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−一章−〜仲間〜


「ひえー、やっぱ王都は違うよな。街とは比べ物にならない…」

空まで突き抜けそうな城を見上げて思わず呟く。

「それより早速王に会いに行かないと……うわっ!」

「きゃっ」

誰かとぶつかり(おそらく女性だろう)一瞬よろけたが、相手は転んでしまったようだ。ラフ

ィストは相手を見やり、手を差し伸べると、おずおずとだが相手の少女はラフィストの手

を取った。はにかんだ笑顔が可愛らしい、ブロンズ髪の美しい少女だ。

「ありがとう。……!いけない!!そろそろ……」

城に掛かっている時計を見やると少女は足早に走り去っていく。そんな少女の後姿を眺め

ながらラフィストはしばしの間ぼんやりとしていた。城下の人々からの奇異の視線に気づ

き、城に向かって走っていく間も顔の火照りと彼女の面影は消えなかった。




「王、調査団希望者が来ましたぞ」

「うむ、ご苦労であった」

王への目通りが思いの外すんなりいった事に驚きつつも(希望者が少ないのかもしれない)、

ラフィストは王の御前で深々と頭を下げていた。

「ふーむ、ホールス街のラフィストか……剣士なのだな。して、参加動機は?」

王の透き通るブロンズの瞳に見つめられ、戸惑ったが言葉は勝手に出てきた。

「…俺は、何も知らな過ぎるから…知りたいと、思ったんです。ランツフィートの事も、

アンカースの事も」

「ほほう……少々甘い性格のようだが、わしは嫌いではないぞ。よし!許可証を与えよ

う!!……許可証をここへ」

「はっ!」

「あ、ありがとうございます!」

俺をここまで案内した老将軍が一枚の紙切れのようなものと金貨が入った革袋を俺に手渡

す。許可証があれば国境を渡る事が出来るとの事だった。

「おお、それと言い忘れておったが他に二人の志願者がおるからその者らと一緒に旅立つ

がよい。んおっほん、では…――――――」

「お父様!」

バンッと派手な音を響かせて扉を開け、ずかずかと入り込んできた者の顔には見覚えがあ

った。さっき会ったあの少女だ。

「君は……」

「お父様お願いでございます!私も調査へ行かせて下さい!!城にいるだけなんて嫌です

わ!!!」

「何度言ったらわかるのだ!駄目だと言っているだろう!!」

どうやら俺の事は完全にアウトオブ眼中のようだ。そんな事を考えているうちに二人の口

論は終わりを迎えていたらしい。

「もういいです!お父様の馬鹿!!大嫌いですわ!!!」

「ガーネット!」

きた時と同じようにけたたましい音を響かせ、少女は王の間から走り去って言った。何と

もいえない沈黙がしばらく流れた後、バツが悪そうに王は口を開いた。

「ラフィストよ…恥ずかしいところを見せたな。だが親として娘を危険にさらす訳にはい

かん……そこら辺もわからんとはまだまだアレも子供じゃな。では後はよろしく頼んだぞ」

「は、はい!」

「ははは……王よ、若いもんは良いですのー。わしも後五年早ければ調査団に行っていた

のだが……ま、わしの分まで頑張ってくれラフィストよ」




「うーん、悔しいですわ。やはりお父様に言ったのがそもそもの間違いでしたわね。こう

なったら調査団の3人に紛れて旅立つ他ありませんわね!…旅支度も終わってる事ですし、

ばれない様に城を抜け出さなくては」




謁見の間を出たラフィストはその足で兵士の詰め所へ向かった。そこに2人の仲間(になる

であろう)人物がいるのだ。

「すみません…調査団に入られた方が2人いらっしゃると聞いてきたのですが……」

ラフィストが部屋にいる数人の男に話しかける。すると奥の方にいる紫髪の、大剣を持っ

た背の高い男がこちらへと向かってきた。年齢は20くらい、だろう。

