津谷景子の三日目 その3
ホットヨガは室温を38℃、湿度を65%程度にあわせた場所で行うヨガで、体が硬い人でもヨガをやりやすいと言うのが特徴だね。
汗をかきやすくて新陳代謝が良くなるので、ダイエットには最適かな。
デトックス効果もとても期待できるので、特に女性に人気のヨガだよね。
ホットヨガをやるための汗拭きタオルと一リットルの水のペットボトルを明さんに渡した。
本来は有料だけど今日は無理やり体験することになったのでサービスにする。
レッスンを受けるお客様は明さんを含めて五人だった。まあまあだね。
ホットヨガでは暑いのでそんなにハードなヨガは出来ない。
部屋に入るだけでじんわりと汗をかいちゃうからね。
そのため水分をこまめに取る時間を作る。
レッスンが進んで十分もすると明さんは物凄く汗をかいていた。
元々アシュタンガヨガで血行が良くなっていたので、この室温だときついのかも知れない。
常温でも簡単に汗をかける人は、服がビシャビシャになるほど汗が出るからね。
疲れた顔をしている明さんを前にして言うことじゃないけど、ホットヨガをやる場合は元気なときがいいね。
慣れてないと終わった後の疲労が常温の三倍くらいに感じるから。
私のレッスンが終わり、みんなに今日のレッスンの感想を聞いていった。
「気持ちよかった」とか「体が伸びました」なんて感想をもらえるとやっぱり嬉しい。
社交辞令かも知れないけどね。
マットの上でぐったりとしている明さんにもホットヨガの感想を聞いてみた。
ちなみに明さんは終わった後にチャイルドポーズになって微動だにしていない。
チャイルドポーズはお休みのポーズで、ヨガを知らない人が見たら、土下座しているように感じるかもしれない。
「頭が沸騰して死ぬかと思ったわ」
顔を上げた明さんの顔に汗が光る。
ホットヨガは体質的にあまり合わない人もいるので辛いという感想を持つ人もたまにいる。
明さんのペットボトルの水はもう空になっていて、持っているタオルもぐっしょりと濡れていそうだった。
よく水を飲んで、よく汗をかく。
新陳代謝はバッチリそうだ。
吉祥寺店は常温ということでシャワーはないが、ホットヨガのスタジオにはシャワーが付いているのが普通だね。
ヨガで汗をかいたあとすぐにシャワーを浴びるのはとても気持ちがいい。
体の内部から出た毒素が水に流されていくのがわかる気がする。
デトックスできてるなあって気持ちになれるよ。
シャワーを浴びて、受付に戻ると、明さんがサクラと話をしていた。
もう明さんも着替えている。
「阿佐ヶ谷店は男の会員って何人くらいいるの?」
明さんが受付の前の椅子に座りながら聞いていた。
「阿佐ヶ谷店は先月できたばかりですから五人ですわ」
サクラの日本語はまだちょっと抑揚のつけ方がおかしい。
それがまた愛嬌があり、サクラの魅力を増している。
昭和チックなしゃべり方と童顔とのギャップもまたいいんだよね。
「五人か。その五人とケイさん会ったことある? 凄くじっと見つめてくる人はいなかった?」
明さんが私の方を向いて聞いてきた。
「阿佐ヶ谷では私のレッスンを受けた男性はまだいないから心配する必要ないと思うな」
私の返事に「そうか」と明さんは頷いていた。
「誰か捜しているのですか? 生き別れの兄弟ですか?」
サクラの言葉を聞いて、明さんが「なんでやねん」と条件反射のように突っ込んでいた。
おお、これが本場の仕込みの「なんでやねん」か。
突っ込みまでが速い。
サクラが言い終わると同時に突っ込んでいた。
突っ込まれたサクラはポカンとしている。
その顔を見て、予想はしていたが、生き別れの兄弟という発想はサクラにとって冗談ではなかったらしい。
そう言ったズレたところも含めて、サクラといるとなかなか楽しい。




