11. 復活!僕達のスローライフはここからだ!(いや、まだ終わらないよ?)
今日は昨日の失敗を糧に、子供達に紙代わりの教材を作る日だ。
まず、基本的に魔術は使わない、まだ、魔力も回復しきっていないしね。割れ窓を直した銅貨がまだ少し残っているので、ゲベルにお願いして材料を買ってきてもらう。
「・・・それだけあれば、もう魔力を使い果たす様な事はしなくても良くなるのか?」
「はい。急いでもいませんので、お仕事帰りでも構いません。」
ゲベルはしばらく前に仕事を初めて、朝食後に出かけ、夕食前に一度帰ってきた後も食後には再び出かけるようになっている。
日当の他に卵やベーコンを持ち帰ってくるので、食卓はいささか彩りが良くなったと思う。今朝も朝食前にマチルダちゃんが「ベーコン♪ベーコン♪」と謎な歌を歌って、王子様と二人椅子の上で踊り出したので、おばあちゃんに「お行儀が悪いですよ。」って叱られていた。
食べ始めてからもマチルダちゃんは「ベーコン大好き!ピンクのもそもそよりもずっと美味しい!」と宣言するのだから、以前に比べれば鋳掛屋さんの食卓は良くなったのかもね。
「ああ、ミートローフかあ、大人はみんな美味しいって言うけど、ベーコンの方が美味しいよね?」
って言ったら、王子様もマチルダちゃんも元気にうなずいていた。大人たちは何だか変な顔をしていたけど。苦いものや辛いものみたいに、大人になったらミートローフも美味しく感じる様になるのかな?
* * * * *
ゲベルにお願いした材料はその日の昼過ぎには手に入ってしまった。商店の店員さんと、職人の徒弟さんがわざわざ鋳掛屋さんまで届けに来ててくれだんだ。届けてくれたのは嬉しいけど、何故か二人とも期待に満ちた目つきでおばあちゃんの出した炒り豆をお茶請けにハーブティーを飲んで一息いれている。おばあちゃんも「ごゆっっくり。」とか言って無理に帰そうとはしていない・・・というか、長居するのが当然だと思っているみたいだ。僕が不思議に思っていると。店員さんの方が流暢に話し出した。
「はじめまして、お目にかかれて光栄です。古着の他、針や糸まで商っております。町中では「古着屋」と呼ばれておりますのでお見知り置きを。この度のご用命、ありがとうございました。」
ええ?な・・・なんで、若いとはいえ立派な大人が、僕みたいな子供にこんな丁寧な挨拶をするんだろう?僕がびっくりしていると、隣の徒弟さんも続けて話し始める。
「は、はじめまして、石工のジンですっ。あの、えー、頼まれたスレートを持ってまいりましたっ。お父つあん・・・じゃない、親方からは不満な事が無いかよく聞いてくる様に言われてますっ!」
なんだか緊張している徒弟さんを見ていると、こっちまで緊張してきたよ?一体どうすれば良いんだろう?
