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第五話

投稿が遅れて申し訳ないです。

いい訳ならたくさんできるよキリッ

 僕は制服を着ていた。ちらほらとちらほら同じ制服の人も見かける。コスプレではないだろうから同じ学校の人だと思う。付け加えると、入学式の日は、上級生は休みらしいから僕と同学年のはずだ。もちろんコスプレでなければ。





 そうだ、入学式の日を迎えた。電車に揺られ窓の外を意味もなく見つめながら、はっとしてそのことに気付いた。

 車内は混んでいて座るスペースはない。ほぼ一時間、ずっと立ちっぱなしだった。乗換がないのは楽だが、最寄り駅の関係で座れる可能性が著しく低いのが傷だ。朝っぱらから筋トレする趣味はないんだけど……



 しかし今日を迎えるまでは大変だった。

 二日前に例の発表があったわけだけど、あまりに暇だったせいで致命的なミスを犯してしまった。車で三十分近くかかるところを歩いていったことは間違いだった。IQ124の優秀児にあるまじき失態である。

 その時も猛烈に後悔――――ではなく、僕は何があっても後悔だけはしないと心に決めていて――――つまりは、反省していたというわけだが、今になってさらに反省している。疲れがとれない……若い人がうらやましい。見た目だけはまだ十五歳だけども。




 目的の駅への到着を知らせる放送が流れた。床に置いていたかばんを肩にかけ電車を降りた。

 改札口をくぐる。前世と違い、改札を通るだけでカードから運賃が引かれるためとてもスムーズだ。改札口で詰まってちょっとした渋滞が引き起こされることも滅多に起きなくなった。目をちらりと横に向けると、たくさんの同じ制服を着た学生が歩いているのが見える。

 私立魔城谷学園は中高大一貫で、そのこともあり内部生が何人かで固まって登校している。僕と同じように一人で登校する者も見かける。僕は外部受験で高校に入った上に、その外部の編入者数自体が多いとは言えないので、おそらく知り合いはいないだろう。具体的な数字として、内部から上がってくる人は約二百名で外部は約四十名といったところだ。ただ、僕は長く生きてきた分メンタルが強くなっており、友達が居ないといって落ち込むことなど決してない…………はず



 エスカレーターから降りると学校が見えた。

 誇張なしで、駅から十秒で着く。授業開始の一分前に駅に着けば、ほぼ百パーセントの確率で遅刻せずに済むだろう。これで助かるという人は多そうだ。時間に厳しい僕にはあまり関係ない話だが、役立つ来る日がこないとも言い切れない。



 校門をくぐり、壁に張り出されているクラス表と校内案内図で自分のクラスとその場所を確認する。両方ともディスプレイだ。一年B組三十一番、ひとクラスは四十人だ。僕って、た行なんだけど……一体何があった。



 校舎の方に目を向けた。右手には体育館やその他の運動施設、正面と左手にはそれぞれ五階建ての校舎がある。上から見ると丁度コの字型だ。そして正面校舎の奥には校庭とこれまた運動施設が広がっている。このことから分かるが、魔城谷学園はスポーツに力を入れている。スポーツと言っても、純粋に身体能力だけのものもあれば、超能力を駆使したものもある。両方とも強豪な学校として、他校に知られている。僕にはあまり関係のない話だが。暗部に入っているから参加する余裕がない。学外活動として適当に言い繕うだけだ。

 部活が強いのは敷地が広いことも一因だろう。中学と高校は同じキャンパスであるが、大学は別となっており開放的な趣が実に良い。別のキャンパスではあるものの、大学が遠いわけではなく、歩いて二,三分で着けることからちょくちょく大学の施設を利用しているとは、義妹になる可能性を秘めた麻衣の弁だ。

 麻衣の弁――――それすなわち麻衣もまたこの学校に通っていることを意味する。まだ中学生ではあるが、高校とキャンパスも一緒で始業時間も同じため、一緒に登校することになった。義母からそう伝えられたのだが、ついでに義妹にしてもらえれば願ったり叶ったりだ。

 あとは先生の質だな、と義妹に対しての逸る気持ちが顔に出ないよう、全精力を傾けて鎮めながら教室のドアをくぐった。取らぬ狸の皮算用にならないことを祈るばかりだ。

  先ほども似たことを言ったはずだが、この教室には残念ながら知り合いが居ない。つまり話す相手が居ない。周りがそれなりに盛り上がっている中でぼけっとしているのは恥ずかしいけれども我慢するしかない。

 でも頼むから先生よ、早く来てくれ。もしくは誰かが話しかけてくれれば……





 しばらくすると、僕の体感時間ではおよそ一時間、実際には二,三分程で二人の先生が入ってきた。僕の想いが、天に届いたかどうかは微妙な感じだ。

 彼らがどうやら担任になるらしい。

「みなさン、はじめまシて。私はアネット・エインズワースでス。一年間よろシくお願いしまス」

 はじめに、外人にしては流暢な日本語であいさつしたのは、名前からも分かるように欧米系の女性だ。年の頃はおそらく三十後半、短めで鮮やかなブロンドの髪と、同じくブラウンの瞳が印象的だ。ただ、ナチュラルのブロンドはほとんどいないはずだから、染めているか遺伝子操作をしているかのどちらかだろう。ちなみに、なぜかは知らないが「外人」は差別用語として、一般的な使用は禁止されている。正しくは、「外国人」だ。


