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世界を壊す足音 Ⅱ&津谷景子の三日目その1

『世界を壊す足音  Ⅱ』 


 男は物陰に隠れ、ずっと待っていた。


 口寂しさを紛らわすため、くちゃくちゃとガムを噛み、スマートフォンでバラエティ番組を見ながら、たまに視線を道先に走らせる。


 動画の再生時間が五十分を過ぎたところで、道先からやっと津谷景子が現れた。


 男はポケットに入れていた目出し帽をグッと握り締める。


 しかし、よく見ると女は楽しそうに男と歩いていた。

しかもそいつは、昨日どこからともなく現れた、ヒーロー気取りのクソ男だ。


 なんで、今日もあいつがいるんだよ、クソが。


 男は苛立ち紛れに持っていたナイフの柄で壁を殴る。


 ぱらぱらとコンクリートの破片が、地面に落ちた。



 『津谷景子の三日目』


 いつも通り朝の五時に起きて、出かける準備をする。

私の場合は朝食を取らないのでほとんどすることがないんだけどね。

洗濯をするぐらい。

今日はホットヨガのレッスンがあるので、化粧もしなかった。

しても汗でぐちゃぐちゃになるからホットヨガのインストラクターはほとんどみんなスッピンなんだ。


レッスンの前後にお化粧する人もいるけど私は面倒なのでパス。

日焼け止めだけは塗って、今日は仕事なのでコンタクトレンズを付けた。

 

昨日は明さんが先に来ていたので、五時五十分に玄関ホールに出て待つことにした。

ここならまだオートロックの扉があるので、犯人がここのマンションの住人じゃなければ中に入れないしね。


 五分ほど待っていると明さんが来た。


白色のサマージャケットに黄緑色のシャツとベージュ色のパンツ。

それにヨーロピアンタイプのシルバーのスニーカーを履いて、右腕にはきらりと銀のブレスレットが光っている。


 私は思わず「おお」と言ってしまった。

ちょっと私のイメージしていた組み合わせではないが、それでもかなり様になっている。

すべて新品の服なので清潔感があり、とてもいい感じだ。

 

外に出ると、明さんは何だか照れた笑みをしていた。


「なんか服装を急に変えると恥ずかしいな」


「とっても似合いますよ。格好良いです」


「そう? まあ、ケイさんが褒めてくれんかったら、おかしな話になるわな」


「そうですね。服買ったの忘れてたんで、見てビックリしました」


「あんなに買わせて忘れんといてや」


 そう言って明さんは苦笑いになっていた。

明さんはずっと黒っぽい服ばかり着ていたので、これだけでだいぶイメージが変わっている。

暗い男から爽やかな男性へ。

薫子の驚く顔が楽しみだ。

 

今日もまずは朝ヨガをするために吉祥寺駅から中央線に乗って、荻窪に向かった。

歩きながら明さんがたびたび肩を回したり、足をもんだりしている。


「どうかしました?」


「昨日のアシュタンガヨガで少し筋肉痛だね」


「いいですね。使われてない筋肉が使われた証拠ですよ」


「満面の笑みで筋肉痛をうらやましがられても困るなあ」


 明さんはそう言って笑っていた。


 荻窪のヨガスタジオに着くと、明さんが気合を入れていた。

アシュタンガヨガをやり終えると、運動部の部活動を終えたような疲労感があるからその気持ちは良くわかる。

慣れてくると疲労感はあってもやり終えた後のほうが元気になれるんだけどね。

 

アシュタンガヨガはポーズの順番が決まっている。

私がやっているのはファーストシリーズのハーフプライマリーで、これをやるのには大体七十分ほどかかる。

難しいポーズが追加されているフルプライマリーもあるが、私は大体ハーフをやっている。

またアシュタンガシリーズはフィフスまであるらしくて、その五番目のシリーズは知っている人は世界で数人というのがもっぱらの噂だ。

もう秘伝って感じなんだよね。

セカンドシリーズを出来るとかなりヨガをやりこんでいる人になっちゃう。

セカンドシリーズを楽しんでいる人は、ヨガが趣味の粋を超えていると断言してもいいね。


 一時間半ほどヨガを楽しんで明さんを見ると、立ち上がるのもつらそうなほど疲労困憊していた。

昨日の疲れも重なっているみたいだ。


「これは、あす、ぜんしん、きんにくつうに、なる」


 明さんがヨガマットに座り込みながら、途切れ途切れに言っていた。

やや芝居じみているけど、まるで遺言をいう人みたいな力のなさだ。

そう言えば昨日、明さんが帰るときけっこう疲れていたのはアシュタンガヨガのためだったのかもしれない。

てっきり早起きのためと思っていたが、違う気がしてきた。


「さ、元気出して、朝ごはん食べに行きましょう」


そう言って私は明さんの腕を引っ張った。


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