この際だから
俺の問いかけに、脇で作業をしていた黒鳥さんと真も反応した。
どういうことだと言いたげに視線を向けてくる。
「今回、こうやって椎谷先輩を変えようとしてるわけでしょ?」
「ああ」
「でも、たった一人、やめさせようとするだけでこんなに難しいんだよ? 本当に、モコモコ動画を革命することはできると思う?」
誰かの意見を変えさせるというのは並大抵のことじゃできない。普通に話したり、説得する程度では、絶対無理だ。不可能だ。
今回の件でよく分かった。たった一人の意識、思考を変えようとするだけで相当な時間と、労力が必要となる。もし、荒らしをしている人が何万人単位でいたら、一体どれほどの時間がかかるのか、考えたくもない。
椎谷先輩から直接、腹の立つことを言われて、今回の件に関しては全面的に協力しているが、この先、引き続き協力していくかどうかは分からない。
「……」
「……」
と、不意に黒鳥さんと綾瀬さんがアイコンタクトを取る。
二人で頷き合う。
なんだと思っていると、二人同時に口を開いた。
「「無理に決まっている」」
一字一句違わず、同じことを言った。
そのまま、二人で思っていることを口にする。
「お前な、たったこれだけの人数で、ちょっとなにかしたくらいで大きな流れを変えられるとでも思ってるのか? 無理に決まってんだろ」
「芽依君、我々は革命団として活動しているが、初めて会った時にも言っただろう? 私とて、無視するのが波風が立たない、良い行動だと思っているよ」
戸惑う。
傲岸不遜で、何事に対しても自分ならどうにかできると言い張りそうな二人が、あっさりと負けを認めた。無理だと否定した。
では、一体、今していることはなんなのか。
「芽依君、逆に質問させて欲しい」
「なんですか?」
「君は、どうにかできると思っているのかな?」
「……」
答えに詰まった。
俺は最初から、そんなことは無理だと思っていた。
傍観者という立場で、やれと言われれば、ちょっと協力するという程度の役回りでいた。けれど、目の前に椎谷先輩という憎むべき相手が出現したことで、根絶しなければと思っていたのかもしれない。
だからこそ、詰まる。
以前までなら、無理だと即座に切り返していたはずなのに。
「この際だからはっきり言っておこう」
黒鳥さんはいつもの堂々とした態度で語る。
「我々と、荒らしをしている人間という対立構造が現在できあがっているわけだが、まず一つ」
コホンと咳払いをして、
「この件に関しては誰が正しいというのは、はっきり言って、ない」
そう言い切った。