「もしかして…あなた、が?」

しかしラフィストの呼びかけもそのままに、男はただ無言でラフィストの顔を見つめる。

「……ふざけるな……」

男はそう呟いて詰め所を出て行った。

「〜〜〜〜ッ…!何なんだよっ!!アイツ!!!」

「もしかしてお前さん、調査団に入ったのか?」

一人の兵に尋ねられた。

「アイツの名はサードって言うのさ。他人とは自分が認めた奴としか馴れ合わない、一匹

狼な奴だ。お前さんも運が悪かったな〜!あ、確かもう一人は“つかれた”とか言って宿

に行ったようだが。元気な奴でよ、野生児〜!!って感じだったぜ」

「そ、そうですか…」

先が思いやられつつもとりあえず先ほど出て行ったサードを追ってみる事にした。ラフィ

ストが詰め所を出、謁見の間へ続く階段の前を通りかかったところで何やら揉めてる声が

聞こえる。……この声はさっきの男、サードだ。

「ただの筋肉馬鹿と田舎の甘ちゃんと一緒だなんて冗談じゃない!俺はあんな連中と行く

なんてごめんです!!足手まといだ!!!俺一人で行かせて頂く!!!!」

全く、酷い言われようだ。ラフィストは物陰に隠れ会話を盗み聞きながらそう思っていた。

「サード。2人と協力できない場合は許可証を剥奪させてもらう。……いいな」

「!?失礼します!」

王の言葉に信じられないといった顔つきをし、叫んだ後謁見の間を飛び出してきた。隠れ

ていたラフィストは慌てて去ろうとしたがサードに気付かれ、胸倉を掴まれる。

「…不本意だがお前達と一緒に行く。俺には目的があるからな……アンカースへはどうし

ても行かなきゃならん。だが馴れ合うつもりは無い!……さっさと宿へ行くぞ!明日の予

定はもう決まっている」

そう言ってサードは返事も待たずどんどん先を歩いていく。

「ま、待てよ!!」

もう一人はせめてまともな奴であるようにと祈りながらラフィストはサードの後を追いか

けていった。




宿に着くと受付の娘は宿の中で一番いい部屋を王からだ、といって案内してくれた。

「こちらとこちらの部屋でございます。お連れの方が先に201にいらっしゃいますよ。

それでは失礼いたします」

「俺は2人部屋なんて御免だ…202へ行く」

そうサードは言うと部屋に行こうとした、が

「……いや、やはり先に酒場に行ってくる」

と言い、一人酒場に行ってしまった。(何なんだよ、一体…)ラフィストはとりあえず荷物を

どうにかしたかった為201に入る事にした。ドアをノックすると中から元気な声がする。

どうやら兵士が言った通りの人物らしい。

「入ります」

そう言ってドアを開け、中に入りラフィストは自己紹介しようとした。

「俺はラフィ……あ、お…お前もしかして!ニックス!?な、何でここに!」

「えーッ!!?じゃあ…お前まさかラフィストォォォォォー!?」

「俺、てっきりお前はホールスにいると思ってたぜ!」

「ちょっと理由があってこの調査団に入ったんだ…家出してきてね」

「うげぇぇぇ!い、いえでぇぇぇ!?お前、ジュリアちゃんはいいのかよ、ほっといて」

「ジュリアは…もういないよ。死んだんだ、7年前に」

「ッ!?わ、わりぃ…」

ニックスは聞いてはいけない事を聞いてしまった気がした。ラフィストが妹の事を大事に

思っていたのを良く知っていたからだ。

「ごめんな……」

ラフィストに聞こえない小さな声でポツリと呟いた。




サードは酒場で1人酒を飲みながら情報収集をしていたが誰も彼も大した情報は持ってお

らず、サードのイライラは増すばかりであった。

「……役立たずどもが」

チッ、と舌打ちして金を払い部屋へ戻ろうとする。と、ドン!という音と共に誰かがサー

ドに倒れ掛かってきた。

「誰だ!…っ!?」

目の前の人物を見て思わず声を失う。そこにいたのはぐでんぐでんに酔っ払ってはしまっ