「私は、深機 比呂雅<しんき ひろまさ>だ。以後よろしく」

 見るからに厳つそうな大男が答える。身長が百九十センチ以上のスキンヘッドが教師の職に就いているなんて俄かには信じがたい。良く採用してもらえたものだ。これで物理や数学の教師などだったら指さして笑ってやろうと思う。……まずい、これはヤバげなフラグが立った気が……




 全員が簡単な自己紹介を行った後、教師からホームルームを出て体育館へ移動するようにとの旨が伝えられた。そろそろ入学式が始まるらしい。なるべく早く終わってくれるとうれしい。主に僕が。そしてたぶん周りの人も。

 僕たち生徒は二列に並んで会場へ向かった。保護者たちの視線に晒されながらゆっくりと歩みを進める。用意された椅子の前に来ると、先生の合図に従って一斉に着席した。ほかの全ての生徒が入場し着席するのを待っていると隣に座っていた男子が話しかけてきた。

「君って見ない顔だけど外部なのか?」

「ああそうだけど」

「なるほど~、そうだ! 俺は知鍋 来<ともなべ らい>、君は?」

「僕は高宮 皇輝、よろしく」

「おう、こっちもよろしく。そういや入る部活はもう決めてんのか?」

「いや学外活動にするつもり」

「そうか……そいつは残念だな。で、どういうのをやってるんだ}

「総合戦闘術だよ。クラブに通ってるんだ」

「お! 俺もその部活に入ってるんだ。大会で当たるかもな」

「へえ、楽しみだね」

(やってないから当たるはずもないんだけど)

 スポーツとして競うことになると勝てるかどうか微妙なところだ。何と言ったって殺しとスポーツは違う。

 彼と話していると全員が座り終わったようで、学園長が壇上に置いてあるマイクの方へ歩いていく姿があった。

「我らが魔城谷学園は文武両道、心技体それぞれの充実を常に目標とし……」

 学園長の話とは長ったらしいことが一般的であろうが、今回の学園長はユーモアを適度に織り交ぜ、たびたび生徒たちの笑いを誘った。何日もかけて原稿を用意したと見受けられる。一生懸命原稿を用意しようが、準備に手を抜こうが生徒との交流はほとんどないことには変わりない。彼の努力が報われないことに変わりはないが、拍手を送りその苦労に敬意を示した。




 入学式を終えた僕は家に帰ることにした。ほかの人たちは、仲がいい連中で遊びに行ったり、両親と一緒に帰ったりしている。義母には「めんどう」の一言で片づけられてしまったし、特につるむ相手もいないのでしょうがない。一人で駅へと歩いていく。もっとも十秒ちょっとで着いてしまった。

 周りから見れば、ホームで一人さみしく電車を待っていると、後ろからトン、と肩を叩かれた。振り返れば見覚えのある顔があった。

 皮肉気に口元を歪める。

「知鍋か。内部なのに友達がいないとか、かわいそうだね」

「おまっ!? いきなりひでぇことを言う奴だな」

「冗談だって。そういえば同じ方面なんだ?」

「五つ先の駅なんだ。近いだろ」

「きてるね。僕なんて一時間もかかるからな。参っちゃうよ」

 それにしても彼とは話が良く合う。知り合い――――彼が僕をどう思っているのかは分からないが――――その関係になれて良かったと思う。順調にいけば友人になるかもしれない。



 五つ先の駅で彼が降りた後、暇つぶしとして電子リーダーで本を読んでいると、後一つで目的の駅に到着するとのアナウンスが頭の中に流れた。電子リーダーをかばんにしまい、ドアをくぐり早足で改札口を目指した……






 

 たしか今日は仕事はなかったはずだ。この数日間は暇になると聞いていた。そして実際に暇である。

 何もすることがない時に、トレーニング室で過ごすことが癖になっているのは別段不思議なことではないだろう。いつどこで誰に襲われるか分かったものではないのだから、肉体の鍛錬に励み技術を磨くことは欠かせない。とりわけ僕は。なぜか言い訳の言葉を考えながら、今日も黙々とトレーニングに励んでいた。



 自動ドアが開く音が聞こえた。

「高宮君今日もトレーニング? これで四日間連続じゃん」

 一体誰が入ってきたのかと思ったら哀瀬だった。

「なんか異様に暇なんだよね。出かける相手もいないし、学校もこれからだから」

 このところ良く見る気がする。縁があることは義妹になることの前兆か……?

「そういう私も四日連続なのよね。まあ駄弁ってるだけなんだけど。どうせならさ、今度の日曜日どっかに出かけない?」

「日曜? 予定は特に入ってないから大丈夫だな。うん楽しみにしてるよ」



 明日からは早速通常授業が始まる。しばらく話しながら一緒にトレーニングを続ける。すでに十一時を大幅に回った。きりが良いところでトレーニングを切り上げストレッチを軽く済ます。

 哀瀬に「おやすみ」と声をかけて部屋を出ると、僕はベッドに向かいさっさと寝ることにした。





 いよいよ明日から二度目の青春、本格的な高校生活の始まりを迎える。

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