりは何かが私が記憶を思い出すことを邪魔しているように思えた。


「どうやってここに来たか分かる?」


 アシルが少し困った顔をして、質問を変えてくれた。私はまた首を横に振る。

 気付けばゴミ袋に入っていた。

 いつどうやってゴミ袋に入れられたのか全く思い出せない。ただ、ゴミ袋に入れられたということは私は「不要品」だったということ。

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