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白馬の王子様2

「グレータは魔女だ」

「…………は?」


グレータはあまりのことに固まる。

当然のごとく狼に襲われた後のこととか、なんでレオが人間になったのかとの説明をしてもらえると思っていたからだ。

そもそも『グレータが魔女』の意味すらわからなくて二の句が継げない。

もちろんヘルフリートも同じように固まっているが、ルルーも意外だったのか目を丸くさせ驚いている。


「……あれ?私まだ寝てるのかな?」


確認のためにグレータはほっぺたをつねる、しかし痛い。


「……実は、まだ暖かいベッドの中で眠っているのかな?。いやもしかしたら昨日起こった全てが夢だったのかもしれない。……待てよ……本当はルルーに作った薬を渡してなくて、お兄ちゃんもカエルにもなっていないとしたらどうだろう。そもそもお兄ちゃんがカエルになるなんてことがすでに非現実的なことだ、いやありえない。多分まだヘタレでグズて間抜けなお兄ちゃんは、ルルーに何も言い出せずに腐った雑巾みたいに面倒臭いことになっているに違いない。……うん……きっとそうだ。今すぐ燃やして処分しなくちゃ……」


とグレータは頭を抱えてそんな事をブツブツ言い始めた。なんとか今の状況を解釈するとそれしか結論が出なかった。


「ちょっ、ちょっと待て。どういうことなんだ?……っていうかグレータ、今ものすごく怖いこと言わなかったか?」

「うん、そうよ、夢……夢よね……ゆめ……ゆ……め……?」


ヘルフリートは恐ろしい物を見たように言ったが、グレータは完全に現実逃避をしてしまってなにを言っているのかもはやわからない。


「レオ、どういうことなの?」


ルルーがそう言った。この中ではルルーが一番冷静だ。

レオは頷き、続きを話し始める。


「まず。もしかしてと思ったのは、グレータが作った魔法薬でヘルフリートがカエルになった時だ。あれ、実は作っているところは僕も近くで見てたんだけど、グレータ以外で魔力を込められる隙はなかった。ちなみに僕は見ていただけで、何もしてない」

「え?そうなの?私はてっきりレオが何かしたんだと思っていたわ」


ルルーは意外そうに言った。

あの薬のことは、ルルーも疑問だったから、そうあたりをつけていたのだ。

最近、レオとグレータは少しずつ距離を縮めていた。だからレオがこっそり何かしていたんだろうと思っていた。

レオは首を横に振り、言葉を続ける。


「僕は何もしてないよ。どちらにしろ猫の姿じゃ、ろくに魔力はこめられない。それにヘルフリートがカエルになったって言うことは、しっかり魔力が込められいたってことだ」

「で、でも私はルルーみたいに。一つだけ使えるっていう魔法とか、使えたことなんてないよ?私が魔女なら、もうとっくの昔にわかってないとおかしくない?」


グレータは困惑しながらも話に割り込み、そう言った。

ルルーの話では魔女や魔法使いは一つだけ魔法を持っていると言っていた。

しかし、生まれてから今までグレータは何かしらの不思議な力が使えたことはない。


「そうだよな、もしそうなら俺が気づかないわけないし……」


ヘルフリートもそう言って頷く。

それこそヘルフリートは、生まれた時からグレータを知っているのだ。

兄がわからないわけがない。

ヘルフリートは心配そうにグレータを見る。それはそうだ、いきなり自分の妹が魔女だと言われたのだ。レオは頷き続ける。


「そうなんだけど、グレータの魔法はかなり珍しくて、そしてわかりにくい魔法だったんだ。今の状況や環境も合わさって、誰にもわからなかった。本人でも」

「レオ、もうちょっとちゃんと説明して」


焦ったくなったのか、ルルーがそう言って促す。


「わかってるよ。グレータ、昨日冬狼に襲われたこと覚えている?」

「う……やっぱりあれは夢じゃなかったのか……」

「冬狼は氷の魔法を使うのは見たよね?口に魔力を貯めて一気に吐き出し氷をぶつけるんだ。だけどグレータが僕をかばってくれた時、狼は確実に魔法を使ったはずなのに何も起きなかった」

