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後悔はなんだった?  作者: 木嶋うめ香


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15/27

第15話ささやかな努力でも積み重ねていくと決めた

「お嬢様、朝でございます」


 そっと耳元に声を掛けられ、私の意識が浮上する。


「お嬢様、お目覚めになれませんか。もう少しお休みされますか?」

「ジョゼット、もう朝なの?」

「はい。今までより早いですが、お嬢様のご希望通り朝食に間に合うお時間でございます」


 朝食に間に合う、朝から皆と一緒に食べるために間に合うように起きると、昨日ジョゼットと決めた。

 これが努力の第一歩だと眠い目を擦り、無理矢理に体を起こす。


「おはよ。お父様とお母様は?」


 眠くて目が開かない。

 半分眠った状態で、ジョゼットに両手を伸ばしベッドから下ろして貰う。

 ベッドが高すぎて一人では下りられないのだ。


「お手洗いはいかがいたしますか」

「行く、あっ」


 眠さにふらついて、ジョゼットに支えられてやっと目が覚める。


「ありがとう」


 なんとなく思い付きでお礼を言ってみた、夫は使用人によくお礼を言っていたと昨日思い出したのだ。

 私には不思議に思えたけれど、使用人たちは嫌がっていなかったことも思い出したのだ。


「い、いえ。とんでもございません」

「ふぁぁ。眠い」


 慌てるのは分かっていたから、なにも反応せずあくびをして終わらせる。

 手を引かれてお手洗いに向かい用をすませて部屋に戻ると、パティが着替えの準備をしていた。


「ここはいいから、食堂にお嬢様もすぐ朝食を取られると伝えに行ってきて」

「はい。お嬢様おはようございます」

「ん、おはよ」


 まだ眠気が抜けずにあくびをしながらパティに挨拶する。


「あ、ありがとうございます。では食堂へ行って参ります」


 ギクシャクとした動きで部屋を出ていくパティが何に驚いていたのか、考えて挨拶かと気が付いた。

 おはようなんて、以前の私は使用人に言ったりしなかった。

 使用人からの挨拶にただ頷くだけ、それが当たり前だった。

 でも夫は確か誰にでもおはようやお疲れ様と言っていたと思う、関りは殆どなかったのにそういう些細なことを覚ているほど私は彼を見ていたのだと思う。


「今日のリボンはどちらをお使いになりますか?」


 ワンピースに着替えて鏡の前の椅子に座ると、ジョゼットがリボンの入った箱を持ってくる。

 綺麗に並べられたリボンは、幼い頃の私のお気に入りだった。


「ワンピースが緑だから、このリボンがいい」


 緑色の地に黄色く花の刺繍がされている幅広のリボンを二本選ぶと、ジョゼットは馴れた手つきで私の髪を左右に分けて三つ編みをしてリボンで飾る。

 動きが活発だった幼い頃の定番の髪型だった。


「では食堂までお連れいたします」


 まだ眠くてふらふらしているから、ジョゼットは私を抱き上げて部屋を出る。

 ジョゼットの体温と抱き上げ歩く振動が気持ちよくて、私はまたうとうとしてしまう。

 これは子供だから仕方がないのか、私の体が怠惰に慣れているからなのか分からないけれど、多分後者だろう。


「ジョゼット」

「はい、お嬢様」

「お兄ちゃまはいらっしゃる?」


 自分ではしっかり話しているつもりでも、半分眠った体は思うように動かない。

 ジョゼットは兄の部分のみ聞き取れた様で「早起きされたことをきっと誉めてくださいますよ」と、見当違いな返事を返してきた。


「いい子になるの」


 自分自身にいい聞かせないと、眠りの中に落ちてしまいそうで何度もぶつぶつ呟きながら食堂へと向かう。

 食事中に話せる機会があったら、夢の話として作り話をするつもりだった。


 お祖母様が夢に出て来て、必要だから早く学べと言われたと。

 それだけを繰り返し言われたのだと言えば、昨日の治療魔法と合わせて考えてくれるのではないか。

 それでも無理なら、一人でこっそり練習を進めていかなければならないと考えていた。

 何故もう一度ミルフィーヌの人生を繰り返しているのか、戻った理由も戻った方法も分からないけれど実際に私は以前の記憶を持ったまま過去に戻ったのだから、私は新しい人生を生きるための目標を『兄様を死なせない』と決めた。

 兄様のためにいい子になり、怠惰な自分を叱咤して魔法の勉強だけでも精一杯して、兄様の窮地を私が救う。

 それが昨日の夜、ベッドの中で一人出した結論だった。


「お嬢様、食堂に着きました。お一人で歩かれますか?」

「うん」


 目をこすり何とか意識を保って、床に足をつけた。

 誰にも疑われないように三歳の子供を演じながら、お祖母様の話をする。

 以前の様な学び方では、兄様を救うには力が足りない。

 ジョゼットの怪我を治した時のように数回魔法を使っただけで倒れてしまうのでは、魔力量が少なすぎるし魔力循環も魔法操作も上手くいっているとは言えないからだ。

 以前の知識があってもこの体はやはり三歳の子供、能力もそれなりにしかないのだ。

 兄様の生死に関わるのだから、絶対に失敗出来ない。絶対に。


 緊張を隠しながら私は、ジョゼットが開けた扉から部屋の中へ歩みを進めるのだった。

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