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−二十四章−〜北の戦士〜


「わー!ツァラだー!戻ってきたー!」

マキノが船の縁からジャンプする。それを見たニックスが、慌てて船から身を乗り出す。

無事着地した事を確認してほっとしていた後、ニックスは危ないだろとマキノに注意する。

マキノは暢気な口調でニックスの注意をかわすと、たったか走って行ってしまった。マキ

ノの態度に呆れているところに、ナディアに耳打ちされる。

「ハラハラする?」

急に耳に入ってきた言葉に、ニックスが二、三メートル下がって驚く。そんなニックスを

見るナディアは楽しそうな顔だ。しまいにはどうせなら告白しちゃいなさいよと、からか

い始める始末だ。ニックスはそれにも素直に反応を返すものだから、格好の玩具となって

いる。いつまでたっても船から下りてこない二人に焦れたサードが、来ないとおいてくぞ

と怒鳴って二人が船を下りるまで、そのやり取りは続けられた。

「じゃあグラン、ありがとな」

「ほ、本当に一万ギル、チャラだろうな!」

「ああ、本当本当」

また船借りるかもしれないけど、と内心キルトが思っているとは露知らず、グランは純粋

にチャラになった事を喜んでいるらしい。そんなグランに礼を言って、ラフィスト達はそ

の場を後にした。

「ところで、アンカースにはどうやって行きます?」

宿へ向かいながら、話は既に次の目的地アンカースの事になっている。とりあえず、どう

やってアンカースまで行くか、というのが目下の課題だ。マキノがワープで行けないのか

尋ねるが、行った事無い場所には行けないと色好い返事は返ってこなかった。第一、相手

に魔導士がいるとなれば、マジックシールドが張られている可能性があると述べる。現時

点では、フォートレスから船で向かうのが一番近くて良いという結論に至った。話し合い

は宿でもう一度する事にし、ラフィスト達はアンカースに向かう為の準備をする為に、で

買出しをする事にした。効率よく分担して買出しに行こうと、二組に別れる事にする。そ

の時、ナディアとティーシェルの二人が魔法の練習がしたいと言いだし、ラフィスト達と

別れて行動する事となった。待ち合わせの時間と場所を決めた後、ワープで人気の無い所

に移動した二人を除いて、ラフィスト達は公平にグとパで分かれる事にする。

「んじゃ行くよー、グーとパ!」

マキノの掛け声とともに、皆の手が一斉に差し出される。その瞬間、皆の視線がガーネッ

トの手に集まり、その視線が彼女へと移動した。

「ガーネットったら、何ソレー!やだなー、可愛いんだから!」

ガーネットの手はグーでもパーでもなく、また、チョキでもない。ジャンケンではありえ

ない手の形を出したのだ。ジャンケンを知らないと読んだラフィストが、彼女にジャンケ

ンを教える。その後、再びグループ分けを再開したが、ニックスがチョキ出したり、皆同

じだったりして中々決まらない。嫌々ジャンケンに参加していたサードが、早くも焦れ始

めたのを感じ取り、結局地面に阿弥陀クジを書いてグループを決めた。そうやって決まっ

たグループはラフィスト、ガーネット、マキノと、サード、ニックス、キルトのグループ

だ。女性に囲まれる形になったラフィストにキルトがグチグチ文句を言い始めるが、サー

ドにキリが無いと一蹴される。

「ラフィスト、俺達が食料などの調達に行く。―――……幸い、荷物持ちが二人もいる事

だしな」

「わかった。じゃあ、俺達は宿取った後に、それ以外の物を見ておくよ」

また後でと言い残すと、ラフィスト達がさっさとその場を離れて行った。その場に沈黙と

男三人が取り残される。

「お、俺達って……サードの」

「荷物持ち、か……はは……―――」

ニックスとキルトが泣き笑いの表情を浮かべるが、サードはそれを気にかける様子も無く

さっさと歩いて行ってしまう。相変わらずのサードのマイペースっぷりに、残された二人

