津谷景子の一日目 その6
「冗談ちゃうで。本気で聞いてる?」
逆に私が明さんに不審がられてしまう。
「完全に信じたわけじゃないですけど、教えてくださいよ。凄く興味があります」
「ケイさんって面白い人やったんやな」
そう言うと明さんは笑顔になった。
「まあ、それやったら話が早い。ケイさんは今日の午後九時ごろに刺されて死ぬことになってる」
刺されて死ぬと聞いて、それは痛そうでやだなと私は素直に思った。
「それは痛そうで嫌ですね」とそのまま口からも出ていた。
「それでやな。刺されて死ぬことはわかってるんやけど、俺の予知も万能ってわけじゃないねんな。犯人なんか全然わかってない。何か殺される心当たりない?」
「ない、ない」と私は首を横に振りながら言った。
「ってことはやっぱりストーカー的なやつなんかなあ」
そう言うと明さんは水を一口飲んで、黙って外を眺めていた。
まだ時間は九時にもなっていないが、酔っ払って笑っている若者の集団が外を歩いていた。
「あのわかっていることってどういう事なんですか?」
「そう多くないな。ケイさんが今日の午後九時ごろに刺されることと、物取りの犯行ではないってことくらいかな。通り魔かもしれないけど、自宅のマンションの前で殺されているから狙われた可能性が高いと思う」
殺されていると聞いて背筋が寒くなってきた。
これは私のことを言っているのだと、今更ながら気がつく。
何で私が殺されるのだろう?
悪いことなんてしていない。
自分で言うのもなんだけど、とても善良な一般市民の私が殺されるとは理不尽である。
信号無視でさえしないのにね。
しかし、そう言えば吉祥寺で一週間ほど前に殺人事件が起きていたのを思い出す。
若い一人暮らしの女性が、自宅マンションで刺されて殺されていたらしい。
けっこう家から近い場所だったので不安になったのを覚えている。
「通り魔やったら今日の事件を未然に防いだら助かる可能性は高い。でも狙われているのなら犯人を何とかしないとずっと危険やろ。だからこれから一緒に犯人を捜そうと思う。それに一人だと危険だからボディーガード役も引き受けるよ」
「ありがとうございます。でも警察に連絡しなくて大丈夫ですか?」
「知り合いが予知能力を持っていて、今日襲われると言われたから守ってくださいと警察に言いたい?」
確かに、それは信じてもらえないだろう。
簡単に信じてしまうのは私くらいかもしれない。
でも私も本気で信じているわけじゃないんだよ。
信じたほうが楽しそうだと思っているだけ。65%くらいしか信じてないから、私は大丈夫。
「警察には言ってもしょうがないですね。でも明さんは何で私にそこまでしてくれるんですか?」