【1♬ シークは闇に愛を囁く】 我が愛した親子
シークって響きだけで濡れるッ
我の名は、ヴァイ・ツェイビー=ルノアーク・レイエ=シャルルージュ。
シャルルージュ魔王国国王ルノアークの6番目の息子として生まれた。
容姿は、砂漠の民に多い褐色で、誰もが見惚れる色男との自負がある。
それは、女神より架せられた我の使命が故。
その使命は、我が愛する女を幸せにする事。我に愛を捧げる女を幸せにする事。我は女の為にあり、女は我を待っている。素晴らしき女に適うように、この容姿が与えられた。
しかし、何と嘆かわしい事であろうか。
私は今、闇の中。
愛しい女が1人も傍にいない。
我はこのまま死ぬのであろうか。
あぁ、我の愛しい女達……
……そう、あれは50年前……。
我は15歳。
成人の儀式を終えた後、1人前と認められた事が誇らしく、自信に溢れ、何か行動に起こしたかった。
そして我は、お気に入りの黒のカンドーラを着込み、黒のクーフィーヤをかぶり、金のイカールを頭にのせた姿で、初めて王宮を抜けだし、町へと出かけた時の事であった。
町の者が、我を見て呆ける。
我の美貌に驚いていると思っていたが、どうやら、金のイカールで王族と気付かれていたようだ。無論、美貌にも驚いていたがな。
突如現れた王族の美少年に、町の者はオロオロと眺めるしかなかった。
我は目新しい市場の品々を夢中で物色している時に、売り物の果実を落として駄目にしてしまった。
「何やってるんだい! ばかたれ!」
その言葉に最初は我が叱られているなどと気付かなかった。
我は正室でなく寵姫の子であるが、王族であった。しかも、魔国の神の祝福を額に受けて生まれた我を城の皆が大切に扱った。
果実の汁でガルーダの裾が汚れていないか確認していた我に――。
ゴチン
――骨に響く音。
目の前に火花が散った。
くらくらする頭の痛み。
「店の人には謝ったのかい?」
あまりの痛みに涙が出た。
が、涙を上手く隠して声の主を睨む。
ふくよかな女だった。
女も我を睨んでる。
城の近衛兵に勝る気迫の圧力に睨み負けて、我が口を開く。
「……すまぬ」
「あぁん?」
本当に女か?
「すまなかった。この果実は弁償しよう。後で使いの者に代金を持たせる」
ゴチン
ぶった。2度もぶった!
父上にもぶたれたことないのに!
「はぁ、まったく。ハキム、その熟れてるの2つ買うから、落ちたのはまけておくれ」
「いいけどよ。レイエ、そのが、いや、そのお方……」
「わかってるよ。デーツの美味しさを知らない、がきんちょさ。ほら食べてみな。ほら、ラーナも」
レイエと呼ばれた女は、我に1つ、女のふくよかな体に隠れて見えてなかった小さい娘に1つ、赤い実を差し出した。
娘は嬉しそうに赤い実をあむあむ食べる。幼女の仕草は愛らしく、赤い実は美味しそうであった。
我も、赤い実を口に運ぶ。
ぐにっ
その食感に驚くも、口に広がるのは濃厚な甘み。ぐにぐに口の中で転がしながら食べるのも、慣れてくれば楽しい。
「美味であった。この様な美味な果実を駄目にしてしまい、申し訳なかった」
レイエが、わかったなら良しと言いながらバシバシと背中を叩く。
人生初の扱いを受けているが、何故か嫌ではなく思う我がいた。
その後もレイエと娘ラーナに無理矢理付いて行って、市場をまわった。
我の正体に気付いていながらも、態度を変えないレイエが好ましかったし、幼女ラーナの向けてくるキラキラした瞳を自慢の笑顔で返し、ラーナがレイエの体に隠れて、また出てくるというやり取りも楽しかった。
楽しい時間は、そう長くなかった。我の迎えが来たからだ。
別れ際、レイエにお礼をと話をしたが――、
「今度は、あんたの稼ぎでデーツを奢ってくれればいい」
――と、言われた。
あぁ、必ずだ。ハキムの店のデーツを買い占めて、持って行こう。
幼い頃に月に召された母上と同じ名前を持つ女。
恐らく、母上とは真逆の性格をしている女。
レイエ――我の初恋。
その、5年後に沢山のデーツを持ってレイエとラーナの家を訪ねた。
レイエは夫に先立たれているとの事であったので、求婚した。
「ばかたれ」 ゴチン
うむむ。
「ヴ、ヴァイ様、では私を妻にしてくださいぃ」
可愛い幼女から、可愛い10歳の少女に育ったラーナは、我が幸せを誓った17人目の女。
「ラーナも我が幸せにしよう。だが、恋多き我の愛を独占出来るかは、ラーナ次第だ。良き女になったら迎えに来よう」
「ばかたれ」 ゴチン
うむむ。
……そんなやり取りを昨日の事のように思い出せる。
深い闇の中、我は愛した女達への愛を囁く。
作者「求婚時のレイエさんの年齢は?」
ヴァイ「確か40歳ほど」
作者「わーお」
作者「レイエさんの特徴は?」
ヴァイ「幼き我とラーナが手を広げしがみついてもお互いの手が触れなかったな」
作者「それなんて、森に住む巨体妖怪?」
ハキム「申し訳ございません、デーツは売り切れです。読んで頂きありがとうございます!」




