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趣味でゆるゆる書いています。
文章の拙さはご了承ください。
携帯サイズなので短いです。
わがままでごめんね
これがわたしなの
一人が怖くて寂しがりや
でもしつこい男は嫌いなんだ
二週間前に変えたばかりのキセキが鳴った。騒がしい教室だから、キセキの音はそんなに響くわけではない。例え私たちの間の空気が心地よい沈黙であったとしても。しかし彼女の耳にはしっかりと届いていたようだ。
「千裕のケータイ鳴ってない?」
「そうかも」
「見なくていいの」
「どうせ、大した内容のメールはこないから」
私は紙パックに刺さったストローを噛みながら答えた。これは私の悪い癖。飲み終わったあとがひどく汚くなってしまっていつも後悔するものの、直らない。
「千裕の“大した”基準があたし未だに分かんないんだよね」
「そうかな」
「どんなにつまらない内容のを送っても、あたしには返してくるじゃん」
「伊織は大してるの」
「ばっかじゃない」
伊織は鼻を鳴らして笑う。良く言えば冷たい。良く言えば近づきにくい。良く言えば高嶺の花。悪くは言わない。だって悪くないもの。彼女の良さを周りはあまり理解しないが私は伊織が好きだ。
「何度も言うように私の携帯には伊織と親とあいつのアドレスしか入ってないのよ」
「あと時々彼氏?」
「彼氏は登録しないの、知ってるでしょ」
「まだそんな主義あったんだ」
「登録なんかしたってすぐ別れるし、登録して名前が出るようになったら苛々するし、じきに面倒くさくなるに決まってる」
キセキがまた鳴っている。キセキは曲ではなく携帯そのものの名前だ。私は音を鳴らすのが嫌いだからバイブレーションの違いで相手を判断することにしている。
「千裕、また鳴ってるじゃない」
「いいのどっちみち彼氏だから」
「中本誓ではなくて?」
「誓はサイレントだから鳴らないの」
「ふうん」
「私は自由に生きるのよ。誓に構ってばかりじゃいられない」
私はキセキにつけてある華奢なストラップをいじった。濃いピンクのキセキに合わせた女の子っぽいストラップ。こんなの私のキャラじゃないのになんて思いながらもつけてしまったもの。一度つけたら外せないもったいない精神のお陰で、キセキはかなりの乙女仕様になっている。
「なんだかんだでそれつけてるんじゃない。中本誓がくれたんでしょ」
「押し付けられたの」
「ね、なんで携帯ピンクにしたの」
「見た目だけは飾ろうと思って」
「キャラじゃないのに?」
「そう、キャラじゃないのに」
爪先ではじくとしゃらりと揺れる、キセキにはぴったりのアクセサリー。正直キセキの外見は一目惚れに近かったかもしれない。可愛いのに、少しだけ奔放で、それでも憎めなくて愛される、そんな雰囲気が多分私の理想だったのだ。
「あたし千裕は白にすると思ってた」
「それはどうして?」
「最近は清純なイメージを作ろうとしてるって言ってたし」
「ああ言ってたかも。じゃあ私がピンクって変?」
「そんなことは無いんじゃない?千裕ってカメレオンみたいなもんだし。似合わない色なんてないじゃない。あ、これ褒めてるよ」
「わかるよ、私は伊織が羨ましいもの」
正反対なものは引かれ合う。それが私と伊織の関係なのだ。私は透明、伊織は黒。私に私という色はなく、真白のキャンパスのように純粋でもない。彼女はむしろ何色にも染まらない。その凛とした姿が、彼女はそんなことないといって笑うけれど、私は好きだ。好きで好きで仕方ない。これが一種の恋だというのなら、そう言わせておけばいい。依存だって依存の何が悪いの、お互いが幸せなうちは構わないでしょ。そのバランスが崩れると問題になるだけで。
「伊織は私に押し付けがましいことを言わないから好き。息が詰まらなくてすむから」
「なんだかんだで付き合い長いからね」
「伊織と同じ大学じゃなかったら私、今頃押し潰されてるわ」
「引きこもり?むしろ非行?」
「さあね、どっちもかも」
「ばっかじゃないの」
「そうかもしれない」
私は汚くなったストローを素早く抜き取ってコンビニ袋に突っ込んだ。自分の汚点はできるだけみたくない、だから見ないふり。
ここに彼氏がいたとしたら、どんな目で私を見るんだろう。私と同じく見ないふりでも出来るだろうか。それともイメージが壊されたと怒って別れるだろうか。私の想像は極端すぎる、それはわかってる。けれど私はもう一人の私でしか人前に立てないのだ。
むしろそれがありのままの私であってほしいという希望と願いをこめて。
「難しいわ、自分に正直に生活するって」
「千裕の外見があと少しでも悪かったら、苦悩は半分くらいになってたかもね」
「まず見た目から入るのだって大切なことでしょ」
可愛くなりたい。好かれる人になりたい。理想な私に近づくために、中身が直せないならせめて外だけは、って。そのための努力は苦しくない。ありのままには振る舞えない。誰だってそんな部分はあるのだろう。私はそれが人より激しいだけ。
キセキが鳴る。おそらくは電話だったのだろう、長く響いていた。どうせ大した用事じゃない。だから出ない。どこにいるのとか何してるのとか私を繋ごうとして欲しくない。
「また彼氏?」
「今から彼氏じゃなくなった」
「お別れメールくらいしてあげれば」
「もう繋がりたくないの」
「携帯の意味がないじゃない」
「私の携帯は今は伊織専用で良いのよ」
私の世界は狭い。私の世界はまだひどく狭いのだ。キセキは伊織のためだけに存在してるようなものだ。ピンクのボディーもアクセサリも伊織の可愛い友人でいるためのステータスにすぎない。もちろん伊織はそんなことを気にするような人じゃない。私が嫌なだけだ。伊織は人の視線をあまり気にしない。使いやすさを重視したシルバーの携帯はなんの飾り気もない。その潔さを私は尊敬している。それと同時に彼女の魅力を理解できるのは私だけだと信じている。
誓は何を思ってストラップをよこしたのか、私には何となくわかる。だから嫌だ。心を読まれているようで落ち着かない。いつだってへらへらしてるくせに。私の何がわかるのって言いたいのに。友達も多くていつだって人に囲まれているのに私に構わないでほしい。
本当に嫌な、男。
キセキの青いイルミネーションが点滅している。
「大した用事だと思う?」
「さあ。あたしが中本誓からメールをもらうことはまずないから」
「あいつからのメールはどうせ大した用事じゃないわ」
キセキの画面を開く。そしてメール画面にスキップ。フォルダは四つ、一番下。
今何時なの、と伊織が私に訊いた。
「一時五分前」
「千裕は次の授業あるっけ」
「ないよ」
「メールはなんて」
「大した用じゃなかったわ」
私は伊織に画面を見せた。
馬鹿みたいなメール。でも面白い。きっと彼女もそう思ったのだろう。私の好きな笑い方で彼女は笑った。
「確かに大した用じゃないね」
『一時五分前』
本当に馬鹿みたいだ。
メールの中身がこれだけなんて笑っちゃう。何が言いたいかわからない。いや、本当はわかるんだけど、今は、知らないふりをしたい。次の授業はサボってやる。ある意味予想通りでしょ、わたしは思い通りには動かないっていうこれがせめてもの証。




