本当に、荒らしを
「ま、別にあたしが行ってやってもいいんだけどな」
「は?」
唐突に、クスクスと笑いながら綾瀬さんが言った。
「いや、でもそれじゃあ無理だって言ってなかった?」
「ああ。だが、芽依が行かないと言い張るのなら、あたしが行くしかないだろ」
「う……」
「もちろんそれで失敗したら、最初から『芽依が行った方がいい』と言っていたあたしや伶が正しいということになる。しかも、それで敗北でもしようものなら、責任は君ということになるだろうな。あたしは嫌だと言ったのに、芽依が意地を張ったせいで、となる。それでいいのなら、あたしは――」
「分かったって! 俺が行くよ」
「……なにか言い返せよ」
我慢できずに認めると、じと目で見られる。
これも訓練の一貫ということだろう。なにかしら、反論してみろということだ。
しょうがなく、
「責任という話なら、俺だけが悪いってことじゃないだろ。俺がなんと言おうと、容認して送り出したそっちも悪いってことにならないの?」
と返してみるが、
「ならないな。あたしも伶も、君が行った方がいいと散々言っている。だが、部屋に閉じこもるなり、なにかされたらこちらはもう手のうちようがなくなるだろ。人というのは、完全に心を閉ざしてしまうと、そこらにいる人間からのアプローチなど耳に入らなくなる。君がどういう形であろうと、行かなければ、『あたしたちは説得したのですが』という言い分が通る。連帯責任にはならない。それともなにか? 会う約束を放り出して、君の説得を続けていた方が良いとでも?」
次から次へと言葉が並ぶ。
意図的にやっていることだと分かってはいるが、イライラせずにはいられない。ここまで言われてしまうと、反論することそのものがアホらしくなる。
だが、本当にここでやめてしまったら、それこそまた綾瀬さんに怒られるだろう。仕方なく、続けてみる。
「会う約束を放り出さなくても、『後日改めて会おう』とか連絡入れればいいんじゃないの?」
「なるほどな。それも一つの手だろう。だが、その後、君を引っ張り出せたとしても、『あの時なんで無理だったの?』と聞かれた時、どう対応する?」
「……」
「芽依が拒否していたせいでと答えるのか? それとも、他に急用が入ったとでも?」
「親戚が亡くなったとか、熱を出したとかでいいんじゃない?」
「そんなことで君は親戚を一人殺すわけか?」
「実際に殺すわけないでしょ」
「だが、口では殺しているだろう。実際に死んでもいないのに。最低だな」
「……じゃあ、熱が出ていけなかったってことで」
「ふん、それなら一応、筋は通るな」
「なら――」
「が、約束をやぶったことには変わりない。貸しを相手に一つ作ったことになる。後々、そういうのは響いてくると思うが?」
「……」
ああ言えばこう言う。
まるで子供のケンカだ。
しかし、何度も相手をしていて、もう理解していた。この『子供のケンカ』と思えるような言い争いこそが、上辺だけの話し方なのだ。相手を理解しようとはせず、揚げ足を取り、必要であればけなす、嘲笑う。
「……どうした?」
綾瀬さんの問いかけに、ため息をつく。
確かに、これを繰り返せば、椎谷先輩に勝てるかもしれない。
だが、この訓練を始めてから、思っていたことがある。
「綾瀬さん、普通に答えてもらえる?」
「なんだ改まって」
「本当に、荒らしを根絶できると思ってる?」




