白馬の王子様3
「…………は?」
グレータは、まだ自分が魔女だと言うことを納得しきれていないのに、また新たな情報を聞かされまたもやぽかんとなる。
「……え?レオも……魔法使い?」
「そうだよ、グレータと一緒」
レオはそう言ってにっこり笑う。
色々なことを聞かされたグレータは。美形が笑うと、さらに眩しいなとグレータは見当違いなことを考え始める。
とはいえ、考えてみれば今さっき猫が人間になっているのをその目で見ていたのだ。
明らかに魔法で変身したんだろうと言うことは推測できる。
「……え〜っと、じゃあレオは猫じゃなくて人ってこと……?」
「それに関しては、私が説明するわ」
そう言ったのはルルーだ、少し申し訳なさそうな顔をして話し始めた。
「本当はこの家に住んでいる人間は私だけじゃないの、レオと2人だったのよ。レオもおばあちゃんの弟子の1人で、私にとっては 弟弟子になるわね。だからおばあちゃんが死んでしまった後は、私たちは2人で暮らしていたのよ」
よく思い出してみると、ルルーは一度も一人暮らしをしているとは言っていない。
「それで。なんで猫になってまで、正体を隠してたんだ?」
ヘルフリートは不思議そうに聞いた。別に隠れていてもよかったしルルーと同じように人として出てきてもよかったはずだ。
「う〜ん、なんて言うかレオはかなりの人見知りで、知らない人は苦手なの。それに元々2人にはすぐに出て行ってもらう予定だったから、じゃあ猫に変身しておいてやり過ごそうってことにしたのよ。まさかこんなに長期になると思ってなかったしね……」
ルルーは苦笑いでそう答えた。要するに、一度猫の姿で現れたおかげで言うタイミングを逃し、後に引けなくなってしまって、ずっと猫の姿で生活していたのだ。
さっきルルーが言ったように、人見知りというのもあって。そのまま春までやり過ごすことにした。でも、またもや予定が変わってしまった。
「ずっと猫っていうのも、結構不便なんだ。ちなみに変身できるのは猫だけじゃないんだ」
レオがそう言うと。男の子の姿からあっという間に変化して、今度は小さなネズミになった。
「こんな風に色々な動物に変身出来るのが、僕の魔法なんだ」
そう言っている間もネズミだったレオはうさぎになったかと思うと、今度はよく見慣れた猫の姿に戻った。
「あ……もしかして気を失う前に見た、おっきな竜もレオだった?」
グレータは気を失う寸前に巨大な竜が現れたのを思い出した。
あの時、とっさにかばったはずのレオがいなくなっていた。しかしあの竜がレオならば、全て説明がつく。
「そうなんだ。本当はグレータから引き離してから、変身して狼を遠ざけようとしてたんだけど……」
レオは気まずそうにそう言った。レオはあの時、自分が他の動物に変身できることを隠すために狼をできるだけグレータから引き離し、姿が見えないところで竜に変身して冬狼を追い返そうとしていたのだ。
「……あ、だから木のうろの中で待ってろって……」
グレータはあの時のことを思い出してがっくりする、自分のしたことは結局余計なことでしかなかったのだ。
「はっ、そうだレオ途中で足を怪我してなかった?あれは大丈夫なの?」
「あ〜あれも冬狼の気を引こうとして演技をしたんだけどね。……失敗したよ、まさかグレータが走ってまで助けようとしてくれるとは思ってなかった」
あの時レオは自分に注目させるために必死だったのだ。だから説明する暇もなく、グレータはレオが怪我をしたと勘違いしてしまい、あの結果になった。
そう言われてグレータはまたがっくりと肩を落とす。結局のところあの時グレータはレオの邪魔しかしてなかったのだ。
「グレータ落ち込まないで、グレータのせいじゃないから」
レオはそう言って人間の姿に戻り、グレータの手をギュっと握った。
「わ!……あ、あの」
まだ見慣れていないレオの姿に手を握られて、グレータは真っ赤になって固まる。
「僕はグレータが身を呈してかばってくれたこと、すごく嬉しかったんだ。でもあんな危険なことはもうしないでね」
「あ、あう……」
間近にそんな綺麗な人にまっすぐ見つめられ、悲しげな顔をされるとグレータは、もうどうしていいかわからなくなってしまう。
しかもレオはなんだか甘い雰囲気を漂わせている。
ヘルフリートはその状況に少し眉をひそめた。
グレータがあわあわしていると、レオはそのまま続ける。
「それから、ずっと魔法使いだってこと黙っていてごめんね。ルルーも言っていたけど僕自身こんなことになるとは思ってなかったんだ……」
レオは申し訳なさそうに言って、さらにグレータの手をぎゅっと握る。
「え?う、うん……あの、えっと……」
グレータはなんとか答えようとしたが、あまりにレオが近くてうまく答えられない。
