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上手くなる為には3

翌日、午後の練習を終えて早々に着替えを済ませて更衣室から出ようとする灯を遥が呼び止めた


「ちょっと待って、この後少し話したい事があるんだけど、いいか?」


「構わないけど」


「じゃあちょっと外で待っててくれ、すぐに行くから」


灯は頷き更衣室を出た、遥も急いで着替えを済ませて後を追うように更衣室から出ていった

その様子を見ていた恭子と一弓は不思議そうに顔を見合わせた


「え、なになに、告白?」


「春日さんが沢井さんに?それはないでしょ」


「なんか面白そうだしコッソリ見に行かない?」


「ええ…あんまり聞かれたく無いような話だったらマズいでしょ」


「大丈夫でしょ、行こ行こ」


恭子と一弓は練習着のまま更衣室から出た

更衣室を出てすぐ、廊下の奥の方に灯達の姿が見えたのでギリギリまで近づき、曲がり角の階段の方へ身を隠して壁に張り付くようにして聞き耳を立てた


「で、話って何?」


「あのさ、アタシ、上手くなりたいんだ、もっと、もっと」


「そう、ならもっと練習するしかないわね」


「練習はしてるよ、でも気付いたんだ、今のアタシはただガムシャラに数をこなしてるだけじゃ意味が無いって、今のアタシにはもっと知る事が大切なんじゃないかって、例えば、上手い奴はどんな練習してるのかとか、自分はどんな練習、トレーニングをするべきなのか、とか」


「そう、それで?」


「だからさ、良かったら、アタシの練習に付き合って欲しい!いや、違うな、沢井の練習にアタシも付き合わせて欲しい!上手くなる為には、学ばないといけない事、知らないといけない事が沢山ある、それを、アタシに教えて欲しい。合宿の後にお盆休みがあるだろ、良かったらだけどその休みに沢井の家に泊まらせて貰って普段どんなトレーニングをしてるかとか教えて欲しいんだ」


「一つ確認しておきたいのだけれど、アナタは何故、何のために上手くなろうとしているの?」


「それは勿論、アタシはプロになりたいから、プロになって誰よりも活躍したいから!」


「プロ?そんな生半可なものじゃないわよ、プロって」


「わかってるよ!ここの野球部に入って今日まで沢井と前原を見てきて思ってた、ああ、こういう奴らがプロになるんだろうなって、

この前の大会、もしアタシも試合に出てたとしたらって考えたことがある、

きっとお前達みたいに打ったりは出来なかったと思う、

アタシとお前達の間には必死に努力したって埋まらない程の差があるんだと思う、

でも、だからってプロになるのを諦めようとは思わない、

むしろチャンスだと思うことにした。

そんなに凄い奴らがいるならお手本にして学べば良いって、

アタシは子供の頃からプロになりたくて野球を続けてきた、プロになるためには上手くなるしかないんだ、上手くなりたいんだ!」


遥の想いを聞いて灯の頬が僅かに緩んだ


「そう、何のために野球をしているのか、何のために上手くなりたいのかハッキリと理由があるのならいいわ、プロになりたいのは私も同じよ。同じ目標を持つ者として付き合ってあげてもいいわよ。お盆休みは特に田舎へ帰ったりの予定もないし」


