くノ一アヤメ登場
翌日の休みの午後は、リーサとローナでゆっくりしようと決め、いつもより少し早めに起きて、午前中に色々終わらせることにした。今日はお休みなので、食堂もおばちゃんではなく、違う人がやっていた。
とりあえず二人分の朝食を頼み、席に着く。今日のローナは寮で光魔法の実験だ。どれだけ広範囲に効果を出せるか試すのだ。まぁ、実験台になる生徒も元気になるだけだから構わないだろう。私は朝一、売店に行き、素材を買ってウオーターソードの増産だ。あと試し打ちで、風属性の武器も1本打ってみる。
「ここの食事は、いつも美味しいねぇ」
「そうだね~」
まだちょっと眠いのか、随分とのんびりした会話だ。
「そうだローナ、今日は別行動なんだから、妬んでくる人達とかにも、気を付けてよね?」
「そういうリーサもね!」
「私はイメージ魔法で大抵のことは出来るけど、ローナは攻撃系弱いでしょ」
「まぁ今日は、寮の中に居るだけだから、問題はないだろうし。リーサも学校の中だから、問題はないだろうけど、Sクラスは、羨ましいのと妬ましいので目立ってるから、気を付けるに越した事は無いよ」
「うん、気を付けるね。そろそろ売店開くから、行くね」
「「じゃぁね~」」
私は売店に行くと、ウオーターソードとシルフソードの素材で、剣21本を買って工房に向かった。朝の工房は、火入れもまだされておらず、少し冷える。炉に火を入れ風を起こし、炉が温まったら作業開始。今日は時間も無いので、イメージ魔法全開で作成しちゃいます。もう何本も打った剣なので、イメージ魔法と鍛冶スキルでバンバン作ります。2時間ほどでウオーターソード20本、打ち終わりました。ウォーターソードは、休み明けにフラウ先生に付き添ってもらって、鍛冶師ギルドに納品します。20本のうち5本は学校の売店用にし、取りあえず全部無限収納にしまいます。
今度は、シルフソードの作成です。イメージは、風の斬撃を飛ばす剣です。初めてなので、強い斬撃を飛ばすイメージで作成し、1時間ほどかかりましたが。ちゃんと出来上がりました。後から練習場で的を相手に試してみます・・・・・・・・ところでさっきから人の気配がするんですが、誰でしょうか・・・
「誰ですか?出てきてください」
「ほう、拙者の気配に気づいたでござるか?」
なんだこの時代劇の様な話し方は・・・
「気付いてましたよ。ずっと、見ていたでしょう?」
「確かに、見ていたでござる。」
「それで、出てくるの、来ないの?」
「これで良いかな?」
「忍者?」
「なぜ私が忍者だと分かった?この地には忍者はいないはず」
「あぁ・・・まぁ、私が博識だからって事で、どうせ、『東方の国から参った』とか言うんでしょ?」
「確かに、東方の国から、武者修行に参った」
「で、私に何か用ですか?」
「この地に、有名な剣の作り手がいると聞いて、参じた。実は、武者修行の途中で、拙者の愛刀が折れてしまい、難儀しておりましてな」
「で、私に刀を打てと?」
「刀を、知っているでござるか!?」
「知っているわよ。すご~~~~~~く良く知っているわ。」
「では、礼は必ずする!!刀を、1本打っていただきたい!!」
「で、折れた刀と刃は持って来たんでしょうね。この地には、素材が無いから折れた刀が無いと作れないわよ。」
「それは大丈夫でござる。愛刀故、肌身離さず持っているでござる」
「見せて貰っても良いかしら?」
「勿論でござる。愛刀が直るのであれば、いくらでも見せるでござる」
「ふむ。しなりと、硬さ、長さの注文は?」
「今のまま、打ち直すことは可能か?」
「可能よ。それよりも、名前くらい名乗りなさいよ。私はリーサよ」
「失礼した。拙者、くノ一のアヤメと申す」
「じゃぁアヤメ、すぐ直るから、少し待ってね」
「かたじけない」
イメージ魔法、練成、鍛冶、全てを使って打ち直した。
「出来たわ」
「もうで御座るか?」
「もうで御座るよ。はい、どうぞ」
「おお。重さも、長さも、申し分ない」
