第2章 44話 仕事上がりの一杯
「じゃぁ、注文は以上で。
後、飲み物を最初にお願いします。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」
ミトンの所での実験を終えた俺達4人は、少し遅い夕食を取るべくギルド近くの食事処に来ていた。
ミトンも誘ったのだか、まだオーダーを受けた仕事が溜まっているらしく、職場で簡単に済ませるとの事だった。
忙しい所、時間を割いて貰った様で申し訳ない。
ミトン曰く、「新しい技術に触れる良い機会だ」と楽しそうではあったが。
「それにしても実験も良い結果が得られて、幸先良さそうですね。」
「あぁ、セリーの一言が無ければ実現出来ずに断念だったかもしれないよ。
もう少し魔法について学ばなきゃな。」
配られたおしぼりで手を拭い顔を拭く。
拭きながら思わずついついおっさん臭い事をしてしまったと思い慌てておしぼりを置くと、セリーも同じ様に顔を拭っていた。
なんか良く判らないが、少し安心した気がする。
「じゃぁ今日の夜は僕とお姉ちゃんとで、大地に魔法講座の開設だね!」
「そうですね、お風呂を頂いてから寝る前にしましょうか。」
「宜しくお願いします、先生方。」」
頭を下げる。
「あー、いいなぁ。
明日が休みなら私も、もう一泊ご一緒したいところですが。」
セリーの場合、魔法の勉強と言うよりは単にお泊りを楽しみたい様だ。
その内容は恐らく『お酒』だろう。
まぁ確かに色々な意味で楽しかったし、また大人のお酒を楽しみたい所だ。
色々な意味で。
「おまたせしました~」
早速注文した飲み物が運ばれて来た。
この異世界にも乾杯と言えばまずはビールと言うのが定番だそうたが、それは男性の間での常識と言うヤツらしく、女性にはビールよりもシュパシュパという飲み物の方が人気らしい。
日本で言う所の、スパークリング・カクテルの様な代物だ。
種類も果実系の物が色々と豊富の様だ。
俺も余りビールはそこまで好きでも無いので、マリリやセリーと同じくそのシュパシュパと言う飲み物にした。
メニューの文字が読めないので、取り敢えず希望を伝えて選んで貰う。
マリスはまだ未成年なので、当然アルコール抜きのソフトドリンクだ。
スパークリング・カクテルと言えばちょっと洒落た感じの聞こえでもあるが、実際にはビールジョッキに並々と注がれているのでお洒落さの欠片も無いのが少し残念だ。
皆がそれぞれのジョッキを手に取る。
「では大地さん、乾杯の音頭をお願いします。」
「え?あぁそうだな・・・んー、では、皆のお陰で幸先の良い出だしが行えた事に感謝の意を印しまして、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
考えもしていなかった事を突然振られたので、なんか凄い中途半端な音頭になってしまった。
まぁ、会社でも無いのに長々と話すのも何なので、これはこれでオッケーか。
ちょうど心地良い程の微炭酸が、乾いた喉の奥を刺激する。
みんな一気にジョッキの半分程飲み干し、ジョッキをテーブルに置く。
「「「「くーっっっ」」」」
正に仕事上がりの一杯を堪能するおっさんの如く、全員が感嘆のため息をつく。
「美味いね!オレンジの味が濃厚だけど甘すぎず、キッチリとアルコールを感じさせてくれる。
炭酸もキツ過ぎず、弱すぎず良い具合だ。」
「気に入って貰えて良かったです。
大地さんの世界でもシュパシュパって有るのですか?」
「うん、色々な種類のお酒が有るよ。
このシュパシュパってのは俺の居た世界で言う所の、スパークリング・カクテルってトコかな?
流石にジョッキではなくカクテルグラスとかに注がれて、ちょっとしたフルーツなんかが盛り付けられているのも有るんだけどね。
今度家で飲むときに、そんな感じで作ってみようか?」
「良いですね!楽しみです!」
「いいなー、大人は。僕も飲みたいなー。」
ちょっと不満げなマリス。
「流石にアルコールはダメだけど、マリスにはジュースでそういう感じの作るってのはどうだ?」
「うん!やった!」
無邪気に喜ぶマリスがなんとも可愛らしい。
「その時は是非とも、是非とも!私にもお声掛けを宜しくお願い致します。」
といつの間に注文したのやら、既に2杯目に手を出しているセリー。
相変わらず普段からは想像が出来ない程のお酒好きだ。
まぁ今日はお店出だし、それなりにしか飲まないだろうから気にしないでおこう。
なんやかんやと話に花を咲かせていると、注文した料理が運ばれて来る。
皆で色々と味わえた方が良いという事で、今回は自由に取り分けられる様に大皿料理を4種類ほど注文した。
中でも『モンビット』と言う、猿の様に長い尻尾を持った見た目ウサギの様な動物のステーキが注目だ。
このモンビットと言う動物は、その長い尻尾を巧みに使い木から木へとまるで猿の様に自在に飛び移る事が出来るそうだ。
非常に活発で動き回っているので脂肪分が少なく、それでいて程よい柔らかさの肉がヘルシーだと女性に人気のメニューらしい。
動きが速いなら捕獲が難しく高値に成りそうな気もするが、繁殖力が非常に高いので数が多く、更に大きな音を立てて驚かすとびっくりして気絶するらしく子供でも捕獲が容易なのだとか。
なので低価格で美味しいと、庶民には人気のメニューとなっている。
みんな空腹だったので、黙々と料理を堪能する。
料理も全体の3分の2を平らげ大分お腹が満たされてきた所で、今日の実験の際の話を軽く振り返る。
俺とマリリは3杯目のシュパシュパのお代わりを注文した。
セリーは5杯目の様だ。
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