ようこそ野球部1
1週間の部活体験期間が終わり、いよいよ今日から正式に女子野球部の部員としての活動が始まる。
野球に対するモチベーションが保てるかまだわからないがそれより気になるのはあの日以降1年生同士でぎこちないままの距離感は解消されてない事だ
ただでさえ今は好きでもない野球をやるのに人間関係で悩まされるようなら早々に退部も考えるかもしれない
そんなどうしようもない気持ちのまま一弓は女子更衣室のドアを開ける
学校のグラウンドの隅に2部屋2階建ての建物が2つ並んで建っており、片方が男子運動部の更衣室、もう片方が女子運動部の更衣室になっている。
女子更衣室の他3部屋は女子バレー部、女子バスケットボール部、陸上部の女子部員が其々使用しているらしい。
一弓が更衣室に入った時には既に他の1年生3人は着替えを始めていた
「一応説明しておくとここがウチらの部室って事になってるんだ。まぁ部室っていっても着替えにしか使わないんだけどね。ミーティングとかは多目的室を借りてやるよ」
じゃあグラウンドで待ってるから、とキャプテンが部室から出る。
1年生4人が残されたが誰1人会話をすることなく黙々と着替え、終わった順に部室を出た
グラウンドにつくとそれぞれ部員がキャッチボールをしたり談笑したりしていた
一弓が中学の頃所属していたリトルシニアの強豪チームでは考えられないほど締まらない雰囲気だった
まだ顧問も監督も来てないようでどうすればいいかわからずとりあえず隅っこで座っていると恭子が声をかけてきた
「やっほ、前原さん。元気?」
「うーん、まぁそこそこかな」
「だよね、私達なんかちょっと気まずい感じだもんね」
「いや、まぁそれはあんまり関係ないかな」
いきなり踏み込んできた恭子に驚きつつ本心をはぐらかした
「なんかギスギスしたままは嫌だなと思ってさ。沢井さんは何か気難しそうだからとりあえず前原さんから仲良くしたいんだけど」
「そうだね、彼女は何を考えてるかよくわからないから」
「遙、あ、春日もさ、別に悪い子じゃないんだけどね。ただバカだからさ...」
「誰がバカだって?」
噂をすれば、ちょうど遙もやって来た
「今ちょうど前原さんと仲良くしようねって話しをしててさ」
「おお、そうか。よろしくね前原!」
「いきなり呼び捨てって...」
「いいよいいよ、よろしく春日さん」
「おーい、1年!集合だぞー!」
顧問と監督が来たらしく先輩から声がかかった
3人は急いで集合列へ向かった
「改めて挨拶する。私は監督の金子裕美だ今日から1年生も正式に入部して新たなチームとしての活動が始まる。とりあえず大会で1勝は出来るように頑張っていこう」
「私は顧問の後藤光です。野球のことはあんまり詳しくないから何かあったら監督に聞いてね」
「じゃあ次、キャプテンと副キャプテン」
呼ばれて2人が前に出る
「キャプテンの尾上貴子です。ポジションは投手です。まぁみんな仲良く楽しくやっていきましょう!」
「副キャプテンの又吉樹です。キャプテンと同じくピッチャーです。面倒くさい事は全部貴子にやってもらおうと思いまーす」
「よし、じゃあ次は1年生」
一弓達が前に出る
「沢井灯です。私は本気で全国大会出場を目指してるのでぬるい練習はいりません。ポジションは一塁手希望です」
灯の挨拶に部員達がざわめくなか一際大きな声があがった
「あー!思い出した!沢井灯ってあの沢井灯か!」
「どうしたんだ倉橋」
監督から名前を呼ばれ、声を上げた部員が立ち上がった
「監督知らないんですか?沢井灯っていったら怪物級中学生としてテレビで特集されたりしてたんですよ!私地元が同じだから沢井灯の噂はよく耳にしましたもん、プロも注目の中学生だって。スカウトとかバンバン見に来てたらしいですよ」
その話をきいて部員達が更にざわつく
「ぐぬぬ、沢井灯...そうかあの沢井灯か...クッソー」
遙が嫉妬の視線を灯に向ける
灯ばかり注目されるのは許せないと遙が大きく手を上げる
「はいはいはーい!私は春日遙!中学時代は4番を打ってましたー!希望ポジションは4番セカンドでーす!」
ざわついていた部員達から今度は笑いが起こった
「いいぞー!」
「今年の1年はクセが強いな」
「面白い子だな」
ある意味で遙も灯同様に注目を浴びる事が出来た
そんな遙とは対象的に沈んだ表情になる一弓と恭子
この後に挨拶はやり辛い、どっちが先に行くかというような視線をお互いに交わし
仕方ないから私が行く、と一弓が1歩前に出る
「前原一弓です。希望ポジションは外野手です。よろしくお願いします」
一弓の当たり障りのない挨拶を聞きホッとした恭子も続いて1歩前に出る
「小山内恭子です。希望ポジションは投手です。よろしくお願いします。」
「恭子はアタシと同じ中学でエースだったんです。なので高校でもアタシが4番、恭子がエースで全国大会目指しまーす!」
部員達から再び笑いが起こる
恭子は恥ずかしくてたまらくなり遙を睨んだが
遙は良いアシストをしてやったと言わんばかりの誇らしげな笑顔を向けて来るので恭子はバカらしくなりため息をついた