「・・・はい。」
僕が答えるのを待って、店員さん – 古着屋さんって呼べば良いのかな? − が身を乗り出して話し始める。
「先日は木工工房に洗濯板を教えたカイルさんが、また何か「良い物」をお作りになられると伺っておりますが、先々の事を思いますと私共にもそれがどの様な物か見せて頂きたいのです。まことに不躾なお願いではありますが、お聞き入れいただけないでしょうか?」
ああ、自分のお店が木工工房みたいな災難に遭わないようにしたいんだね?そんな心配は要らないと思うし、これから作るものは実用性の無い子供の玩具みたいなものだから、商売上の期待をさせてしまったのかも、うーん。
「あの、今日作るのは子供が文字を練習するための道具で、洗濯板みたいに欲しがる人は居ないと思うんですけど。」
「文字の?屋根を葺く石と擦り切れたフェルトの屑で?」
「本当に大したものじゃ無いんです。スレートの面を粗く磨いて白っぽくしたら、水を含ませたフェルトで文字が書けますよね?石が乾けばまた文字が書けますし、子供が文字の練習をする時に羊皮紙や木の板は使えないので、それの代わりなんです。」
「なるほど、古くなって油っ気も抜けたフェルトなら良く水が染み込みますね。でも、手でフェルトを持つのでは、あまり使い勝手は良くないのでは?」
「ああ、細い適当な木・・・薪に使うような物を2本使ってフェルトを挟み込もうと思うんです。一緒に持って来てもらった麻糸で縛れば良いかなって。棒の片方だけフェルトをはみ出す様にしておけば、ちょっと太いですけど羽ペンみたいな持ち方が出来ると思います。使う前には水を入れた桶か甕に放り込むだけなので、子供が使うのにも簡単かなって。」
「・・・なるほど。子供の手習いには良さそうなアイデアですね。」
古着屋さんからは及第点が貰えて良かった。・・・と思ったら今度は徒弟さんが聞いてくる。
「スレートは割れやすい石です。わざと傷を付けると割れやすくなると思いますよ?」
流石は本職、僕が気づかなかった事を言ってくれる。
「確かに、それは気づきませんでした。色が黒っぽくてどの家にも屋根の補修用に2、3枚は置いてある手に入り易い石だし、薄いから子供が持てる重さになるので飛び付いてしまったんです。今日は魔術でなるべく細かくて浅い傷になるようにして見ますね。」
「魔術・・・あの!見たいです!!・・・じゃなかった、魔術じゃないとその細かい傷って作れないんでしょうか?」
「いえ、ちゃんとした道具があれば大丈夫だと思います。ええと・・・馬やロバに使うブラシの毛を硬くて細い鉄の棒に変えたような物があれば良いかもしれません。・・・ああ、同じスレートを砕いた砂で磨いた方がもっと良いかもしれませんね。」
「ああ、磨き砂・・・なるほど!凄いですよ坊ちゃん!」
ふう、良かった。徒弟さんからも及第点を頂けたよ。
「では、そろそろ作ってみませんか?麻紐を使う所は私がやった方が良いでしょうし。」
古着屋さんが手伝いを申し出てくれたのでご厚意に甘える事にする。
「ありがとうございます。宜しくお願いいたします。」
徒弟さんも慌てた様に言ってくる。
「あ!あの、俺もお手伝い致しますっ!」
スレートの大きさを調節するのに魔術を使わないで済むのはとっても助かる。本当に嬉しい。
「ああ、魔術を使い過ぎると怒られてしまうので、本当に助かります。」
「いえ、あの、お役に立てて光栄であります!」
・・・なんだか、お城の兵士さんみたいな事を言われてしまった。なんだか自分が兵士の隊長さんにでもなったような気がする。うふふ・・・って何時もこれで失敗してるんだよね。失礼な事をしないようにしなくちゃ。
* * * * *
なんと、結局僕はスレートの表面を白っぽくなるように魔術で荒く磨く以外の全部の作業を古着屋さんと徒弟さんにしてもらう事になってしまった。
気になる使い勝手もまずますと言ったところだ。雨の日には中々乾かないだろうけど、なんといっても天気の良い日しか開かない青空教室なんだから問題無いよね?
手作業に慣れている大人が難しい部分をやってくれたので、ほんの3時間程で生徒の人数分の石板とフェルトの水ペンが完成してしまった。・・・古着屋さんの強い指の力や、「強く締めすぎると水を含まなくなりますねぇ。」とか言いながら事も無げに調整してくれる技術が無かったら、麻糸でフェルトを挟んで固定するのは難しかったかも。徒弟さんのお陰で魔力もあまり使わないで済んだし。
「お二人とも、今日はありがとうございました。手間賃も払えないで申し訳ありません。」
僕が感謝と謝罪の言葉を告げると、古着屋さんがにこやかに答えてくれた。
「いえいえ、今日は私共もよい勉強をさせていただきました。このお礼は必ずさせていただきます。」
「魔術、凄かったです!これからもよろしくですっ!」
逆にお礼を言われてしまったよ。良い人たちだなぁ。
帰る前におばあちゃんが、もう一度ハーブティーをふるまってから、お二人は帰って行った。戸口で別れの挨拶をする僕とおばあちゃんの後ろでは、王子様とマチルダちゃんが既に石板に向かって楽しそうにフェルトの水ペンでなにやら書き込んでいる。うん、作って良かった。明日の青空教室が楽しみだね!




