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7. お洗濯を笑うものはお洗濯に泣くのだ!

 あれからさっさと一週間が経った。そう、この世界はにはちゃんと7日で1回りの週があるんだ。7日目が安息日なのも一緒。まあ、神様も教会もあるんだから当然なのかもね。12か月で1年だし、確か50週位で1年だったはず。細かい事は誰かに聞こうとは常々思っているんだけど・・・いつも忘れちゃうんだ。莫迦だよね。


 鋳掛屋さんの娘さんともすっかり打ち解けて、やっと名前を教えて貰った。マチルダって名前なんだってさ。信心深い家の娘さんらしい良い名前だよね。

 王子様ともすっかり仲が良くなって、長めの(まき)を持ってゆっくりと素振(すぶり)りをする王子様と一緒に(ほうき)()ったり、僕が地面に文字を書いて読み書きを教えているのに付き合ったりしてくれている。・・・ていうか、僕が教える前に文字は知っていたみたい。今は(つづ)りのお勉強で、林檎(りんご)とか、玉葱(たまねぎ)とか身近な物の名前を王子様と一緒に地面に書いてる。うむうむ、仲良きことは美しきかな。

 王子様は数字は好きだけど、文字の読み書きはあんまりやりたがらなかったのに、一緒に学ぶ人がいるだけで随分熱心になった。段々元気になってきたみたいだし、この調子で行こう!


 そうそう、割れ窓直しのお仕事は、この1週間に3回注文があって、大人の手のひらサイズのガラス板を7枚ほど修理した。どれもこの町の教会の神父様経由の注文だ。

 ここ暫く町中を回っている鋳掛屋さんが、割れたガラスを取り外して持ってきてくれて、それを僕が直すという手順だ。僕はすっかり自分で客先に行くのだと思っていたからちょっと残念だけど、なんでも町中には子供が近づかない方が良い場所もあるとかで、人さらいとか、湖や川の怪物とか、色々怖い話を念入りに聞かされてしまった。僕はそんなに怖くないけど、王子様や女の子も居るんだからあんまり怪談風な話はしないで欲しかったよね。コワクナイヨ、ホントダヨ。


 ・・・とにかく。大人の手のひらの大きさのガラス1枚は買うと銀貨3枚から5枚位 ― 銅貨なら300枚から500枚! ― はするらしいけど、ガラスを直す代金はどれ位が良いのかは僕にもゲベルにも判らなかったので、神父様にお願いして決めてもらった。

 ガラス板を1枚を直すと、お客さんは銅貨で50枚支払い、その内銅貨5枚を教会に、10枚を町を治める代官様に、5枚を鋳掛屋さんに渡して、僕達の取り分は銅貨30枚なのだそうだ。

 ガラスの取り外しや取り付けまでやっている鋳掛屋さんの取り分は、もう少し多くてもいいんじゃないかと思うんだけど、「町中を回る仕事のついでにやるだけですよ。」と言われてしまった。うーん、この有り余った感謝の気持ちはご家族に何か良い事をして返すしかないよね?


 それに、ガラス7枚分の収入、―全部で銅貨210枚、銀貨で2枚位! ― を使って王子様の下着等を買おうと思ったら、鋳掛屋さんのおばあちゃんが、「服を買うなんて勿体(もったい)ない!私が()いますよ。」って言ってくれたんだ。

 そこでゲベルとも相談して、王子様以外にも僕とゲベルと鋳掛屋さんのご家族みんなの分の下着用の布や針と糸を買ってきてもらった。

 おばあちゃんは張り切って新しい下着を()ったり、古い下着を雑巾や、クッションの中身とか建物の隙間風を防ぐ詰め物に変身させたりで大活躍だ。普段でも家事で忙しいおばあちゃんは、日のある内はずっと忙しくしている。


 そんなこんなで、現在僕は忙しいおばあちゃんを助けるために、家事手伝いに燃えているんだ。掃除はもちろん、水汲みやお洗濯も頑張るぞ!

