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3.魔導師殺し

 結局。僕達はその晩、教会に泊まる事になった。マチルダちゃんとお母さんをゆっくり二人で過ごさせようという話なのだけど・・・。何故か今、僕は一人だけで ― 嫌な予感がするよね? ― 奥方様に呼ばれて向かい合って座っている。


「さて、カイル。其方(そなた)には尋ねなければならない事があります。」

 あ、何か懐かしい感じ、冷たい声で、「何でもお見通し」って雰囲気だ。お城に居た頃にはこういうの、良くあったよね?思わず背筋か伸びちゃう。

「はい!何でありましょうか!」

「私の従者に其方が使った魔術の事です。」

「あっ!」


 やっぱりお小言だ!誤解があったせいだし、もう一度同じ様な事があってもやる事が変わるとは思わないけど、良くない事をしてしまったのには違いない。

「申し訳ありません。その、ルーかマチルダちゃんを狙った人攫いだと思って・・・酷いことをしてしまいました。従者の方のお具合はいかがなのでしょう?」

「ええ、念の為に今は休ませていますが、大事は無いでしょう。」

「・・・念の・・・為?大事?」

 やっぱり、雲行きが怪しい。これはかなり盛大なお小言を頂く前触れなんじゃないかな?どうしよう・・・


「其方はあれが何と言う魔術が知っていますか?」

 うう・・・こういう真綿で首を絞めるような質問を重ねられるのはイヤだなぁ。そりゃまあ知っているから使える訳だけど、事前に知られてしまうと相手をびっくりさせる効果が落ちてしまう。手品のタネを知っている人が少ないからこそ役に立つのだから・・・ここは模範解答でご理解願うしかないよね?

「え・・・その、すみません。お答えできません。あの、秘密じゃないのかもしれませんが、僕の口から説明してはいけない事になっているんです。」


「それは誰の命令なの?」

 眼光が輝いて僕を射抜く、うう・・・さっき礼拝堂の外で涙が光った時にもちょっと思ったけど、この人、光源と自分の位置関係を全部把握して自己演出していない?理屈が分かっていても凄い効果だけど、僕にも義務というものがある。

「それも・・・言う権限を与えられてはいないのです。申し訳ございません。」

 僕の返事に奥方様の顔色が変わり、食いしばった歯の間から軋むような言葉が漏れ出てくる。

「こんな・・・子供に・・・一体・・・誰・・・が。」

 え?何で?怒っている、凄く怒っているよ!どうしよう?どうしよう?


「あ、あの!すみませんでした、湖や川には子供を引きずりこむ怖い怪物がいるし、宿屋や酒場がある港の方にも子供を攫って遠い国に売り飛ばす人攫いが居るって、鋳掛屋さんに聞かされていたし、・・・あの、それに、最近は家の近くに用も無いのにうろつくよそ者が増えたって、井戸端で洗濯している時に近所の女将さん達が言っていたし・・・」

 僕の口から言い訳になっているような、なっていないような言葉が流れ出る。お城で悪戯がバレた時の常套手段だけど、それも奥方様の次の言葉で吹き飛んでしまった。

「それで・・・貴方はあの魔術で私の従者を殺すつもりだったの?」

「へ?」


 僕の口から間抜けな音がこぼれ落ちる。人を殺せるような魔術が使えるようなら、飛竜から逃げ出してこんな遠い国に来る必要なんて無かった。この方は一体なにを言っているのだろう?

「・・・あんな魔術で人が死ぬ訳ないじゃないですか。びっくりさせて、その間に逃げ出すための魔術ですよ?一番ひどい失敗をしても僕が死ぬだけです。今回もちょっと火傷しちゃったけど・・・」

 僕が話している間に、一瞬で、奥方様の顔から表情が消える。両手がすぅっと伸びてきて僕の両肩をがっしりと掴む。痛い。

「カイル、あの魔術はね、【魔導師殺し】というの。言葉の代わりに心に刻んだ象徴(イデア)を使って、言葉も無く一瞬で相手の体温を奪って死に至らしめる、暗殺者の魔術なのよ!」


 魔導師殺し?暗殺者?何を言われているのか分からない。何で奥方様の目から涙が流れているのかも分からない。

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