48 スォークラン再び
翌朝になり、俺はミーア達を見送り、必要になりそうなアイテムと食料を買っていた。
王都では昨日デートのようなことをした。ミーアが気になっていた場所……それは以前あの場所でセドラの贈り物をしろと言われたあの宝石店だった。
「いらっしゃいませ」
「少しだけ見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞご自由に」
今思えばよくサイズが合うものなんてあったよな?
俺が今買えるほどの金額を持ち合わせてはいない。あの時買ったのはアクアマリンだ。
けど、あれはただミーアと同じ色をしていたからというものだ。
それをミーアはまだ大事に持っている。
「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいですかな?」
「アレス・ローバンだが?」
「いえ、昔来られていた方に少し面影を感じましたので、そうでございました。ご立派に成長なされましたな」
皮肉というわけでもなさそうだな。
子供の頃を覚えていたということか?
「以前ここで指輪を買ったが……よく覚えていましたね」
「いえ、今しがた思い出したのでございます。黒い髪の少年が、懸命にお選びになられていたのを……」
そんなにまじまじと見ていたのか?
よく思い出せないのですけどね。
「青い石ばかりを見ておられましたので、もしやと思った次第です。お気に召す物があれば何なりと」
つ、つまりだ……今の俺は、子供の時から何も成長していないということか?
そりゃ以前贈ったものだし、同じものはどうかとは思ったが……自然と目に入ってくるんだよな。
「またのお越しをお待ちしております」
「あ、ああ。その時が来たら必ずここで、用意させてもらうよ」
「かしこまりました」
あそこに立ち寄ったのは、俺が昔贈ったものがどれぐらいの価値があったのかを知りたかったと言うだけだ。
それで、少しだけ昔のことを思い出した。
あの日まで俺は何も知らなかった。ここがゲームの世界であるということを……。
俺は変わったつもりでいたが……何も変わっていないということなのか?
そんな事を思いながら、空を駆け抜けていく。
ここからだとこの世界の広さを実感する。
飛行機から見た風景と同じような、世界は広がっている。
何処までも果てしない、巨大な大陸。
そのはてのもっと奥には、ゲームにない別の大陸があるのかもしれない。
そういう世界なら……俺とミーアは……。
「そんな事を考えている場合でもないよな」
ゲームのことが綺麗サッパリと無かったら、俺は素直にミーアを受け入れていただろう。
学園では、ハルトたちのように手をつなぎ、それはきっと幸せだったのかもしれない。
その幸せが続かないということを知っている。
だから、俺は、ミーアとパメラを受け入れようとしていない。
前回は訪れなかったタシムドリアンの街を歩いていた。
設定上では、ロロソカとあまり変わらない規模だったはずだ。にも関わらず、昼間だというのに街の大通りでさえ、歩いている人が全くいない。
店の入口には木の板がぶら下げられ、そこには閉店の文字が書かれている。
どこもかしこも荒れ果てて、燃えた形跡もある。
「こんな事がありえるのか?」
俺はゲームでの背景を思い出していた。多少寂れているイメージはあったが、ここまで酷いものではなかった。商店は普通にあって買い物もできていた。
今この場所で、営業をしている店舗というものが見つからない。
だとしたら、これもシナリオの改変によるものか?
ゲームと現実の食い違いで片付けていいものではないよな。
新ダンジョンの出現ということで、スォークランを放置する結果がこれだとしたら、この辺りの領主は何をやっている?
民を救うのが貴族の務めだろうが!
こんな状態のまま放っておくことは出来ないな。早い所ダンジョンを攻略して対処をしないと……ここにも残っている人はまだいるはずだ。
「お前。ラカトリアの学生だな。このダンジョンは立入禁止だ」
「は? 何を言っているのだ。ラカトリアの学生には入る権利はあるだろ?」
「領主の命令だ。即刻立ち去れ」
領主の命令?
