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津谷景子の三日目 その2

「ほんと、ケイさんはアシュタンガヨガやった後のほうが元気だよね。不思議やわ」


 そう言いながら明さんはスッと立ち上がった。

やっぱり疲れ切った感じは芝居だったのかもしれない。

ちょっとフラフラしているけどね。


「明さんも慣れたら元気になりますよ」


「そうなる前の筋肉痛がひどそうだ。一応ケイさんのボディーガードとして付き添っているのに、明日はカクカクとした動きしかできない気がするなあ」


「そうなったらロボットダンスが上手く踊れそうですね」

 

私がそう言うと、明さんはとびっきりの苦笑いで答えてくれた。


いいと思うんだけどなあ、筋肉痛。

こう言うと薫子とかはケイってMだね何て言ってくるんだよね。

まあ、ヨガにおいてはMなのかもしれない。気持ちのいいヨガも大好きだけど、苦しいヨガも好きなんだよね。

 

朝ごはんは日高屋で野菜たっぷりタンメンを食べた。

明さんは味噌ラーメンとチャーハンを食べている。

男性と一緒に行動すると入る店が全然変わって面白い。

朝から麺類を食べるなんていつぶりだろう? 

一人だと大体カフェでパンとコーヒーなんだよね。

私はパンを三個は食べてしまうからか、同じボリュームでも明さんと行く店のほうが安く付いていた。

明さんと行動してからお得なことばかりだね。


 それから私たちはまた中央線に乗って、荻窪から阿佐ヶ谷に移動した。

一駅だから歩いていけない距離じゃないけど、明さんが疲れているので、歩いていくなんて話には全然ならなかった。


 ヨガライク阿佐ヶ谷店は南口から歩いて二分の好立地にある。

郵便局のすぐ近くにあるビルの地下一階がスタジオだ。

吉祥寺店と違って太陽の光が入らないのがちょっと残念だけど、暗い部屋も自分の内面に集中できると言う利点がある。

それにこっちのスタジオはホットヨガ専門なので、熱が逃げにくいように窓は大きく作れないしね。

 

エレベーターに乗ってスタジオに入ると、サクラが受付の周りを掃除していた。


サクラは私より幼く見えるけど私より五歳年上の二十七歳で、阿佐ヶ谷店の店長を任されているヨガのインストラクターだ。

サクラは背が低くて、可愛らしい顔をしている。

帰国子女で七歳から二十二歳までアメリカに住んでいたが、向こうでずっと小学生扱いされていたらしい。

それも仕方ないと思う。

日本でも見ようと思えば、ませた小学生に見えなくもないからね。

ヨガのアンチエイジング効果が出ているのかも知れないけど、サクラの場合出過ぎかも知れない。


「ケイさん、おはよう。あら、そちらの男性はどちらさま?」


 サクラはテレビドラマで日本語を学習したためか、どうも古臭い話し方をする。

どんなドラマを見たのか不思議だけど、上品な話し方なので少しうらやましい。

真似はしないけどね。


「吉祥寺店の会員の明さん。ホットヨガをしたいと言うので案内したの」


 何て言っていいかわからず、私はとっさにそう紹介した。


「ああ、あの明さん。噂はかねがね聞いております。始めまして、サクラです」


 サクラはそう言って明さんに深々と頭を下げていた。

サクラは吉祥寺店で最近レッスンをしているけど、夕方が多いので明さんと会ったことはなかった。

明さんの話は私がしたことがあるのでサクラは知っていたのだ。


「始めまして」と明さんもつられて深々と頭を下げていた。

そのほほえましい光景を、私は何となく腕を組んで頷きながら見ちゃったね。

うん、うん。

 

サクラが掃除に戻ったところで、明さんがこっそり耳打ちしてきた。


「さっきの紹介の仕方だと俺もホットヨガをしないといけないことになってない?」


「んー、そうですね」


「俺、いま本当に疲れていてヨガやる気になれないんやけど」


 そう言えば明さんは疲れているんだったと思い出す。


「まあ、私のレッスンですし、楽にやればいいじゃないですか。ホットヨガは初めてでしたよね。楽しんでください」


 明さんは少し非難したそうな目で「はーい」と言っていた。

でも明さんを紹介するとき「私のボディーガードをしてもらっているの」なんて言えないから、ああ言うしかしょうがないよね。

もしそんなこと言ったらサクラが凄く発音のいい英語で「Body Guard?」と聞き返してくるに決まっている。

両手を広げるボディランゲージまで付けてね。

説明しているうちにサクラが薫子みたいな反応をして、明さんを嘘つきジャパニーズガイなんて思ったりすると面倒だから、これでいいんだ。


私は悪くない。


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