が慌てて追いかけていった。




その頃、魔法の練習をしにきた二人は人気の無い森の中にきていた。ここならば魔物は居

たとしても、人はこないだろう。念入りに辺りを注意深く見回していたナディアが、うん

と一つ頷く。

「じゃあ、結界を張って早速練習しようか」

「そうね……じゃ、張って」

「は?」

「だから、結界!」

言った事が伝わらなかったと思ったせいか、ナディアの口調が強くなる。だが、伝わって

いなかったのではなく、結界を張る事に対しての疑問の声だったという事など、ナディア

は無論気付いていない。仕方なく、ナディア結界張る気ないでしょって言いたいのだと、

ティーシェルが口にする。それにナディアが当然のように当たり前でしょと答えると、テ

ィーシェルは黙って不貞腐れながらも結界を張った。

「……まずは二人の詠唱の速さを揃えなきゃね」

「とりあえずやってみましょう!論より証拠っていう事だしね」

それから数十分。先程までしていた魔法の爆発音は全く響いていない。中々息を合わせる

事が出来ず、ナディアがグッタリと木に凭れ掛かってしまったのだ。そんな彼女にティー

シェルが呆れた目で嫌味を言うが、大魔法を連発しているだけあって疲れているのか、そ

の口調に覇気は無い。それにナディアが返す言葉も八つ当たりに近い気がする。二人はそ

んな状況に、言いあっていても仕方がないと溜息をつくと、練習を再開した。

「我、ここに水を起こしこの大地は大水と仮すだろう……無限の重水の力、その礎となり

あまねく力を解放せん!」

「紅蓮の炎を巻き起こし、生あるもの全てを焼き尽くす……森羅万象全てに置いて輪廻す

る炎よ!」

二人の詠唱が重なり、同時に杖が光りだす。同時に巻き起こった合成魔法が、二人の前で

激しくぶつかり合った。合わさった魔法が消えるかどうか気がかりだったナディアが、ぶ

つかり合う魔法の元へ近寄りかける。その瞬間、青い火花が魔法から一筋漏れるのに気が

付いたティーシェルが、ナディアを後ろに突き飛ばした。

「爆発する!」

とっさに全体をカバーするのは無理だと判断し、ティーシェルは自分とナディアの周囲に

だけ強力な結界を張る。張り終えたと同時に、二人をもの凄い衝撃が襲った。結界越しの

衝撃に、とんでもない威力の魔法である事を悟る。漸く爆発が収まり、結界を解除し周囲

を見回してみると、周辺に生い茂っていた木々が吹っ飛んでしまっていた。あまりの光景

に絶句した後、ティーシェルが感心したように呟いた。

「相反属性の合成魔法だから、リアクションエクスプロードってところかな?」

「ねえ、ティーシェル……」

目の前の光景を呆然と見ながら、ナディアが口を開く。そして、あまりこの魔法は使わな

いようにしようと告げた。




宿の予約を終えたラフィスト達は、町に繰り出していた。初めてツァラに来た時は町をゆ

っくり見て回る事が出来なかったので、マキノやガーネットは嬉しそうだ。特に情報収集

の時居残りをしていたマキノのはしゃぎっぷりは、半端ではない。早足で先を駆けて行っ

てしまい、それに追いつこうとラフィストとガーネットが必死に追いかける。先を行って

いたマキノが後ろを振り返ると、二人の姿が無い。どうやら随分と先に行ってしまったよ

うだ。二人を待とうと、後ろを振り向こうとした時、マキノは誰かとぶつかってしまった。

「きゃっ」

衝撃でマキノがその場に尻餅をつく。相手の男は190センチ近くある長身の男だった為

か、ビクともしていないようだった。マキノが不注意を謝ると、相手の男が大丈夫と声を

かけ、手を差し伸べてくれた。マキノが立ち上がり、スカートについた砂埃をパタパタと

払っていると、男が懐を探り出す。何しているのだろうと伺ったマキノの前に差し出され

たのは、何かの石だった。

「あの……」

「君、武闘家だろう?これをあげるよ」

遠慮するマキノに、いいからと言って男がその石を握らせる。きっと役に立つよと言って

