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天間明の三日目 その3と世界を壊す足音Ⅲ

眼が覚めると、もう外は薄暗くなっていた。

時間を確認するために携帯電話を見ると、ケイからメールが来ていた。


『明るいうちに帰るので心配しないでください』

 

どうやらケイは一人で帰ったらしい。時刻を確認すると二時間近く寝過ごしている。

ケイは無事に家に帰れたのだろうか? 

ケイのことが心配でもあったが、それよりも約束をすっぽかしてしまったことに明は落ち込んだ。

そして、だんだんと明の中から危機感がなくなっていることに気づく。

ケイがナイフで襲われた場面を思い出し、心を奮わせた。

もしケイが襲われたなら予知夢を見ているはずだという思いもあるが、毎回、ケイの危機に予知が出来るのかどうかわからない。


明は少し緊張しながら、ケイに電話を掛けた。

コール音が鳴るたびに鼓動が早くなる。

コール音が途切れ、声が聞こえてきた。


「もしもし」


「もしもし、無事だった?」


「はい、大丈夫でしたよ」


ケイの声を聞いてホッとした。


「目覚ましを掛け忘れてたようで、起きれなかったわ。迎えにいけなくて悪かったね」


「いいえ、そんな」


何だかケイの返事の歯切れが悪かった。

遅刻したのを怒っているのかもしれない。

もっと説明するべきだろうか? 

ひどく疲れていて、思った以上に熟睡してしまった。

でもこんなことを言ってもいい訳にしかならない。

それに下手に言ったら、無理にホットヨガをしたせいで疲れたとケイを非難しているようだ。

自分の遅刻を人のせいにするような人とは思われたくない。

そう考えて、もう遅刻のことは何も言わないことにした。


「明日の朝も迎えに行くよ。今日と同じ時間で大丈夫かな?」


「あ、明日は朝ヨガがないので家を出るのは九時くらいです」


ケイの言葉にドキリとする。

本当に朝ヨガがないのだろうか? 

それとも一人で黙って行こうと考えているのではないかと不安に思ってしまう。


「朝ヨガないんや。起きてみるとやっぱり筋肉痛がひどくてね。明日のアシュタンガヨガは休もうか迷っててんな。それならちょうど良かった」


「なら明日は陰ヨガもやるべきですよ。明さんもヨガウェア持ってきてくださいね。一緒にやりましょう」


陰ヨガを誘われたので、ケイはそれほど怒っていないのかなと思った。

それでも何だかケイの言葉のテンポが日ごろより悪い気がする。

やっぱりちょっと怒っている気がした。

 

明日の朝、迎えに行く約束を出来たので少し安心した。

電話を切ると早速明日のおきる時間にアラームがなるように携帯電話をセットする。

さすがに明日も寝坊するわけにはいかない。

 

少しの間、明は寝坊してしまったことに悶々としながら、壁に持たれて座った。

思わずため息が漏れてしまう。

何となく部屋を見渡すと、枕元に今日履いていたベージュのパンツと白のサマージャケットが畳まれて置いてあった。

明はシャツをハンガーに掛けても、畳むことはしないので、すぐに五十鈴が来ていたことに気づく。

部屋を出て、玄関までの通路兼台所に出てみると、味噌汁が作って置いてあった。

炊飯器には米が炊かれて、冷蔵庫には肉じゃがが入っている。

 

明は部屋に戻ると五十鈴に電話した。


「もしもーし」


五十鈴の後ろから輝の声も聞こえてきた。今日も元気そうだ。


「もしもし。今日来てくれたんだ」


「うん。もう肉じゃが食べた?」


「いや、まだだけど、どうもありがとう」


「多く作るのはそんな手間掛からないからね。それより今日、ケイさんと会ったよ」


「え? 何で?」


「お兄ちゃんがわざわざ助けたって言うからどんな人かなあと思ってさ。ってかケイさん、凄い可愛いじゃん」


「うん。そうだね」


「ケイさんお兄ちゃんに気があると思うんだよねー。ちゃんとアタックしてるの?」


「え?」


「駄目だよー。あんな良い人を目の前に大人しくしてたら。それじゃもうそろそろ輝をお風呂に入れるから切るね」


そう言い残して電話は切れてしまった。

何だか明の恋心は五十鈴にバレバレみたいだ。


お腹が減ったので、早速五十鈴の用意してくれた肉じゃがと味噌汁を温めて食べることにした。

ご飯を食べながら、持つべきものは面倒見の良い妹だなと明はつくづく思う。


両親がいないのでお互いがお互いの両親役をやろうという思いがあるのかもしれない。

明に母親役は出来ないから、五十鈴の父親役をやる。

五十鈴はその代わり明の母親役をやっているようだ。

ずっと一緒に住んだことがないためもあるのか、明と五十鈴の仲はとても良好だ。

 

食べたらまた眠くなってきた。

よほど疲れているらしい。

携帯電話の目覚まし機能がちゃんとセットできているか確認して、寝ることにした。


 


『世界を壊す足音  Ⅲ』

 

男がリュックを背負い、鼻息を荒くしながら歩いていた。


目の前に猫が飛び出してきたら、蹴り飛ばしそうな険しい顔をしている。


くそ、けっこうな値段しやがったな。

 

あの女のために飛んだ出費だ。

 

痴漢撃退ガスにスタンガン。

 

これで男がいても何とかなるだろう。

 

問題はどこでやるかだよな。

 

目撃者がいたら意味がないからな。

 

まったく面倒くせえ。

 

しかし、あの女は何でいつまで経っても警察に行かないんだ。

 

気がついていないのか。

それとも俺を脅す気でいるんじゃないだろうな。

 

もうちょっと様子を見たほうがいいのか。


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