【2★ 騎士はつらいよ】 大樹と血の儀式
ルドルフくん、真面目すぎ。
あれ?主人公こっちじゃない?
シリアス展開?なのかな。
主人公の回にはコメディーに戻します。
神殿のある地下へは、隠し通路を通って行く。通路は狭く、神殿前の場所も広くないため、儀式には数人で行くことになった。
先ずは、兄上2人と私と見届け人としてエカテリーナが神殿へと向かう。
隠されていた古めかしい扉を開けると、すぐに地下神殿へと続く階段がある。階段は長く、先が暗くて見えない。燭台に蝋燭を付けて火を灯し、先頭の私と後尾のエカテリーナが燭台を掲げながら階段を進んだ。
私は左手に燭台を持ち、右手を石造りの壁に添え、ひんやりとした石と苔の様なものを撫でながら、一歩一歩階段を降りて行く。
誰も言葉を発しない為、石壁から染み出る水滴の音と足音だけが反響する。
そして、長い階段を降りきり、神殿の前まで着いた。
蝋燭の火を消し、燭台を足下に置く。灯りは必要なかった。
神殿自体が白い光を帯びていて、とても明るいからだ。
神殿は白い柱と[大樹]で出来ていている。白い柱が円状に配備されていて、柱に囲われた中心部には大きな樹が生えており、柱を束ね、屋根のように覆っていた。
私が成人を迎えた時に儀式でこの神殿に訪れたのが、初めて[大樹]を見た瞬間だった。大樹を見て、心にとても温かいもの感じた。後でラステト兄さんに聞くと、兄も同じ様に感じたらしい。
『大樹は、この世界を造りし女神が、すべての生物の為にいくつか植えた祈りの種が育った樹』と云われている。大きさは大小あるが、すべての樹が我々を見守っている。我々は大樹と月の加護を受けて生まれ、死ぬと[満月に召される]か[大樹に還る]と信じられている。だから、あんなにも温かく思ったのだろうか。
そして、今も、大樹の温かさを心地よく感じる。
だが、大樹の根本には、禍々しい靄がかかったものがある。
「確かに、あれは濁っている様に見える」
私はその痛々しい『剣』の姿に顔をしかめながら呟いた。
「早く儀式を始めよう。先ず、私からやる」
そう言って、ラステト兄さんは神殿の前にある水の溜まった窪みの所で立ち止まった。
窪みには神殿の中に続く細い溝が模様の様に巡らされている。
兄は自分の手を短剣で少し切り血を垂らした。これが第一の儀式。
血が水溜まりに落ちると同時に、窪みが、窪みを伝って溝の模様に光が伝っていき、そして神殿が白く強く光を増す。
こんな光景は、私の成人の時には無かった。
誰もが、成功したと思った瞬間、強い光が消え、元の明るさに戻った。
「どうなんだ? これは? 成功したのか?」
ルビデ兄さんが、エカテリーナに聞き、エカテリーナが答える。
「わかりません。ラステト様、神殿の中に入ってみて下さい」
ラステト兄さんが、水溜まりの窪みを跨ぎ、神殿の中に進もうとする。私は以前、この窪みすら越えれなかった。皆が期待の目を向けて見守る。が、兄は神殿の直前で立ち止まった。
「駄目だ! これ以上は進めない。見えない壁の様なものがある。やはり、認められなかったのだ」
ラステト兄さんが、こちらに戻りながら言う。
「ルビデ、次はお前だ」
続いてルビデ兄さんが、第一の儀式を試した。
血が水溜まりに落ちるが、今度は何も起こらなかった。水溜まりを跨ごうとするが、それすらも出来ない。
「くそっ! 何故だ!」
ルビデ兄さんの怒声が響く。
ラステト兄さんが、次はお前だと私に視線を向けてきた。私は視線に答え、一呼吸してから、窪みへと向かった。
水溜まりに血を垂らす。
すると、ラステト兄さんの時と同じ様に、水溜まりから神殿へと光が溢れだした。そして、強い光は消えず、まだ輝いている。
私は皆を見た。
エカテリーナとラステト兄さんは私と目が合うと強く頷いた。ルビデ兄さんは口を歪ませ私を睨んでいた。
私は、勢いよく窪みを跨ぐ。越えれた。その勢いのまま、神殿へと歩みを進める。そして、何の抵抗もなく、神殿に入ることが出来た。
ぴちゃん
「これは……」
いつの間にか、神殿の中には薄く水が溜まっていた。その水に赤いものが滲んで、文字が浮かび上がる。
『人族の子よ』
『あなたは素晴らしい子』
『だけど』
『この闇の願いを越えられない』
『だから』
『剣に触れることは出来ない』
『出て行くがよい』
赤い文字が次々と文章を変えていき、最後の文字を出した瞬間に水が津波となって私を神殿から押し出した。
突然の事に唖然となっている私にエカテリーナとラステト兄さんが駆け寄ってきた。
「どうだったのだ!?」
「……駄目でした! 悪しき者の願いを越えることが出来なかった! 認めてもらえなかったんです!」
ラステト兄さんの問いに、我を取り戻した私は答えた。
――そして、王の間に居たもの全員が儀式を試したが、残りの者は窪みを越えることすら出来なかった――
血文字が浮かび上がる。
『人族の子よ』
『読んで頂き』
『ありがとうございます!』