いる所を見ると、何か特殊な石なのだろうか。マキノが受け取った石をマジマジと見てい

ると、男がそれは魔石だと教えてくれた。

「魔石……ああ、知ってます!見た事あるし」

「魔石を?」

マキノの言葉に意外だったのか、男が尋ねる。最初何故不思議がっているのか分からなか

ったマキノだったが、そういえば魔法剣士以外魔石は買えないのだという事を思い出す。

買えないという事は、必然的に見る機会など無いに等しい。だから不思議がっていたのだ

ろうと思い、仲間に魔法剣士がいる事を男に話した。

「へぇ……俺も魔法剣士なんだよ。で、その人なんて人?」

「サード=ソーリュアっていうんですよ」

もしかしたら知ってる人かもね、と冗談まじりの口調で話していた男の顔が、一瞬こわば

る。一言そうかと小さく呟いた後、何事も無かったかのようにその表情は元に戻った。そ

して、じゃあと告げると踵を返した。

「あ、あの……ありがとう!」

マキノが礼を述べると、男が振り返りニコリと笑う。

「ははは、大した物じゃないし気にしなくていいよ。―――……サードに、よろしく言っ

ておいてくれ。僕の名は……いや、何でもない」

それだけ言い残すと、男は人込みの中に消えていった。そこに、漸く後ろからラフィスト

とガーネットが追いつく。知らない男と話していたのが気になったのだろう。ガーネット

がどなたですの、とマキノに尋ねている。

「多分、サードの知り合いみたい……魔石貰っちゃった」

「魔石!?」

驚いたガーネットがマキノにちょっと見せてくださると言うと、マキノは彼女の手にその

石をのせる。暫くその石をマジマジと見ていたガーネットであったが、その石をマキノの

手に返し、良い物を頂きましたわねと言った。

「え、でもたいした物じゃないって……―――」

「そんな事はありませんわ!これは魔石の中でも珍しい物で……」

ガーネットが何と説明したものか暫く迷った後、再びマキノから魔石を受け取ってジャン

プするよう言う。ガーネットの言葉を受け、マキノがジャンプすると、今度は魔石を手渡

し、もう一度ジャンプするよう言った。

「ほっ……と、あれ?何か超身軽!」

「あ、もしかして……それって能力増強系の魔石?」

前にサードが言っていた事を思い出し、ラフィストが口を開くとガーネットがそれに頷き、

このように白い魔石は身が軽くなる効果があるらしいと教えてくれた。へえと感心してい

るマキノに、能力増強系の魔石は珍しいものだってサードが言っていたと告げると、これ

ってそんな良いものだったんだと魔石をマジマジと眺めた。

「それより、サードに心当たりないか、聞いた方が良いかもな」

サードを知っているらしく、同じ魔法剣士である男。魔法剣士は、ある国に特に多いとキ

ルトは言っていた。サードがアンカースに関わっていた事を考えると、恐らくその国とは

アンカースの事ではないかとラフィストは思った。ならばその魔法剣士には、何かあるか

もしれない。例え会う事が出来なくとも、サードから話を聞く価値はあると思った。




待ち合わせの時間になった事で、ラフィスト達がその場所に向かうとそこには既にサード

たちが待っていた。そこにマキノが駆け寄って行き、サードに魔石を貰った事と、サード

を知っている風だった事を告げる。サードがどんな風貌かと問うと、マキノは赤褐色の髪

で背が高く、痩せ型の魔法剣士の男だと告げた。それを聞いたサードの顔色がサッと変わ

る。その変化は誰の眼から見ても明らかだった。

「もしかして、知り合いですの?」

ガーネットの質問にも言葉を濁し、サードが目を泳がせる。過去に何かあったのだろうか。

ラフィストがそう思っていると、ニックスとキルトがもったいぶらずに言えとブーイング

を浴びせる。サードはそれを無視し、顔を背けた。マキノはそれを機嫌を損ねたのだと取

り、文句を言った二人に何言ってんのと怒鳴る。

「だ……だってよー!マキノ!」

「内緒にしようとする方が、絶対悪い!」

