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正五角館の日常  作者: 青空森
嬉野と歩田の画策

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嬉野と歩田の画策3.2

 温水で流れた汗をシャワーで流す。脱衣所で髪を乾かしながら、嬉野とSOSを外へ発信する方法を考えた。

 ドライヤーの電源を切る。コンセントを抜いて元の場所へ戻した。

 僕は壁に埋め込まれたパネルを見つけて、操作しに行く。

「紙を流すなら防水性は不可欠か」

 それは最初にイメージしたときに浮かんだ課題だった。

「カプセルで防護するとかなのかな」

「中に光を入れて、分かりやすくするのもありだよな」

 僕は「どこの誰にメッセージを届けるか、か」とつぶやいた。

「どんな内容を発信するかもポイントだぜ」

「いろんなパターンを想定してもいいかも」

 もし海外だとしたら、英語でのテキストを考える必要があった。それも確率的な話であって、この場所が英語圏にあるとは、誰も答えていない。

「流田さんは、この場所が日本にあるって言ってたんだっけ」

「断言までしていたか?」

 そう言えば、近い場所と曖昧に言っていたような気がしてきた。

「急ぎすぎたかな」

 僕はブレーキをかける。深呼吸をして頭だけは冷静にさせた。

「まずは状況の整理だろうな。今から紙にSOSを書いて、排水溝から外へ流す」

 パネルの操作を一旦止め、耳だけを傾けた。

「中にはライトを入れて目立つようにする」

 ライトの具体的なイメージだけ固めて思い出せるようにしておいた。

「紙に書く内容は要相談って感じか」

 単純な話だった。僕は「ありがとう」と言って、視覚情報を切る。

「問題は紙になんて書くかだな。目下の課題はここだけだと判断しているが」

「多分、嬉野」

 僕は笑みを返した。

「毎日、違う情報を流していけば、どれか一つは当たると思ってる」

 パネルでライトを探していた。もし情報を書き込んだ紙とライトをカプセルで流した場合、ライトの重みによって、カプセルが浮かなくなる可能性がある。

 電池の持続時間、発光量、水に浮くという条件を考慮する必要があった。これは最大値をとれば済む話なので、システムに検討してもらった。

 カプセルの大きさを問われる。

 確かに。

 教科書に出てくるような、電池をいれて発光する機能しかない回路のライトを、僕はいくつか適当にオーダーしておいた。

 カプセルは直接、展示エリアへ見に行くことにした。カプセルに穴が空いている可能性や、材質によって重量が想定よりも重くなるなど、イレギュラーを避けるためだった。

「へえ、こんなのもあるんだな。ガチャポンか」

 嬉野が手に取ったのは、球形のカプセルだった。

「直感的にはよく水に運ばれてくれそうだよね」

 そう言って僕は、逆? と首を傾げる。抵抗、面積の最小化、最大化、水の流れる速度、質量、いろんな条件が浮かんできて考えるのを止めた。

「これとかどう」

 僕は球形の中でも一番小さいものを選んだ。

「これとかもいいよな」

 嬉野は円柱のカプセルを手に取る。近くに袋かカゴを探した。プラスチック製品の繋がりで、買い物カゴが置いてあった。

 パッと見で良さそうなものをサイズ、形状、問わず、カゴへと並べていく。

「こんだけあればいいだろ」

「豊作」

 僕はカゴを揺らして、カプセルの音を鳴らした。

「あとは詰め込む紙だけど」

 そう言って、「学術エリアにパソコンとコピー機があったような」と嬉野に伝えた。

「図書館じゃないか?」

 そう言えばそうだと、途中でUSBメモリを拾って、図書館へと向かった。

 嬉野と二人で文章作成画面を眺めていた。図書館の中でも事務室のような一室にコピー機とパソコンがそろえてあった。

 文章作成ツールを開き、文字サイズ、紙サイズを整えていく。

「ごめん、嬉野、オーダーからハサミを注文できる? 最終的には紙を切り取ることになると思う」

 嬉野は画面のレイアウトを確認して「了解」と言った。その間に、印刷後の文字サイズとレイアウトを確かめた。コピー機から硬い音がして、紙が印刷される。

 問題なさそうだった。

 嬉野がちょうど戻ってきたので「なんて書く?」と質問した。とりあえず、言語は日本語のつもりだった。

「正五角形の建物、監禁、救助、とかどうだ?」

 僕は嬉野の言った言葉を八等分させた枠へ入力し、ペーストした。この内容で一度、印刷しておいた。

「この建物が正五角形でなかった可能性とかどう」

「四角とかか? でも、それだと」

「いくらでも可能性が考えられるって言われてる」

 僕たちはこの建物を内側からしか見ていない。外側から見たとき、この建物の姿は正五角形をしているのだろうか。

 そんなことを考える。

「抽象的にするしかないのかな」

「大きい建物、監禁、救助、とかな」

 僕は嬉野の冗談に吹き出す。

「いや、でも、本当にそうするしかないかも」

 僕は、建物の特徴として、百パーセント一致させられる条件を探した。正五角形、むしろそれ以外の情報を伝達して、一つの建物に特定できるイメージが湧かなかった。

 建物の面積。一辺の長さを調べて、幅を測定すれば、面積は出せるかもしれない。しかし、それで特定できるのは、建物が周囲にほとんど存在しない場所に限っての話だった。

 僕はテキストを戻していき、最初に嬉野が提案した文章を追加で四枚ほど印刷した。


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