出会い
少女は握力強化用のボールを握りながらリビングでテレビを眺めていた
後ろでは母が夕飯後の食器を洗っている。
少女はトレーニングのBGMとしてなんとなくテレビを眺めていただけだったが、流れている番組で自分と近い年齢の野球少女の特集がはじまったので興味を示し番組の映像に意識を向ける
沢井灯という少女が大きな怪我を経験しながらも無名の高校に進学し、全国大会を目指すという内容に、少女はトレーニングの手を止め、食い入るように番組を観ていた
自分も今は怪我でリハビリ中という事もあり、番組で取材されている少女の姿が自分と重なり、そして、インタビューの答える少女の前向きさ、真っ直ぐさ、もう一度自分の実力を認めさせるためにあえて無名校を選んだという意思の強さに心を奪われた
これだ、これしかない
少女はその特集が終わるとすぐに友人へ電話をかけた
「もしもし、あのさ、今スポーツニュースワンでやってた沢井って高校生の特集観た?」
「え?いや、みてないけど」
「マジ?まあいいや、あのさ、私決めた」
「何を?」
「林ノ宮高校に行く事にしたから」
「あぁ、進路の話ね。林ノ宮?私立?」
「ううん、公立」
「え?林ノ宮って、林ノ宮?あそこって野球部強かったっけ?」
「ううん、だって聞いたことないもん」
「は?何言っての?」
「とにかくさ林ノ宮に凄い選手がいるんだよ!私その人と一緒にやりたい!だからナギも一緒に行こうよ、林ノ宮なら一緒に入れるでしょ?」
「ちょっと待って、全然意味わかんないんだけど、あんた色々誘われてんのにわざわざ林ノ宮なんかにいくわけ?私も?」
「そう、いいじゃん、正直高校でもナギがキャッチャーだったらな~って思ったこともあるし。やっぱ私ら高校でもバッテリー組むべきなんだよ」
「いやいやいや、本気で言ってんの?」
「うん、とにかく明日また会って話そうよ」
「いやちょ」
少女は電話を切り、すぐ母にも同じ話をした
「林ノ宮?強い所?」
「ううん、全然」
「えぇ…いいの?強い所からお誘い来てるんでしょ?」
「いいのいいの、怪我して凄い落ち込んでたんだけど今はむしろやる気が出て来たよ」
「まぁ、あなたがそれでいいならいいと思うけど、そこの高校からでもプロを目指せるの?」
「うん、全国大会に出れたら大丈夫でしょ、多分」
「そうなの?まあお母さんはよくわからないから、あなたの思うようにすればいいと思うわ」
「うん。進路も決まったし、あとはしっかり治すだけだね」
少女は自分の左肩をそっと撫でた




