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出会ってしまった4

「ようこそ林ノはやしのみや高校女子野球部へ!」




部活見学の集合時間、グラウンドに集まった新入生達をキャプテンと副キャプテンが出迎える


一弓と灯、その他にあと2人の1年生の合計4人が見学参加者としてその場にいた


「今年は見学4人だけか...少ないな」


副キャプテンがボソッとそう呟き頭を搔いた



「グラウンドに来てもらったばっかりで悪いんだけど、ウチら女子野球部の練習場所はここじゃないんだ、いつも近所のグラウンドを借りて練習してる。


そこの管理人さんの娘さんが昔ここの女子野球部員だったらしくてね、その縁で今も使わせてもらってる。ここの野球部ってそんなに強いわけじゃないのに貸し切りで練習出来る場所があるなんてホント贅沢だよね」


「いやぁマジでありがたいよ、でもほら、一昨年は3回戦までいけたし」


「まぁその3回戦でコールド負けしたんだけどね」



どうやら練習場は学校外にあるらしく、一弓達はキャプテン達の先導に着いて行き、学校を出て10分ほど歩いて行くと、フェンスに囲まれたグラウンドが見えてきた


グラウンド内には部員達が集まっていて、どうやらここで練習をしているらしい。


今はまだ練習が始まる直前で、各々アップをしている最中のようだ



「まぁ今日は部活見学ってことで本当に見学してもらうだけじゃあ退屈だろうし軽く動いてもらおうと思う、あれ?そういえばキミ、ジャージじゃないね」


元々直帰するつもりだった所を連れて来られたため一弓だけ制服だった


「あ、すいません」


「いいよいいよ、近くに公衆トイレあるからそこで着替えておいで」


今日はたまたま体育の授業があったおかげでジャージを持って来ていたが、そうでなければジャージを指定されているのに制服で見学に来るフザケた奴と思われてしまうところだ


一弓は小走りで公衆トイレへ向かい着替えを済ませる




「まあ、見てるだけっていうのもつまらないだろうし、バッティングでもしてもらおうかな、トスバッティングでもいいんだけどせっかくだからフリーバッティングをやってもらって他の子達には守備練習も兼ねてもらうね。それじゃあ最初にやりたい子」


「はい」


灯が手をあげる


「よし、じゃあ早速やるか」


キャプテンが嬉しそうに灯の肩にポンと手を置いた


「あの、1ついいですか?」


「なんだい?」


「ここのエースに投げてもらいたいのですが」


何を言い出すんだコイツは、一弓は驚きながら灯の顔を見る


他の1年生2人も引いたような顔で灯を見つめていた


「アハハ、そうか、あぁ、別に構わないよ。私がこの部のキャプテンでエースだ」


「それと、球種もそちらの好きに投げてもらって構わないので」


「キミ随分自身あるみたいだね、ま、お手柔らかにね。じゃあ他の3人には外野を守ってもらうよ」


いくら沢井灯でも流石に高校3年生をナメすぎなのではないだろうか


まだ入部もしてないのに先輩から目をつけられるのは勘弁してほしい、と思わずため息をつき一弓は長年守り続けてきたライトの位置につく


他の先輩達が既に外野の守備位置に散っていて、一弓はライトの位置にいる先輩達に軽く頭を下げ挨拶をした。



「キャプテン、本当にいいんですか?」


キャッチャーが少し心配そうにキャプテンへと相談する


「大丈夫大丈夫、別に本気で投げるわけじゃないし」


「まぁ、こっちもそんなに変化球バンバン要求したりはしないんで」


「わかってるよ、ほらさっさと守備について」


キャプテンとの話し合いを終えキャッチャーが定位置につく


灯も軽く素振りをしたのち右バッターボックスへと入る


(まずはストレートで)


キャッチャーのサインに頷き振りかぶって第1球


ど真ん中に投じられた緩めの直球


灯の鋭いスイングはそれを完璧にとらえ高々とアーチを描いた打球は悠々とセンター方向のフェンスを越えてみせた


グラウンドにいた全員が驚きで目を丸くし、声も出なかった


「あの、別に気持ち良く打たせてほしいなんて思ってませんので」


灯のその言葉に思わずキャッチャーが立ち上がる


「お前なぁ!」


「植竹!落ち着け」


キャプテンがマウンドから駆け寄りキャッチャーをなだめる


「キミのこと甘く見てたよ、部活見学だってこと忘れて本気で勝負してみて良いかい?」


「こっちは最初からそのつもりです」


キャプテンが再びマウンドへ戻り、捕手からのサインを待つ


この生意気な1年生の鼻をへし折ってやらねば、と今度は内角低めへのスライダーを要求する


左腕から投じられたややボール気味の低いスライダーを灯はすくい上げ、レフトフェンス直撃の当たりを放った



「次、お願いします」


灯は顔色1つ変えず打席で構える






その後も広角へ大きな当たりを連発し、10球目を終えた所でキャプテンがマウンドから声をかけてきた


「いやあ、参った、凄いよキミ。なんでウチの学校なんかに来たんだ?」


「あの、もう終わりなんですか?」


「そりゃあ、他の子も打たせないといけないしね、今日見学に来てるのはキミ1人だけじゃないんだよ?」


「それは...そうですね。わかりました」



キャプテンの招集で1年生が集められ次の打者を決める事になったが、流石にアレの後はやり辛い、

一弓は正直最後でいいかななんて考えていると、ふと灯と目があった


「前原さん、次打つでしょ」


「は?」


灯が一弓にバットを差し出す


この女はどこまで私を振り回すつもりなんだ

仕方ない、適当に終わらせよう

灯からバットを受け取りバッターボックスへ向かう


「あのー、私は別に本気で勝負したいとか思ってないんで...全然緩いストレートで大丈夫です」


一弓はコンコンとベースをバットのヘッドで軽く叩き、腕を真っ直ぐピッチャーの方へ伸ばしバットを立てるという一連のルーティンを流れるようにこなし、バッティングの構えに入った