「私も、試し切りがしたい剣があるから、アヤメも一緒に、修練場に行く?」
「行くでござる」
アヤメと二人で修練場に移動した。
「うーん、巻き藁が無いね・・・練成するか。『練成』」
「おお!巻き藁がいきなり現れたでござる!!」
「試し切りをどうぞ。」
「はい!」
それから何回か試し切りをして問題ないと判断し、お礼として、小判を何枚かもらった。でもまた現れそうな気がする。気がするだけなんだけど・・・当たりそうな予感がする・・・
シルフソードの事を思い出し、試し切りでイメージ通り風の斬撃を飛ばすことが出来て良かったです。ちょっと遅れたから、急いでローナのところに行かなくちゃ。
「ローナ、ごめんねぇ。チョット色々あって遅れちゃった。」
待ち合わせ場所に行くとローナが待っていた。
「気にしなくて大丈夫。私も今来たところだから。」
「光魔法の効果はどうだった?」
「凄かったよ~。やっぱりSクラスでの授業は伊達じゃないね。魔力量も上がっていたし効果も広がってた!」
「そっか。良かったね。私も良い剣が出来たよ。試し切りも上々でした。これでまたお金が入ってくるね。うふふ」
「そんなにお金貯めてどうするのよ」
「将来冒険者になっても困らないようにね。ってか冒険者にならないで鍛冶師になろうかなぁ」
「昨日までの野営がきつかったから、私も考えちゃった」
「そうなんだ。私は野営は良かったんだけど、鍛冶師の方が儲かりそうな気がしてねぇ」
「リーサはそうかもね~」
「実は今日東方の国から来た人が、刀って東方の剣を打ってほしい。って来て、それで遅れたんだ。でもその刀も打てたし、結構何でも作れそうな気がしてね」
「そうだったんだ~」
「でもローナも回復属性の装備とか、需要高い気がするけどなぁ」
「あ~そうだね。冒険者で光属性持ってる人、少ないしね~。常時回復の鎧とか売れそう」
「かといって、良い素材を冒険者から高く買わなくちゃいけないのも、何か嫌だしねぇ」
「だね~」
「いっそパパンみたいに、Sランク冒険者になって自分で素材を狩に行くとかね」
「おじさんみたいなのが理想なのかな~」
「明後日フラウ先生に相談してみようか?」
「そうだね~」
「今日は、この後お昼ご飯食べて部屋でのんびりするとして、明日はどうしようか」
「カナタさんでも誘って、皆でデートでもする?」
「良いね~。まだ二人だけじゃ、王都怖いもんね」
「ってか、ベルウッドさんやエリーゼさんシフォンさんも誘って、女の子全員で、王都散策はどうだろう?」
「うん。そっちの方が良いね。じゃぁお昼ご飯食べ終わったら、誘いに行ってみる?」
「だね。じゃぁ早くご飯食べちゃおう!!」
二人は昼食を早めに済ませ、皆の部屋に向った。
「まずはカナタさんの部屋から行こう。」
コンコン。
「カナタさん居ますか~?明日、デートしませんかぁ?」
ガタガタガタガタ部屋から何かが崩れる音がした。
「デ、デートですか?」
カナタさんが、部屋から出てきた。
「はい。デートです。私達まだ二人で王都に出るのは怖いので、女性陣皆誘って、遊びに行こうかと思いまして。」
「ああ。そういう事ですか。私はてっきり・・・いやいや何でもありません。」
「それで、いかがでしょう?」
「良いですよ。私も王都で、剣を見たかったので行きましょう。」
「剣なら、よければ私達が打ちますよ。」
「確かに、二人なら町の鍛冶師よりも、良い剣を打ちそうですね。」
「確か、カナタさんは火属性のスキルの練習中ですよね?それなら、剣に火属性も付与しますよ。炎を纏う剣です。」
「それは魅力的です。でも扱えるかな?」
「練習あるのみです!ちなみに、術者は熱くありません。実物はこれです!!」
無限収納から、1本の剣を出しました。綺麗で鋭い1本の剣です。そこに、火属性の魔力を通し、剣に炎を纏わせます。
「これを使いこなすようになると、炎を長くして剣の長さより攻撃範囲が伸びます。対人相手に使うときは、相手が剣の見切りが出来なくなるので、とっても有利ですよ。この剣が今なら、材料費だけでとってもお買い得です!」
