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47 一日の甘い休息

 そういや昨日、買い出しを見つかった俺は二人に責められたんだったな。

 前回のこともあったので、俺は必死に取り繕おうと話をしたが全く信用をして貰えず、その罰として添い寝を強要されたわけなのだが……何でこんな事になったんだよ。


 あの夢は、無茶がすぎる。俺を拘束してまであんな事を二人がするわけ無いだろう……もしかして俺の願望が夢として現れたということはないよな?

 俺は同じことを繰り返すが、ああいった趣味はやっぱり俺にはない。


「さすがに熱いな」


 しがみつく二人の腕をどけて、部屋に氷柱を作り出す。その周りを風を対流させ部屋の温度を下げていく。空気中の湿度が下がったこともあって、眉をひそめていた二人は気持ち良さそうな顔をしていた。

 二人を起こさないように、ベッドから降りて、寝汗で張り付く服を着替える。

 さて、ここまではいいのだが……これはどうすべきなんだろうな。


「アレス様。ちゃんと飲んでください」


「私のも食べてくださいね」


 聞こえてきた寝言に、俺は背筋に悪寒が走った。

 二人共それは寝言なんだよな? そうだよな?

 さっきのは夢ですよね? 既に起こっていたことじゃないよな?

 いま二人が同時に見ている夢の内容は、俺が見ていたものと全く違うものなんだよな?


 俺は自室であることを何度も確認し、二人の頭を撫でることで今が現実だと思いたかった。

 手から感じる感触を確かめていると、その手を捕まれ二人は少し嬉しそうに微笑んでいた。


「何だ、起きていたのか」


「おはようございます。アレス様」


「おはよう。アレスさん」


「ああ、二人共おはよう。そろそろ離してくれないか?」


 そう言うと二人は腕にしがみつき、どうやら罰というものが終わっていないらしく離すつもりはないみたいだ。

 ここまでさせたのだから、それで十分かと思っていたが俺のことをまだ許していないらしい。


 昨日の二人を思い浮かべていた。俺の言い訳に嘘がなかったとは言わないが、結果として二人は涙を溜めていた。その罪悪感により、本当のことを伝えると当然、烈火のごとく怒られ今に至る。

 こんな事で許されるのならと承諾したが、まだ贖罪は済んでいないらしい。


「約束はちゃんと守るから。とりあえず用を足したいのだが……」


「わかりました。ここで待っておりますので」


 ミーアさん? ここで待っているって何を?

 俺の手を離し頭まですっぽりと布団で顔を隠していた。


「私だって、居るのに……」


 俺が動こうとするとパメラはポツリと呟き、悲しそうな目をしていた。留めることはなかったが、枕に顔を埋めていた。

 用を足して、部屋に戻ると二人の枕は床に転がり、布団は半分に折りたたまれ上半身は何もかかっていない。

 ミーアは左手で、パメラは右手でベッドの真中に置かれた枕をポンポンと叩いていた。


 俺から其処に行けというのか?  いやいや、さすがにハードルが高いから。

 呆然と立っていると小さかった音は次第に大きくなり、またあの涙目でパメラは俺の方をキッと睨みつけてきている。

 夏の開放感がそうさせているのか、未だに叩くのを止めない二人。


「わ、分かったから」


 さっき見た夢のこともあり、俺は二人の指示に従い間に座ると不満そうな顔をしていたが、頭に手を置くことで納得してくれたようだった。

 この状態で再度横になるのが怖かった。


 一昨日までこんな事はなかったのだが……昨日のことが関係しているのはよく分かる。とはいえ、こんなにも甘えてくるとは予想できていなかった。


「アレスさんの手は不思議です。安心すると言うか……」


「はい。これが幸せな気持ちなのでしょうか?」


 この程度で幸せとか、感じるものなのだろうか?