ど真ん中へ緩めの球が来る


一弓の鋭いスイングはセンター方向へ打球を弾き返し打球は中堅手の頭を越えた


あぁ、バッティング練習というのはなんて楽しいのだろう

野球への情熱を失ってはいてもバッティング練習だけは別だ

何も考えず何にもとらわれず好きにバットを振り打球を飛ばす、この楽しさだけはいつまでも変わらない


適当に終わらせようなんて考えていたのもいつの間にか忘れていて夢中でバットを振り、気が付けば10球終えていた


灯のように大きな当たりではないものの一弓も鋭いヒット性の当たりを連発した



「アナタ、随分楽しそうに打ってたわね。野球飽きたんじゃなかったの」


灯がバッティングを終えた一弓に歩み寄り声をかけたきた


「良いストレス発散になったよ、誰かさんのせいで今日は特に溜まってたのかな」


「へぇ、じゃあその誰かへのストレスを燃料にしてこれからも野球頑張ってちょうだい」


「あ、次の子が打席に入る、守備いかなきゃ」


一弓は逃げるように外野へと走った






「なぁ、ここって本当に林ノ宮高校の女子野球部だよな?」


「うん。間違いなく林ノ宮高校女子野球部だよ」


「じゃあなんなんだよ!アイツらは!とくに最初に打ってたアイツ!」


春日遙かすがはるかは中学からの友人の小山内恭子おさないきょうこに声を荒らげる


「あんなのがなんでこんな高校に来てるんだよ!絶対おかしいだろ!」


「知らないよ」


「くっそー!私だって中学の頃は4番だったんだ、その実力見せつけてやる!見てろよ恭子!」


「私に見せつけてどうすんのよ...」


遙が打席に入り恭子はレフトの守備につく

投手は別の3年に交代していた

初球、やや外ぎみの緩い直球を遥は踏み込んでフルスイングする

が、彼女はまだ硬球をほとんど打ったことがなく詰まった打球はライト方向への浅いフライになった

その後もヒット性の当たりはほとんど出ることはなく遙の打席は終了した


「ま、思い切りの良さは見せれたんじゃないの?」


「くぅぅ!!手が痛ぇ!」


「私は投手志望だし打撃は適当に終わらせてくるわ」


遙からバットを受け取り恭子が打席に入る

遙同様ほとんど詰まった当たりで終了した


「それにしてもあのホームラン打ってた子、どこかで見たことある気がするのよね」


「やっぱり有名な奴なのか!」


「うーん、多分」


「まぁそんな事は関係ない!この部でいずれ4番を打つのはアタシなんだから!」


「今の段階だと全く期待できないわね...」



次のメニュー、ノックも終了しこの日の部活体験は終了した

一弓は電車通学なので校舎には戻らずそのまま駅へ向かおうとしたところ灯が声をかけてきた


「同じ電車のはずだわ、一緒に帰っていいかしら?」


「うん」


「ねぇ、正直今日参加してみてどうだった?」


「打撃練習は元々大好きだったから楽しかったよ、でも守備は嫌いだからノックはちょっと」


「だからあなたポジションがライトなのね。これからはしっかり守ってもらわないと困るわ」


「いや、怠慢守備はしたことはいよ...ちょっと守備が苦手なだけで」


「足も速いのに勿体無いわ」


「足が速いのと守備が上手いのは別だからね」


「まぁあなたがヒットで出塁して私がホームラン打てば2点入るわ」


「2点じゃない!アタシも打つから3点だ!」


突然後ろから遙が声をかけてきた

隣には恭子もいる


「いいか!4番を打つのはこのアタシだ」


「さっきの打撃を見た感じだとスタメン入りすら危ういと思うのだけど」


強気な遥に対して灯は現実を突き付けるように冷たい言葉を返す。


「ごめんね、この子だいぶ頭が悪いんだ」


恭子は遥の肩に手を置き、困ったような笑顔を浮かべて言った



「恭子!お前は私の味方じゃないのか!」


「いきなり初対面の同級生に喧嘩売るような女の味方なんてしません」


「私は本気で全国目指してるの、足は引っ張らないようにして欲しいわね」


灯が恭子と遥を突き放すようにピシャリとそう言い放った


「なんだと!?」


遥が拳を握りしめながら言い返す、恭子はそれをなだめるように両手を広げて遥と灯の間に割って入った


「ねぇ、それなら何で強い私立へ行かなかったの?」


恭子は煽るつもりはなく、純粋に気になったので灯にそう尋ねる


「別に、どうだっていいじゃない」


灯がそっけない態度で返答し、一触即発のムードが漂う

暫く沈黙が続き、耐えられなくなった一弓が口を開く


「ふ、2人ももしかして電車通学?」


「そう、私達山辺から来てるの」


「あ、そうなんだじゃあ同じ電車だね...」



部活見学が終わり、4人はそのまま同じ電車に乗り合わせたが、ほとんど会話をすることなく先に最寄り駅についた灯が下車した

気まずい空気のまま残った3人は居心地の悪さを感じながら、やはり会話をすることなく時間が流れていく

一弓は、野球部への入部を考え直したくなりつつ地下鉄の窓を眺める

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