ているがグラン王の娘、ガーネット姫であったからだ。

「ふにゃぁぁ……もう、駄目ぇ…うにゃ」

意味不明な言葉を最後にガーネットはサードの腕の中で爆睡してしまった。

「ななな…何で姫がこんなところにいるんだーーー!!」

とりあえず201号室にいるであろうラフィストとニックスに後のことを押し付ける為、

ガーネットを負ぶい上への階段を上り始めた。




ところ変わって201号室。ベッドに腰を下ろしているニックスとラフィスト、ソファー

に踏ん反り返っているサードと、やっと目を覚まし、サードが持ってきた酔い醒ましの水

をグビグビと飲み干すガーネットがいた。微妙な沈黙と空気が流れ、何とも気まずい感じ

である。

「ふう、すっきりしましたわ」

「ったく!フラフラになるまで飲むからだ!!」

緊張感の無いガーネットの言葉にさらに不機嫌になるサード。

「あのさ、お父さんも心配しているし城に帰りなよ」

姫の事を心配しているであろう王の事を思い、ラフィストはガーネットに帰るように促す。

ニックスもそうだと言わんばかりにうんうんと頷いている。

「わたくし貴方方にお願いがあって参りましたの!お願い、私も―――――…!!」

「駄目だ」

間髪いれずにサードが答える。

「ま、まだ何も言ってませんわ!」

「聞くまでも無い。十中八九『私も旅に加えて下さい』に決まっているからな」

「〜〜〜〜〜ッ!!」

サードに言いたかった事を言われ、顔が赤くなっていくガーネット。言い詰まったのか、

助けを求めるかのようにラフィストとニックスの方に視線を向ける。

「んー、サードの言い方はキツイけどやっぱり駄目だよ」

「そーだぜ姫さん。旅ってのは楽しいんじゃ無くて辛いんだからさー」

「そ、そんな事言われなくてもわかってますわ!私は何もしないでいるのが、無責任に見

ているだけなのが嫌なんですの!!私にだって出来る事ぐらいあります!!!」

机を叩いたショックでコップの水が零れてしまっている。ガーネットの気持ちは痛いほど

わかるがやはり危ない事には巻き込めない。

「俺たちは君を守る事が出来るほど強くは無いんだ…だから、本当に一緒に来る事は危な

いんだよ……」

「…お前達と一緒にするな」

「じゃあ貴方達!回復魔法は使えますの?私は攻守両方の魔法が使えますし、後方支援も

得意ですから絶対、ぜぇ〜たい役に立ちますわ!!」

「うひゃー!魔法使えんの!?スッゲー!!!」

そう叫んだニックスをサードとラフィストがどつく。ニックスの言葉にガーネットは満面

に得意そうな笑みを浮かべている。

「確かに回復魔法は出来ないが、薬草でも回復できる」

「そ、そうだよ!だから…ね?」

何とかガーネットを説得し、諦めさせようとするが得意そうなガーネットを前にしては無

理なような気がした。

「あら、戦闘中に薬草煮詰めてる時間なんてないんじゃなくて?」

「………」

誰ともなしにため息が漏れ、結局旅の仲間にガーネットを加える事が決まった。

「はぁ〜〜えらい事になっちまったな〜」

「その代わり!我侭言ったらその場に置いて行くぞ!!いいな」

「はい!ありがとう。これからよろしくお願い致しますわ、ラフィー、ニックス、サード

ん♪」

「さ、サードんんんんん!?」

ガーネットに“サードん”何て言われ青筋を立てるサード。

「サードでいい、サードで!!」

「まぁ、何はともあれよろしくなガーネット、サード!」

「おいおい…ラフィストー、俺にはー?」

「ああ、ゴメンゴメン…ニックスもな!」

ある事に気がついたらしいサードがはっと顔を上げ、深刻そうな顔をして呟いた。

「おい…部屋、どうするんだ……?」

「あ゛っ!」

「女の子に床で寝ろとは言えないし…それに男と一緒の部屋って言うのも拙いよな」

