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A Romantic Irony:女の子××ってそうだったので、生き方を改めることにした。(分割版)  作者: すけ
第三章

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第二十九話 体育祭

 梅雨入り前後、崩れつつある天候にも恵まれた晴れの日。

 西東南高等学校体育祭は、昼休憩を挟んで、ある意味でメインイベントでもある応援合戦と、吹奏楽部のパフォーマンスを行い、午後の部に突入するところだった。


 競技には特に出番のない蒔絵は大半の時間を本部端の実行委員テントに控え、雑用をしながら過ごしていた。『森のくまさん』は午前中に無事終了した。一部の女子から、表情が数パターンある手作りのくまさんの玉に関して問い合わせがあったらしい。


「はー、万事滞りなく進行中……何かイベント起きないかなあ。野良犬の乱入とか」


 赤い鉢巻きを締めた、実行委員長の玉城が椅子に座ってそんなことを言う。

 午前の部の百メートル走を運動部の男子みたいな速度で駆け抜けていたはずだが、まだ元気が有り余っているようだ。最終競技のスウェーデンリレーにも出るらしいが……。


「なんだよその昭和の小学校みたいなハプニング。脱走犬ならともかく、野良犬なんて平成の早いうちによっぽどの田舎でももう消えたでしょうよ」


 立ったまま腕を組んで会場を見回していた晃誠が呆れたように言った。

 こちらは午前競技のフィナーレ、全校男子有志精鋭による棒倒しに参加し、若干くたびれた姿だ。

 白い鉢巻きに、ネームと背番号――要するに出席番号だが――付きのクラスTシャツも、土埃にまみれた跡が残っている。Tシャツの前面には学年、クラスと「今日だけみんな仲良し」のハートマーク。


 棒倒しは全校男子競技となっているが、基本的には二年生が中心だ。三年は今さら下手な怪我をして受験勉強に差し障りが出たら問題だし、一年は体格と闘争本能に恵まれた逸材以外は、まず二年生の希望者が優先される。


 目の前のこの男子はそうした競技に喜んで参加しそうなイメージはなかったが、クラス委員長の相田をはじめ、同じ白組の知人に頼まれたらしい。社会性のない晃誠を疎ましく思っている生徒は多いものの、『和して同ぜず』といったタイプのごく少数の男子生徒とは淡白な付き合いがあるようだった。

 人間関係の政治的力学と直接関わりのない立ち位置が、人によってはある種の気安さや気楽さを生むのかもしれない。


『次の競技は女子による借り人競争、“人借り行こうぜ”です。お題にはぜひ積極的な協力をお願いします』


 放送部によるアナウンスが流れる。


(魅恋ちゃんこれに出るんだっけ……)


 思わず入場門側に親友の姿を探す。


 あれから魅恋との間のわだかまりはだいぶ解消された。

 ふと、晃誠の視線を感じて彼に視線を向けると、一瞬目があって、思わず顔を逸らしてしまった。


「お、いたな。てか第一かよ……」


 慌てた様子もなく入場門に視線を転じた晃誠がつぶやく。

 参加者達の列の先頭組に魅恋の姿があった。二年のE、F組は白組なので、E組の魅恋もFの蒔絵達と同様の白組だ。


 そして、第一レースがスタートする。魅恋はいきなりトップに躍り出た、ただの短距離走であればほぼ確実に一位だっただろう。


「魅恋ちゃん、普通に走る競技の方が早いんだけどね。小学生の頃、市の陸上大会に推薦されて出場してたし」

「へえ、なんか意外だな――って、なんでこっちに来るんだよ」


 お題のカードを拾った魅恋が、まっすぐこちらに駆け寄ってきていた。


「実行委員! 実行委員! 誰か! っていうかまきちゃん!」


 頭上でカードを振り回しながら、声を上げて走ってくる。


「はあい汐見さん、ご指名だよ」

「ええっ――もう!」


 玉城に尻を叩かれ、蒔絵は魅恋に向かって駆け出した。




「お疲れさまぁ」


 魅恋と手を繋いで一位でゴールし、テントに戻った蒔絵を玉城が出迎える。

 こちらを見る晃誠の頬が若干ゆるんでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「競技には出なくて済んだと思ってたんですけどね……」


 まあまあ、と玉城がねぎらってくる。


「んっ……?」


 続くレースを見守っていた晃誠が怪訝な声を上げた。

 蒔絵も視線を追うと、小柄な女子生徒が、お題のカードとこちら――実行委員テントを見比べながらオロオロしている様子だった。見覚えがある娘だが――。


『あーっと、どうしたんでしょうか。何か難しいお題に当たってしまったのか――』


 トラック側に控えていた放送部員が、放送席の実況を受けて女子生徒に駆け寄り、何事か話しかけて手元のカードを確認する。


『――はい、お題の確認ができました。“金髪の男子”、“金髪の男子”です。これは我が校ではほぼ名指しだと思いますが……!』


 全校の視線がこちらへ――正確には目の前にいる少年に集まったような気がした。


「あのさあ――! やめろよそういう当たった子が気の毒なネタ仕込むの! 可哀想だろ!」


 晃誠は血相を変え、腰に巻いていたジャージの上着を椅子に叩きつけると、まっしぐらにトラックへと飛び出していく。


『あっ、来ました! 金髪の王子様が駆けつけます!』

「うるせえ!」

『王子様、ガラが悪い! 怒鳴られてしまいました! 後が怖いですが、私は放送部実況としての責務を優先しようと思います!』


 晃誠が走りながら拳を振り上げ、放送席を指さして罵った。その様子を見た玉城は手を叩いて大喜びで笑っている。


「玉城先輩、お題の出案に関わってましたよね……」

「うん。チャンスがあれば実行委員も絡ませていこうと思って」


 蒔絵の問いに、玉城は目尻の涙を拭いながら悪びれた様子もなく頷いた。


「実行委員もちょっとは表に出て欲しかったからねえ」

「これはさすがにピンポイント過ぎませんか……古峰くんが休んだり嫌がったりしたらどうするつもりだったんです?」

「休むのはともかく、あの子にここで駆け出さない選択肢はないと思うけどね――古峰くんは、そっとしておくにはちょっと勿体ない子だと思わない?」


 そう言ってウィンクしてくる。


「まあ、それでも一応用意はしてたよ」


 ウィンクを蒔絵の呆れた目つきで撃墜され、玉城は横の用具箱から金髪のウイッグを取り出すと、指を引っかけて軽く振り回す。


「これを久瀬くんあたりに被って控えてもらっておいても良かったし、なんなら私が被ってネタに走っても良かったしね」

「まったくもう……」


 蒔絵はため息をつく。

 視線を転じると、トラックでは晃誠が女子生徒に速度を合わせながら、その手をひいてゴールしたところだった。

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