仮に冒険者達が対処中だとしてもだ。学生が入れないというのはおかしな話だ。
ラカトリアの学生であれば、ダンジョンに入ることは誰であろうと可能はなず。
屋敷の近くに出現した、一度も探索をされていない未知ダンジョンであれば兎も角、こんな横暴は例え公爵家であろうとも、処罰の対象になりかねない。
ここの領主にどんな理由があるのか知らないが、俺も公爵家の末席にいるのだから見過ごすことは出来ない。
「どういうつもりなんだ。この辺りの領主は誰だ?」
「答えるつもりはない」
「話にならない。抵抗するのであれば力づくでも通るぞ! 覚悟は出来ているんだろうな?」
氷の大剣を作り出し、その剣先を三人の兵士へと向けた。
相手も持っていた剣を抜き構えたが、こうなることを想定していなかったのか、かなり怯え剣先が震えていた。
わざわざ私兵まで使って、しかもこの対応とはな……冒険者達にも同じような対応をするつもりなのか?
だとしたらそれは、紛れもなく王国に対しての反逆だ。
「こんな事をするなんて、全く何がどうなっているんだか」
エアスラッシュを放ち、周辺にあった木を粉砕させた。
その光景を見た兵士たちはガタガタと震えだし、氷の剣で兵士たちが構えている剣を両断する。折れた剣を捨て全員頭を抱えただ震えていた。
ここまでする必要は無いとは思うが、こんな命令に従っている時点で救いようすら感じない。
「答えろ。これは誰の命令だ?」
「い、命だけは。命だけは」
「質問に答えろ。誰がこんな命令をした?」
「ロンダリア伯爵様です」
ロンダリア? なるほど……誰かすら分からない。
しかし、伯爵がこんな事を?
「他のダンジョンにも配置しているのか?」
「はい。そうです」
はい、そうですって。ロンダリア伯爵、まさか子爵や男爵はこんなのに賛同しているというのか?
ここの公爵は……誰だっけ? ゲームでのダンジョンのことならある程度は覚えているけど、こっちに来てからはローバン以外のことは深く考えたこともなかったな。
しかし、爵位が相手なら俺がどうこう出来ない。
ここを終わらせたら父上に報告する必要があるな。両親からの小言はあまり聞きたくもないんだけどな。そうも言ってられないか……実家に帰る前にやることは山積みになっていくな。
「俺はダンジョンに入る。お前達は報告するのなら好きにしろ」
「ひっ……」
「だが、その先、お前達がどうなるかまでは知らないがな」
さて、一悶着はあったが、久しぶりとは言えまだ一ヶ月も経っていないんだよな。
やれやれ、放置は継続か……あのまま二いや、半年もあれば確実に暴走していたかもしれないな。
索敵を展開するが、残っている魔物の数はでたらめな数というわけでもない。
こんな状況を放置して、街ですらあの有様。
ロンダリア伯爵、他のダンジョンにも同じようにしているのなら裏は何かがあるんだろう。
「ぐおおっ」
「はいはい。今回はあまり相手をしてやるつもりはないぞ」
風魔法を使い、近くにいる魔物をすべて倒していく。
倒せば倒すだけ、ギルドから報酬の額は増えるが今はそれを気にしている余裕はない。
タシムドリアンの現状は、見るからに危険だ。
「バーストロンド!」
大爆発に巻き込まれ魔物を一掃するが、その音に反応する魔物もそれほど多くはない。
ここのダンジョンの危機レベルは、かなり下がっているのかもしれない。
ダンジョンで過ごしていくうちにある程度のことは理解している。
魔物はある一定時間が経過することで、魔物が出現していく。
その数には限度というものがあって、そこから魔物が増えるにはかなりの時間が必要となってくる。
「二階層も、この程度か……」
索敵で頭を狂わされるほどの数がいた場合。
魔物の反応力が飛躍的に上がるのか、かなりの数がこちらへと向かってくる。
あのバーストロンドを使ったときがいい例だった。
「どうせ同じだと思うけど……バーストロンド!」
ここでは、その反応が確実に薄くなっている。
奥の方では、魔物の出現の確認も把握できる。
だから……ここを放置して他に行くべきか、突き進むべきかを迷っていた。