 何気ない時間だからこそそう思うのかもしれない。

 あれだけ離れて欲しいと思っていたのに……


 ミーアの言葉で今はそんな事を感じていないのだからきっとミーアの言うようにこれが幸せなんだろうな。


 だけど……俺は……二人の思いに対して、何も応えてやることは出来ない。


「アレス様。そのようなお顔をなさらないでください」


「え?」


「むぅぅぅ。えいっ!」


 パメラに押し倒され、右腕を力強く抱きしめられていた。対抗するかのようにミーアはそっと指を絡めている。


「私達は、アレス様の帰りをお待ちしております。我儘を言えば、一緒に居たいと思います」


「ミーア……」


「ですが、アレス様の成されることは多くの民を救うことでもあります。ですので、私は……いえ、私達はアレス様の帰りを信じて待っております。だからどうか、ご無事で……」


 ミーアとパメラはシナリオが動き出したのかもしれないな。

 スォークランがなぜああなっていたのか?

 あのダンジョンからかなり離れていた所に、俺の知らない、いやゲームでは存在すらしていなかった新ダンジョンが見つかった。

 結界のことで、ロロソカの町に様子を見に行ったときに、ギルドではそんな話で持ち切りだった。


 そのため、多くの冒険者達はそこに招集された。緊急を要したのは、最悪なことに暴走の危険性があった為、他を放置せざるを得なかったのだろう。

 だからと言って、あそこまで放置をするのにはもっと別の理由があるのだろう。


 俺が動いたことで、改変はもはや俺の知っているシナリオから遠く離れている。だから、何が起こるのかすら予測が立ちそうにない。

 今回がいい例だろう。

 あの辺り一帯は、スォークラン同様に今最も危険な場所へと変わっていた。


「絶対に無茶なことはしないでください。お願いだから」


「パメラ。大丈夫だ、俺がそう簡単に死んでたまるか」


「絶対ですよ……絶対戻ってきてください」


 死ねるはずがない。今の俺には二人を残してなんて考えられない。

 以前はミーアを助けるためにと過ごしてきたが、いつの間にか俺が守る対象は二人になっていた。

 身近な存在になればなるほど、誰も死んで欲しくはない。そう思うのは当然のことだと思う。


「勿論だ。あ、そうだ。ちょっとぐらい遅れたとしてもあまり責めないでくれよ」


 二人は互いを見つめ合った後、笑っていた。

 今のアイコンタクトは一体?


「それは、どうしようかな?」


「おいおい、そんな事言わないでくれよ。前回はもっと早く帰るつもりだったんだぞ? ちょっと、籠もり過ぎていて日時を間違えただけだ」


「なら、次もそうなるから許せと仰るのですか?」


 ミーアはそう言って、腕を軽くつまんでいる。

 今は痛くはないが、次に発する俺の言葉を待っているかのようだ。


「分かった、九月にはちゃんと帰る……痛いぞ?」


「そんな見え透いた嘘には騙されません」


「アレスさんのことだから、九月に帰ってくるのも想像できません。いえ、本当は帰ってきて欲しいけど」


 二人には分かっているのか?

 一番の答えってやつが? 俺にはさっぱりで、見当が付かない。


「アレス様は為すべきことを為すだけです。ですので、そのような中途半端は許されません」


 中途半端……か。あの地方の現状はかなり切迫している。

 たかが一ヶ月でどうにかできる保証もない。だから、一ヶ月で帰ってくると二人は思ってもいないというわけか?

 全く、これはまた随分と舐められた物だな。本気を出した俺の力というものを見せつけてやろう。


「それじゃ早速準備を始めるか!」


「だめです。今日は私達と過ごしてくれるって約束したのに」


「はい、その通りです。アレス様は今日一日、私達の思う通りにしてくれると仰ったのに……」


 その日は二人に言われるがまま、少し、いやかなり甘々な時間を過ごす。


 何時まで続くのか、わからない。

 この二人との時間を、俺は一緒になって楽しんだ。


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