マキノに言われた事でタジタジのニックスと、断言するキルト。どうやらこの二人には、

自分が悪いという意識が全く無いらしい。特にキルトは、完全に開き直っている。ラフィ

ストがどうしたものか、と思っていると、そこに別行動を取っていた二人が戻ってきた。

「ティーシェル、ナディア!……魔法、出来たのか」

ラフィストにナディアが当たり前でしょ、私を誰だと思ってるのよと返す。そんなナディ

アに、途中で投げ出そうとしてた人もいるけどね、とティーシェルは釘をさす事も忘れな

い。ナディアがどういう意味よ、とくってかかろうとするが、一同に流れる空気を感じ取

り何かあったのか尋ねる。二人にさっきあった事を説明すると、興味深そうな顔で二人は

サードの方を見た。それにも、サードは沈黙で返すと、ニックスがサードに悪態をつく。

「またダンマリか……チッ、つまんねー!」

ニックス、と窘めるマキノを、庇われた本人であるサードが制す。

「いい、マキノ。……確かにニックス、お前の言う通りだ」

一つ息を吐いた後、サードは更に言葉を続けた。

「前に、俺に傷を負わせた男について、言った事があったな……恐らく、マキノが会った

のはその人だ」

「え!そーなの?」

そんなに凄い人だったの、あの人とマキノが驚く。あの温厚そうな顔からは、とてもそん

な風には見えなかったからだ。このまま立って話すのも何だったので、ラフィスト達は食

事をしながら話す事にし、店の中へと入っていった。




レストランで食事をしていると、久しぶりの陸での食事で気分でも悪くなったのか、ティ

ーシェルが席を立ちトイレに向かった。それを見計らったかのように、ニックスがラフィ

ストを突付いて話しかける。

「どうした、ニックス?」

ニックスは黙って何かを指差す。ニックスの指の先にあったのは、さっきまでティーシェ

ルが食べていた料理だ。もしかしてティーシェルの料理でも取ろうと思っているのだろう

かと思い、ラフィストが彼に意地汚いな、お前という目を向ける。それに気付いたニック

スが慌てたて否定し、一気にまくし立ててきた。

「ち、違うって!俺が言いたいのは……」

「あ、もしかして食事の量の事?」

ナディアの言葉に、そう、そうなんだよとニックスが同意する。そんなニックスに、何か

問題でもあるのかとキルトが言うと、ニックスは問題大有りだと答える。

「何で?」

「だってよ、これでもうごっつぁんなんだぜ?」

「あの……ニックス。ごっつぁんって……―――」

ニックスがキルトに答えた言葉の中に、わからない単語が混じっていて疑問符を頭に浮か

べているガーネットが、ニックスに問う。そんなニックスをテーブルに沈めると、マキノ

が今のは気にしなくて良いからね、とガーネットに言って誤魔化す。

「でも確かにこれで御馳走様は……―――」

ないよな、とラフィストがしみじみ思う。よく見ると、四分の一も食べていない。よくこ

んな量で体が持つよなと感心していると、ナディアがまぁ、あの子38キロしかないから

ねと発言する。それに、その事実を知らなかったラフィストやキルト、いつも何事にも無

関心なサードでさえ驚きを露にする。いくら何でも男で38キロは無いよなとラフィスト

が、流石ハニーとキルトが、だから体力ないのかとサードが心の中でそれぞれ思った。そ

んな彼らの驚きには興味ないとばかりに、ナディアがティーシェルの皿を自分の方に引き

寄せる。こっちはニックスと違って旧知の仲という事もあり、遠慮などかけらも無い。席

に戻ってきたティーシェル本人も、その行為を全く気にしてないようだ。それよりも、自

分に視線が集まっている事を不思議に思っているらしい。

「じゃ、サード。早速話してよ」

マジマジとティーシェルを見ていたサードが、無遠慮にジロジロ見ていた事を気まずく思

ったのか、ドモった返事を返す。そして、姿勢を正すとサードは語りだした。

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