津谷景子の一日目 その8
ハーモニカ横丁は吉祥寺の駅のすぐそばにある。横丁に入るとごみごみとしていて活気があって、何だか急に昭和の街にタイムスリップしたようで面白い。
魚屋さんや靴屋さん、ラーメン屋さんに飲み屋さんなど何でも揃っている。
おしゃれな街の中で横丁に一歩足を踏み入れると、一転した雰囲気が楽しめて、それがまた楽しい。
私は夜のハーモニカ横丁はあまり歩いたことがなかったが、赤提灯があちらこちらにぶら下がり、外から楽しく飲んでいるのが見える。
立ち飲み、ちょい飲み、がっつり飲みなどいろいろな飲み方ができるみたいだ。
「みんな楽しそうに飲んでますね」
「ほんまやな。ケイさんはお酒飲むの?」
「付き合い程度ですね」
「ほんま。じゃあ、犯人を捕まえたら祝杯をあげようか」
そんな会話をしながら私たちはハーモニカ横丁を抜けて、サンロード商店街を歩いた。
このまま私の家まで明さんは送ってくれるみたいだ。
そう言えば明さんは私の住んでいるマンションを知っていた。
マンションの玄関ホールのオートロックを開けているところで、バッタリ明さんと会ったことがあるからだ。
どうやら同じスーパーで買い物をしているみたいだね。
なので家を知られるから、送ってもらうのはなあ、と躊躇する必要もなかった。
私のマンションは吉祥寺駅から歩いて十五分ほどの場所にある。
ワンルームのバスキッチン付きで家賃が七万五千円だ。
日当たりの良い部屋で、オートロック付きの玄関ホールもあるので、お得な物件だと私は思っている。
「このまま帰って大丈夫なんですか? 犯人がいたら襲われません?」
今の時間はちょうど九時である。犯人がいるとわかっている場所に行くのは危険じゃないかなと私は思ったのだ。
「まあ、確かにそういう考え方もあるな。ただ俺がおるから襲われはせんと思う。逆に不審な奴がおったら捕まえられるからそっちのメリットの方が大きいと思うで」
さすが男性は攻めの姿勢があるなと私は感心した。
明さんってなかなか頼もしい。