10.失敗しちゃって一回休み。
「うーん。」
今、僕は悩んでいる。近所の子供達を相手に「カイルお兄ちゃんの青空教室」はだんだんと盛況になってきて、ついに生徒は王子様とマチルダちゃんの他に7名を数えるまでになった。いよいよ鋳掛屋さん家の裏庭では手狭になってきていて、今日も子供達が文字を書くだけの地面が足らない状況だった。
本当は紙とペンが有れば理想的なんだろうけど、紙どころか木の板すら無いのではどうしようもない。
町中では、字の書けそうな木目の詰まった木というのは色々な生活道具に使われる万能素材として、一切の無駄が無く製作され、利用され、修理を重ねて重ねて・・・最後はまた別の道具に作り替えられたりする貴重品なのだ。洗濯板を作ろうとして木工職人さん達が失敗した木の板も、ちゃんと何かしら別の道具に再利用すると言っていたしね。
生徒たちの使うだけの板を買おうとすれば、結構な出費になりそうだし、今でも自宅の庭でとれた香草くらいしか授業料が出せない生徒のお母さんたちに負担を求める訳にはいかない。
紙も木の板も駄目となれば、ああ、お城に居た頃王子様が持っていた「おはじき」みたいなものに字を書いて、それを並べていくのはどうだろう?数が必要だから、石を加工するのは難しいかな?つくづくしょぼい魔力しかないのが恨めしいよ。けど、土とか粘土とかならどうだろう?ふむ。
裏庭の土に少し水を加えて捏ね、直径4センチ、高さ1センチ・・・より少し大きいかな?ってくらいの平たい円筒形にする。雑草の茎をペン代わりに上面に文字を一つ書いてみる。それらしい形にはなったけど、さて、どうする?
・・・まずは火の元素を呼んでみるかな?
「火よ!」
途端に泥から湯気が立ち上り、僕の手のひらが一気に熱くなった。
「あちっ!あうぅ・・熱い~!!!」
声を押し殺して呻く。ふーっ、ふーっ。いやはや、火傷しそうになったよ。火の元素に呼びかけるのは慣れてないから、どれ位熱くなるのかも分かってなかった・・・。思わず放り出してしまった泥の塊が冷めるのを待って拾い上げる。少し水分が抜けただけだね?失敗失敗。次に行こう!
では、水の元素はどうだろう?・・・試すまでも無いか、水気が抜けてパサパサの土に戻るだけだね。
そうなると、風の元素はどう「作用」を指定して使ったら良いのか見当もつかないし、やっぱりここは最近のマイブームである土の元素に呼びかけるべきだよね・・・でも、どうやって?
割れたガラスの様に、ぴったりくっつけた面だけを「範囲」にするのとは違う、土の塊全体を指定して細かい粒子を結び付ける必要がある。魔力が足りるかなぁ?まあ試してみよう。
「土よ!結び付け!」
・・・うん、泥の塊が灰色で湿った素焼きのカワラケみたいになったよ。硬いけど粘り気が無いね。使った魔力はよくわからないけど、石の板から洗濯板を作った時よりもたくさん魔力を使ったと思う。うーん。
しばらく考えてみたけど、ほかの方法も思いつかないし、やってみるしかないよね?どうせ僕の魔力なんてたかが知れているし、使い切ってもすぐに回復するはず。まずは文字を一通り作るところからやってみよう!
* * * * *
・・結局、裏庭の土から文字を3組、数字を5組作った所で僕は意識を失ったらしい。目が覚めたらゲベルから久々のお説教を受けてしまった。
「カイル!子供が気を失うほど魔力を使ってはいかん!気を失う場所によっては危険な事もあるんだぞ?」
何だか大人からお説教を受けるのは久しぶりかも?お城に居た頃は3日に一度は悪戯がバレたり、色々失敗したりして怒られていたよね?
「・・・すみません。」
なんだか元気が出ない。何かをしようという気持ちが湧いてこないんだ。ああ、王子様はもっと大変なんだろうな。もっと王子様の為に頑張らないといけないのに・・・ここ暫くは、新しく来た子供達ばかりに気を取られて、あまりお世話が出来ていなかった。・・・反省しないと。王子様ごめんなさい。
「とにかく今日はゆっくり休め。勉強会も中止だ。」
ゲベルに言い渡されてしまったが、勉強は毎日の繰り返しが大事なんだ。向学心に燃えているあの子供達の熱意を冷ましてはいけない。
「・・・あの、子供達には、僕の作った文字の書いてある「おはじき」で遊んでもらってください。」
「あれか、・・・うーん。・・・まぁ、裏庭から出さなければ大丈夫かな?わかった。モディ女史に話しておこう。」
おばあちゃんにお願いしておけば大丈夫だね。よかった・・・。
今日は失敗しちゃったけど、明日は別のやり方を試してみよう。またちょっと良さそうなアイデアが浮かんで来たし、今度はなんだか上手くいくような気がするな・・・