目の前の男の子がレオだと言うことは、なんとか理解できたが。いかせんレオの顔が綺麗すぎて目がまったく慣れてくれない。
真っ赤になりながら、グレータはもごもご返事する。
「そう言えば、なんでいまさら正体を表したんだ?さっきの話を聞く限りではこのまま黙っていても、グレータにはわからなかったと思うんだけど……」
そう言ったのはヘルフリートだ。
グレータは気を失うまでレオのことをずっと猫だと思っていたし、初めて人間のレオを見たときもレオだなんて気がつかなかった。このまま黙っていても問題はなかった、むしろレオの立場になったら黙っていた方が良かったのではないかと思った。
「そ、そう言われてみれば……そうかも。なんで?」
グレータもヘルフリートの言葉に、ハッとしたように言った。
それを聞いたレオは、はにかみながら言う。
「だってグレータにプロポーズされたから」
「「「はあ!??」」」
ルルーとヘルフリート、それからグレータは同時に驚き立ち上がる。
「え?ど、どう言うこと?仲良くなったのって思っていたけど、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「グ、グレータ!どう言うことだ!結婚なんて早すぎるぞ!こんなどこの馬ともしれない男なんてお兄ちゃん許しません!ダメだ!」
「え?し、知らないよ!え?どう言うこと?私こそ聞きたいよ。言った覚えなんてないよ!」
ルルーとヘルフリートは同時にグレータに詰め寄るが、グレータもなんのことだかわからず慌てる。三人とも完全にパニックだ。
「だってグレータ言ってたじゃん、ルルーとヘルフリートの邪魔になりたくないから家出するって、だからレオも一緒に行こうって。これって駆け落ちしようってことだよね?」
レオはしれっとそう言ってニッコリと笑う。
「これプロポーズだよね?だから僕も男として責任を取らなくちゃって思ったんだ」
今度は部屋の中が水を打ったように、静かになった。
しかし、静かだったのは本当に一瞬だった。
「ち、違う!そ、それは駆け落ちじゃないわよ。あれはレオが猫だと思ってたから……」
「そんなことより、グレータ!家出ってどう言うことだ!お兄ちゃんがグレータのこと邪魔だなんて思うわけないじゃないか!」
「え?あ、あの……」
「そうよグレータ!邪魔だなんて思ったことないわよ。私にとっても妹みたいなものなんだから出て行くなんてダメよ」
「い、いや。その……」
「ルルーのことは好きだけど、グレータが出ていくなら俺も出るよ。たった2人しかいない兄妹だろ水臭いよ」
グレータは弁解しようとしたが、家出のことを2人に責め立てられ、口を挟む隙間もない。
「そ、それは……その……ッハ!」
さらに言い訳をしようと思ったその時、グレータはある事に気がついた。
「ちょ、ちょっと待って。レオが人間だったってことは、レオと一緒にいた時に喋ってた私の独り言とか、お兄ちゃんの愚痴とか変な鼻歌とか全部聞かれてたってこと……?」
グレータは薬草を摘みにいつもレオと一緒に行っていたことを思い出す。
レオのことは、頭のいい猫だなとは思っていたものの、まさか言葉を全て理解しているのとは思っていなかった、だから油断してベラベラとどうでもいいことをずっと話していた。
気を抜くと出る、変な鼻歌も聞かれていたということだ。
それなのに……目の前にいるレオは、自分とおそらく歳の近い男の子、しかも超がつくほど綺麗でかっこいい男の子だ。
あまりにも恥ずかしくてグレータは変な汗が出てくる。
「グレータ、出て行くなんて言わないよな?」
「そうよ、グレータはよく働いてくれるじゃない。グレータがいないと私、困るわ。だからお願い出ていかないで」
「グレータのあの意味不明な歌は、可愛いと思うよ」
三人に畳み掛けるように話しかけられて、もうなにを話していいかもわからなくなる。
「あ……あう……その……」
そう言えば昨日は、結構ひどい下ネタも喋ってた。
思い出してグレータは、顔から火が出るほど真っ赤になる。
しかもレオが変なところを褒め始め、事態の収拾がつかなくなってきた。
「ええっと……ああ……あぅ」
ここでグレータの頭はいっぱいいっぱいになってしまう。
なんせ朝から目を覚ましたら知らない男の子がいて、それが更に猫のレオだと言われ、混乱していたのに今度はあなたは魔女ですと宣告された。
そしてトドメがこれだ。
グレータは大人びている発言もするがいってもまだ子供だ。
大人でも混乱する状況に、どうすればいいかなんて、わからなかった。
「う……うわーーー!!!」
「グレータ!」
パニックになったグレータは、立ち上がると叫び声をあげ、顔を真っ赤にさせながらいつも寝ている部屋に走って飛び込み、閉じこもってしまった。