「んじゃラフィストとサードと俺の3人で一緒に寝るか!だから姫さんは202号室を使

ってくれよ!!」

「……先が思いやられるぜ」

「まあまあ、いいじゃないか、サード…」

「皆様、本当にごめんなさいね…それじゃあ明日に備えてもう寝ますわ。おやすみなさい」

「お。お休み…」

どうやらとんでもない旅になりそうである。




―――翌朝。

「おっっはようございまぁぁぁーす!元気ですか!?私はとっても元気ですわ♪さぁ!夢

と未知の旅へ旅立つのですよ!!」

物凄い勢いでドアを開け、大声でラフィスト達を起こしたのは城出娘のガーネット姫だ。

「…おい、まだ4時だぞ」

サードが布団の中で呟く。

「私!今日は3時から起きていましたの!!」

「……早いんだね」

「当ーッ然ですわ!さぁ、ニックス!起きてくださいまし!!」

毛布の中で丸まって爆睡しているニックスをガーネットが激しく揺さぶる。その勢いに負

けたのか観念したようにニックスが毛布の中から顔を出した。

「…こんな早くから一体どこに行くってんだよー、姫さーん」

「ニックス!姫さんではなくガーネットですわ!!」

サードは布団の中で着がえた後、眠そうに立ち上がり

「今日はまだ旅には出ないぞ。作戦を立て、情報を集めないといけないからな」

と言う。するとガーネットの顔がみるみるうちに曇っていく。

「早く…この城下から出たいんですの見つかったら私…きっと連れ戻されてしまいます

わ!!」

そういって泣き崩れるガーネットに3人は眉間に皺を寄せながらも顔を見合わせ、頷きあ

う。早く立つ事でガーネットの気が収まって大人しくなるのならという事での決定事項だ。

「……分かったよ」

「じゃあとりあえず近くの村か街に行くか!…どこに行く?」

ニックスがラフィストの荷物をあさって地図を取り出し、それをベッドの上に広げる。

「あのぅー…私…ココがいいですわ」

そう言ってガーネットはグランの南西を指差す。そこは紛れも無くラフィストの故郷、ホ

ールスだった。

「だっ…駄目!そこは絶対に駄目!!」

慌てて叫び、ガーネットの言葉を制す。

「何でですの?何か都合の悪いことでもおありになって?」

目を点にしながらガーネットが尋ねる。本当の事を言い辛いラフィストはしどろもどろな

状態で焦り始める。

「あー……いや…その……あの〜…」

「あのさー、そこラフィストの故郷なんだよ。コイツも家出してきたから拙いんだって、

ソコ行くの」

「ニックス!!」

ニックスがペラペラと喋ってくれたお陰で、俺は少し恥ずかしくなってしまった。もう何

て言ったらいいかも分からない状態だ。

「あら、そうでしたの?ならこっちの方にしましょうか?」

こういうガーネットに対し

「早くお前もお家に帰ったらどうだ?パパとママが恋しいんじゃないか?」

と言うサード。何て素晴らしいパーティーなんだ、と顔を引きつらせて思わず笑う。

「あー、えーっと…俺の事はいいだろ!じゃあ魔道の都カダンツに行く事に決定!!異議

は無いよな!?」

「……ラフィスト、変わったな〜」

「ラフィー、逞しくって素敵よ♪ガーネット、ときめいちゃった」

「…はは、ありがとうガーネット」

「おい、そろそろ行くぞ!」

話している間に準備したのか、出立の準備が出来た姿でサードが叫ぶ。少し不機嫌そうな

ところからして実は朝は弱いのかもしれない。

「ああ、行こう!」

「うーし、目指すはカダンツだー!」

「……その前に着替えたらどうですの、ラフィー、ニックス」

寝巻き姿の二人を見てボソリと呟くガーネット。

「早くしろよ」

さらに眉間に皺を増やしたサードが一言付け足す。俺達の着がえを見ないようガーネット

を部屋の外に追いやりながら。

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