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銀蛇

銀蛇

①銀色の蛇。

②月光や白波がうねうねと銀色に輝くさま。

学園の中庭は昼になると多くの学生で賑わう。昼食を食べる、友人との談笑、そしてお昼寝など様々な理由で生徒達は自由に過ごす。だが今日だけは、ある2人組に注目が集まっている。(かたわ)らから見ればカップルと思えるその2人。1人は銀髪で中性的な顔立ちの少女。そしてもう1人は眼帯をした少女である。


「まさか有栖さんとここで会えるなんて!いつから通い始めたの?」


「今日からです。私も圓龍さんがここの生徒だとは思いませんでした。てっきり年上かと…。」


「あの時は色々あったからね。お互いに自己紹介とかできなかったから。」


「それは、そうですね。」


平静を装う有栖だが内心焦っている。まさか学園で自分の正体を知る人物に出会うとは思わなかったからだ。しかもライバルチームのリーダーに。彼女個人は決して悪い人物ではない。が、ややこしい事態になることは目に見えている。2人がそれぞれ所属するチームは()()()()()()()()()()()のだから。


「このお弁当は君が作ったの?」


考えていると圓龍に声をかけられて我に返る。有栖の持っている弁当に興味を持ったようだ。


「あっ、はい。私と白蘭ちゃんで一緒に作ったお弁当です。」


「白蘭ちゃん?」


「うちのメンバーにいる白刃さんの妹です。この学園の生徒で今日一緒に登校してきました。」


「そっか、一緒に・・・。それはそうと美味しそうな弁当だね。」


「ありがとうございます。圓龍さんは何を?」


「私は学内の購買で買ったパンだよ。手軽だからね。」


「・・・よかったら私のお弁当少し上げましょうか?少し作り過ぎたので。」


実際は適量だが有栖の弁当をジッと見つめる圓龍にそんな提案をするとものすごく喜ばれた。


「いいの?じゃあお言葉に甘えて。」


「では…。」


有栖は自分の箸でおかずを取り、圓龍の口元にやる。何も気にせずにやられたおかずを口にする圓龍。いわゆる『あーん』行為を自然にやる2人。だが(はた)から見ればカップルに見える仕草に周囲から悲鳴があがっている。だが2人は全く気付かない。


「美味しい!有栖さん、すごく美味しいよ!」


「お口に合ってよかったです。」


ホッと安心する有栖。圓龍の嬉しそうに食べる姿に思わず笑いそうになる。


「料理上手なんだね。」


「いえ、特にそういうわけではなく。ブラッカーズの皆さんと一緒に作っているうちにできるようになったので・・・。」


「なるほど。ねえ、また明日もここで一緒に食べない?」


「え?」


「私も明日、お弁当作ってくるから。シェアして一緒に食べようよ。」


「それは・・・いい、ですよ。」


「やった!」


片想いしている相手と思わぬところで出会い、距離を縮めるチャンスを得た。嬉しさのあまり、ニヤけが止まらない圓龍だった。一方、有栖は…。


(明日は何食べようかなぁ。)


圓龍の気持ちに全く気づいていないのだった。

昼休みが終わり、午後の授業が始まった。満腹になって寝ている生徒もいるが、有栖はしっかりと意識を保ち、授業を聞いていた。これまで学校に行ったこともない有栖だが勉強はできていた。ブラッカーズのメンバーになってから、ルーク達に読み書きや計算などを教えてもらっていた。仕事で必要だからという理由と、有栖自身が必要と感じていたからだ。


(今までも勉強しておけば、っていう状況はあったからね。そう考えると、仲間になって良かったかも。)


仲間になるまで色々あったが、勉強の機会を与えてくれたブラッカーズには感謝していた。1人で生きていた時に比べると今が断然いい。しみじみと思う有栖だった。


(…ん?)


ふと、誰かに見られている気がして教室内を見渡した。だが誰も見ていなかった。次に、窓の外に目を向ける。有栖の席は1番後ろの窓際である。教壇から離れているため、余所見をしても気付かれにくい。


(あれは…。)


彼女が見つけたのはグラウンドを走る圓龍だった。この時間、彼女のクラスは体育のようだ。


(速っ。)


スタートの合図とともに圓龍がトップに立つ。あっという間に他者と距離をとり、見事1位になった。


(『銀蛇』って呼ばれる理由も分かるかも。)


銀蛇。学園内での圓龍の呼び名である。その理由は彼女の長い髪である。彼女が走るとポニーテールにした銀髪がゆらゆらと(なび)き、その姿がまるで銀色の蛇のように見える、ということらしい。それに加えて彼女の容姿とミステリアスな雰囲気がさらに人を惹きつけ、本人は気付いていないが彼女を慕う者は影で「銀蛇様」と呼んでいる。要するに、圓龍は学園内で人気のある生徒なのだ。


(まぁ、私には関係ないけどね。)


有栖は流行や人気に疎い。というより、興味がない。生きていくことに必要ならば興味を持つがそれ以外はどうでもいい。この学園に入ったのも調査と勉強のためである。恋愛などに興味はないし、そもそも自分がその対象になるとは思っていない。


「どうしました、有栖さん?」


「あっ、すいません。何でもないです。」


先生から注意され、有栖は黒板の方に目を向ける。今はまず、授業に集中しないと。

(有栖ちゃん、どうして学園に来たんだろう?)


体育が終わって1人休憩している中、ふと圓龍は有栖のことを考えていた。さっきは有栖に見られていたことでいつもより張り切ってしまい、かなり目立ってしまった。


(あまり目立ちたくないけどね。)


自分が学園内で何と言われているか、薄々気づいていた。別に気にしていないが、有栖と2人きりになれる時間が減るのは嫌だった。


(まぁ、会う機会はいくらでもある。時間をかけて距離を縮めればいい。それよりも・・・。)


有栖との交際はひとまず置き、何故彼女がここに来たのかを考えた。


(恐らく有栖ちゃんはルークからの指示でこの学園に来たはず。アイツら、また何かやろうとしているのか?)


ブラッカーズが力をつけた理由は、秘密裏に行動し、目的を達成したからだ。相手が気づいた時にはすでに手遅れ。何もできずに終わってしまう。圓龍はブラッカーズの動きに気付ける少ない人物であり、だからこそRAIDは戦えたのだ。しかし…。


(下手に刺激すればまたチーム同士の争いになるかもしれない。そうなったら次は勝てないかもしれない。)


ブラッカーズのもう一つの強み。それは個々の実力である。1人1人が10人の兵士に相当する戦力を持ち、単騎でチームを壊滅できる。数ではRAIDが上でも、それをモノともしない実力が個々にある。特にリーダーのルークは要注意だ。それはモンテーロファミリーのボスであるマルコが仲間と共に傘下に入っていることが何よりの証である。彼の実力はあんなものではない。一対一(さし)で戦ったことのある彼女だから分かる。あのチームとはうまく付き合っていきたい。何よりも…。


(有栖ちゃんとのためにも、彼らとは仲良くしていきたい。()()()()()()()()()()()()()()()()()!きちんとした格好で挨拶して、真剣に付き合っていることを示して、それから…うへへへ。)


チームの未来、そして自分の願望のために。そう決心しつつも、有栖とかなり先に進んだ関係を妄想し、だらしない笑みを浮かべる圓龍だった。

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