「何も起きなかったって……もしかして!……」


ルルーは、何かわかったようで驚いたようにそう言った。


「そう、グレータの持っている魔法は、他の魔法を無力化する魔法なんだ」

「魔法を無力化?」


グレータはそう言ったものの、いまいちぴんと来ていないようで首をかしげながら言った。

そもそも魔法のことがよくわかっていないのに、いきなりそんなことを言われてもわかるわけない。

「なるほど、そう言うことか……」


ルルーはさすがにわかったようで一人でうんうんと頷いている。


「だから、グレータとヘルフリートが結界を越えてこの家に来れたのね」

「え?……ええっと?……うん……だめだ全然わからない……」


グレータは、訳がわからなすぎてもう涙目になっている。ルルーは詳しく説明し始める。


「おそらくだけど、2人は森で迷ったでしょ?ヘルフリートには魔法が効いたと思う、だけどグレータは魔法が効かなくて、街に戻ることもなく結果の中に入ってしまったのよ」


ルルーは難しい顔をして続ける。


「そしてまっすぐこの家にたどり着いた。だから結界にほころびが見つからなかったんだわ。グレータが一時的に結界を無効化しただけだったから結界は壊れてなくて、グレータが通った後は元に戻ってしまった。いくら探しても見つからないわけだ……」


ルルーがそう言うとレオは頷く。


「そう、冬狼の攻撃が効かなかったのも同じ理由。あの時グレータは無意識だったと思うけど、かなり強い力で広範囲に無力化の魔法を使ってたよ」

「あ!そういえばグレータとレオを探している時、明かりとして使っていた魔法の炎が消えてしまったけど……」

「おそらくグレータの魔法がルルーの魔法にも影響したんだろうね。力の使い方がわかるようになればその範囲をコントロール出来ると思うけど、あの時は限度がわからず最大限に力を使ってしまったんだ。あの後、グレータが気絶してしまったのも、急に魔力を使いすぎて魔力切れを起こしてしまったからだ」

「魔力切れ……」


ルルーとレオには納得できたのかもしれないが、グレータにとっては未だに困惑しかない。

グレータは唖然とレオの言葉を繰り返す。

確かにルルーの説明通りグレータがその無効化の魔法を持っていれば、全て説明がつくかもしれない。それでも、そう簡単に飲み込めるような事実でもない。

レオは容赦なく続ける。


「誰も。本人でさえもグレータが魔女だと気がつかなかったのは、グレータの魔法は身近に魔法がないと発現しない魔法だからだ。もし魔法使いや魔女が周りにいたとしても、見つけるのは遅かっただろうけど、全く魔女や魔法使いがいない環境で育ってきたなら見つかるわけもないよ。今回もたまたまこの家に来て魔法に触れたからわかったけど、もし街で何事もなく過ごせていたら死ぬまで気がつかなかったってこともありうる」

「なるほどね、確かにこれは珍しい魔法だわ」


ルルーはうんうん頷き言った。魔法にも色々な種類があって、過去の魔法使いが分類して研究してきた、だから資料としては残っているのだ。その中にグレータの魔法と同じような魔法を持った魔法使いは、過去にもいた記録はある。

それでもグレータの魔法は珍しい部類で、だからルルーもレオもすぐにはわからなかった。


「どんなに当てずっぽうでも、魔法薬の正しい方法をたまたま作るなんて絶対に出来ない。カエルになる魔法薬も、私が材料を言ってしまったから出来たけど、それがなかったら絶対に作れることなんてないものだから、街でグレータが魔法を使えるとわかるチャンスなんてなかった」


そこまで説明されたがグレータはまだポカンとしたいる。


「つまり、こう言うことよ」


そんなグレータにルルーがそう言って手に炎を出す、そうしていきなりグレータに放った。


「きゃあ!!」


驚いてグレータは腕で顔を覆う。しかし炎は突然、消えてしまった。


「……あれ?」


グレータは腕を上げた状態で固まる、熱くもないし衝撃もなかった。

炎はグレータにたどり着く前に何もなかったかのように消えてしまったのだ。

それを見ていたヘルフリートも、目を丸くしている。


「本当だ……何か壁があるみたいに炎が消えた。……これがグレータの魔法なんだね」


目の前で見ていたヘルフリートは、なんとか納得できたようだ。

しかしグレータはまだポカンとして自分の手や腕を見て、何もなっていないことを確認している。


「私が……魔女……」


グレータはそう言って、自分の手を見つめる。

そうするとレオが微笑み言った。


「そう、そして僕も魔法使いなんだ」

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