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別れのすれ違い

「ディルハード王子と言ったら、最初に思い浮かぶのは冷血漢だよな」

 いとこの言葉に、セリフィスは目をぱちくりさせる。

 純白と言っても差し支えない、肩まで伸びた波打つシルバーブロンド。

 高い身長と、剣術をたしなむせいで引き締まっていながらもしなやかさを保つ体つき。

 サファイアや深海に例えられる瞳は常に冷静で、取り乱した所はどの側近も『見た事がない』と口を揃える。

 王が女遊びに現を抜かしているのに国内の乱れが一切起こらないのは、ひとえに王子のずば抜けたカリスマ性と容姿と能力があってこそだろう。

 国王代理の現状でさえこれほどの治世を行えるのだから、国王に即位した際も盤石であろうと言われている。

「取り乱した所を見た事がない、つまりは感情が動かない。恐ろしく見栄えがいいけどそんなんじゃ、生きる彫刻みたいなもんじゃないか」

 食いつなぐのがやっとの貧乏画家は、食指が動かないとかぶつぶつ言っている。

 セリフィスは笑っていなすと、狭い部屋の掃除を簡単に済ませた。

「まぁ、君の目は相変わらず創作意欲を掻き立ててくれるんだけどさ」

「あら光栄ですこと」

 二人は顔を見合わせ、くすくす笑い合った。

 男と女の違いはあれど、彼とは本当にただのいとこ同士。

 恋愛感情はないし、何の心配もいらないから近所に住む彼の家をこうして訪れては家事を代わりにこなしてやっていた。

 少なくとも、セリフィスはそう思っていた。

「あぁ、そうだわ……今度、王子殿下の侍女として王城へ上がる事になったの。しばらくは里帰りも無理そうだから、一人暮らし頑張ってね」

 その言葉に、いとこはまじまじと彼女を見つめる。

「王城に……上がる?」

「いやだ、『侍女』としてよ?まかり間違ってもご側室様とかじゃないんだから、心配いらないわよ……殿下のお側付きなら、陛下の後宮には近づく暇もないでしょうし」

「ああ……うん、そうだね」

 心ここにあらずといった風情で、いとこは頷く。

「それじゃ、王城に上がる前に身の回り品を買い揃えなきゃいけないから……さようなら」

 慌ただしくセリフィスが出ていくと、貧乏画家は呆然としながら翠玉の色を作り始めた。

 どれほどに絵の具を混ぜても、彼女の瞳と一致する色は作れない。

 たおやかな肢体を正確に写し取れても、あの吸い込まれそうな眼差しは再現できない。

 けれど……けれどいつか、描き切る事ができたなら。

 彼女に、求婚しようと思っていたのに。

 あっけなく部屋を出ていった彼女に手が届く日は、もう来ない。


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