 ・・・って思っていたんだけど、掃除は1本しかない箒をマチルダちゃんに先に取られてしまうし、水汲みはゲベルが楽々と済ませてしまう。残ったのはお洗濯なんだけど・・・これが・・・結構大変なんだ。


 洗濯は近所にある共用の井戸の周りで活発な御婦人達が足で踏んだり、手で揉んだりして賑やかにやっているんだけど、筋力も体重も無い僕が同じようにやっても中々キレイにならないし、とにかく時間がかかる。

 おばあちゃんの隣で黙々と頑張っても僕が王子様の下着を一枚洗う間に、おばあちゃんは大人の下着を4枚位洗い終わっている。これでは手伝っているのか、遊びで邪魔をしているのか分からない。


 いや、自分にお洗濯の才能が無いのは知っていましたよ?昔は王子様のオムツ洗いに何度も挑戦して、その都度、手痛い敗北を喫したものです。なんでウチの母さんはあんなに早く洗えるのか、何か魔術でも使っているんじゃないか、とか考えた挙句に、剣を砥ぐ「砥石(といし)」の魔法をちょっと変えて・・・王子様のオムツをフワフワした綿毛の(かたまり)にしてしまったのは苦い経験です。その後も「落ち葉(おちば)あつめ」の魔術で水を・・・いや、もう思い出すのは止めよう。安易な魔術頼みが破滅的な結果を生むのはもう身に染みて分かっている。ここで必要なのは発想の転換だ!魔術が駄目なら技術があるよね?きっと、多分、めいびー。


 さて、ここに取り出しましたのは石の板。町のあちこちに転がっているあの白い石の剥落(はくらく)した破片から、なるべく薄くて大きいものを選んで拾ってきました。ホントは木の板の方が向いているんだけど、町中では見当たらないし、まあお試しってことで気にしない事にしちゃう。これを魔術で加工するのだ!ばばーん!

 石を良く見る。よーく見る。基本的に石英や長石っぽい粒々の間にキラキラ光る白雲母が混じっている。多分、花崗岩とかいう石だよね?黒い粒々が入っているのは前世でもよく見たけど、これには黒雲母とかは混じってないみたいだ。なんでこんなものが湖畔の平坦な土地に林立しているのか分からないけど、有る物は有難く利用しちゃうのだ。ふっふっふ。

 魔術の「範囲(はんい)」を慎重に定める。省エネならぬ省魔力には欠かせない部分だ。「(はたら)き」は水晶を結び付けたのとは逆の()きほぐす力だ。

(いし)よ、(わか)れよ!」

 音もなく円弧を描いた細い石が板から分かれて落ちる。うん、良さそう。続けてどんどん行こう!


 ・・・暫くして、出来上がったのは子供サイズで不格好な洗濯板だ。額の汗を拭って顔を上げると、井戸の周りのご婦人方がみんな僕の事を見ている。え?どうしたの?な・・・なにかしちゃった?

 助けを求めておばあちゃんを見ると、おばあちゃんはにっこり笑って言った。

「カイルちゃん。何を作っているの?」

「え・・・ええと、洗濯を楽にする道具?あの、石とか削るのは良くなかったでしょうか?」

「大丈夫。みんな魔術なんてめったに見ないから驚いただけですよ。」

「す、すみません。」

「何も悪いことじゃないわ。カイルちゃんが作ったのはどうやって使う道具なの?」

「ええと、こうやって洗うものを乗せて、(こす)るんです。本当はもっと大きくして、木の板で作った方が良いんですけど。石だと布が傷みやすいかもしれません。」

「あら、面白いのね。ちょっと使わせてもらってもいいかしら?」

「は、はい。どうぞ。」

 その後、僕の洗濯板はご婦人方の間を使われながらゆっくり回っていった。僕の・・・洗濯板・・・。


 そして翌日、町の木工職人の親方が鋳掛屋さんまで訪ねてきて、僕はそのまま拉致されたのだった。

急な残業で遅れました。ごめんなさい。でも書きたかったんだよー!

・・・明日も大変かも。

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