「ホントか!?やったー!あ、勿論、アタシはお前よりも上手くなるつもりだからな!4番の座だって諦めてないからな!」


「そのつもりで上手くなってもらわないと全国なんて無理よ」



話が終わり、灯と遥がこちらの方へ向かって来たので恭子と一弓は慌てて階段を上り身を隠した


「いや~、まさか春日さんが沢井さんに泊まり込みで練習をお願いするなんてね、小山内さんは何も聞いて無かったの?」


「うん、初耳、私も前原さんの家にお泊まりして練習付き合ってもらおっかな~」


「小山内さんもプロ目指してるの?」


「私?私は、う~ん、前原さんは?」


「私?どうだろうね、まだ分かんないかな」


「何それ、前原さんならプロなれるでしょ」


「なったとしてその先はどうなんだろうって考えちゃうんだよね、安定した職業でもないし、よっぽど野球が好きじゃないと辛いんじゃないかな、きっと」


「そっか、そうだよね…」



その日の帰宅後、恭子は自分の将来について考えていた

プロになりたいと思ったことは当然ある、しかし自分がプロになれるような選手だとは思わない。

友達はプロになる為に野球を頑張っているのに自分は何のために野球を続けているのだろうか

もし自分がプロを目指さないのであればこの先、遥と一緒に野球をする事は無くなってしまうのだろうか、そもそも自分はいつまで野球を続けるつもりなのだろうか。

考えれば考える程分からなくなって、恭子は深いため息をついた


コンコンと部屋の扉がノックされて母が夕飯の用意が出来た事を知らせに来たので恭子は返事を返してリビングへ向かった。


小山内家の食卓は会話が多い方では無い、恭子と母は言葉を交わしたりするが父はあまり喋る事は無く、この日も沈黙が続いていたが、恭子が俯きながら一言、言葉を発した


「あのさ、もし私がプロ野球選手になりたいって言ったら、どうする?」


それは恐る恐るといった様子の震えた声だった。


「何をふざけた事を言っているんだ、そんなことより期末試験はどうなんだ、全教科90点を下回るようなら部活は辞めさせるからな、それと当然もう大学はどこにするか決めてあるんだろうな」


「え、あ、うん、えっと、テストは大丈夫だと思う、大学はまだ決めてない」


「決めておくように言っていたはずだが?お前、まさか大学でも野球をやるなんて言うつもりじゃないだろうな?」


「それは...」


「お父さん、いいじゃないこの子の人生なんだから」


「お前がそうやって甘やかすから」


「お父さんが厳しすぎるのよ」


恭子は母は元大学講師、父は弁護士の高学歴夫婦の間に生まれ、特に父は昔から勉学に関しては厳しく、恭子が野球を続ける事に関しては強く反対している


気まずくなった恭子はさっさと食事を済ませて部屋へ戻って行った

ベッドに横たわりしばらくの間ボーっとしていると、部屋の扉がノックされた


「恭子、ちょっといい?」


母の声がきこえたので恭子は扉を開けた


「何?」


「ちょっと話しをしたいんだけど入っていい?」


恭子は母を部屋に入れ、2人でベッドに腰かけた


「あのね、さっきの事なんだけど」


「うん」


「プロ野球選手になりたいって、凄いじゃない、お母さんは応援するから」


「え、いや、でも、もしもの話だし、私プロになれるほど上手くもないし」


「実はお母さんね、昔は漫画を読むのが好きで漫画家になりたかったんだ。

でも私の両親もあなたのお父さんみたいな感じだったから漫画家になりたいなんて言い出せずに、言われるがままに勉強して大学を出た、

今でもふと考える時があるの、もし勇気を出して漫画家になりたいって打ち明けて、無理やりにでも漫画家になってたらどうなってたんだろうって。

だからさっきあなたがプロ野球選手になりたいって言ったらどうするって聞いたときに、私本当に心からあなたを尊敬したわ。

だって私には出来ない事をあなたはしようとしてるんだもの、ううん、今でももうしているわ

お父さんの反対を押し切って友達と同じ学校で野球をしているんだから。

恭子、私はねあなたにはあなたの好きなように人生を歩んでほしい。」


「でも、もしプロを目指してプロになれなかったら?」


「それはその時に考えればいいじゃない、やらないで後悔よりやって後悔したほうが絶対いい、私みたいにウジウジと後悔し続けて欲しくない。もしお父さんが絶対反対っていうなら私はあなたと一緒に家を出てもいいわ」


「いや、それは」


「とにかく、あなたの人生なんだからあなたのしたいようにすればいい、野球、好きなんでしょ?」


「うん」


「それなら今は好きなことに目一杯打ち込めばいい、お母さんは何があっても恭子の味方だから」


母は優しく恭子を抱きしめた

恭子は溢れそうになる涙をこらえて


「うん、ありがとう」


と答え、恭子もまた母の腰へと手を回した


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