「買った!!」
「まいどありぃ。でも買う前に、試し切りをお勧めします。後から修練場に行きましょう」
「それもそうですね。でも試し切りしなくても、普通の冒険者が使っている剣ですよね?それなら十分信用に得る強度かと・・・」
「まぁ取り合えず、他の方たちに、明日のお出かけの声を掛けに行きましょう」
そのまま、ベルウッドさんとエリーゼさんシフォンに声を掛け、明日の件を伝えると皆が行くなら楽しそうだから行く。との事でした。
「じゃぁ皆に声も掛けましたし、修練場に行きましょう」
「そうですね。早く使ってみたい」
練習場に着くと、的の強度と移動速度の調節です。強度はS、速度はA、カナタさんならこれくらいで問題なさそうです。
「強度は最高のSにしました。剣の性能的に炎を纏わなくても、これくらいは切れます。速度はAです。カナタさんなら問題ありませんよね?」
「ええ、問題ありません。後は実際に炎を纏わせることが出来るか、ですが」
「では、試しに魔力を流してみてください」
魔力を流すとうっすらと炎が現れた。
「ん~、これは想定外でした。もう少し火属性のスキルが強いかと思ったのですが・・・」
「残念。これでは剣の特性を引き出せていない・・・初めてですが、少し改良しますね。剣をかしてください」
剣を受け取り、イメージ魔法で剣に細工を施し、魔力石を入れる穴を空けた。精霊魔法でサラマンダーを呼び出し、剣に炎属性を付けたい旨をサラマンダー達に伝え、交渉として定期的に魔力石を上げることを約束し、持ち主の言う事も聞いてくれるようにお願いした。最近は、自分の余った魔力を使って、魔力石を作っていたので、かなりの量の魔力石が、無限収納に入っている。納得して剣に宿ってくれたサラマンダーの剣をカナタさんに渡した。
「改良できました。使ってみてください。今度はサラマンダーを纏わせているのでさっきよりは炎が強いはずです」
「分かりました。ここの穴に魔力石を嵌めるんですか?」
「はい。魔力石が触媒になって魔力を高めてくれます。試しに少し火属性のスキルを使ってみてください」
「はい。少し、ですね。・・・おおおおこれは凄い、さっき程より炎が大きいです。しかも使う魔力が少なくて良いですね」
初めてだったが成功したみたいだ。剣全体に炎を纏いサラマンダーも活気ずいているみたい。鍛冶師ギルドで通常販売している火属性の剣より高温の炎の様で、魔力石1個でどれくらい使えるかが気になるけど、カナタさんに魔力石の作り方を教えればいっか。自分で魔力の限界まで魔力石を作るのを繰り返せばMPの総量も増えるのが早いし、そっちの方が良いかな。
「カナタさん、魔力石の作り方をお教えます。自分の魔力の限界まで暇な時に作って、寝て魔力の回復をしてくださいね。MPの総量が増えやすくなります。最初のうちは私が作った魔力石を使ってください。自分で作れるようになったら魔力石に火属性の魔力を流してサラマンダーにあげてください。段々カナタさんの魔力に慣れていくはずです」
「ありがとうございます」
「それと、魔力石が残っているうちに試し切りをお勧めします」
「そうでした。ではいきます!!」
カナタさんは素早い動きで的を捕らえると上段から真っ二つにした。二つに分かれた的は燃えつくされて、燃えカスだけが残った。実用にも十分耐えそうです。
「これは良いですね。切れ味も良いし、火属性で相手を燃やし尽くすってのもモンスター相手には容赦しなくていいですね」
「燃やし尽くすと素材が捕れませんけどね・・・」
「う~ん。それは確かに」
「今日作ったシルフソードって風属性の武器があるんですが、それなら風の斬撃を飛ばすので遠くてもかなりの威力の斬撃を飛ばせます。こちらの剣はいかがですか?今試作品があるので試しにお見せしましょう。ローナ、的の強度をSで速度もSに調整して」
「はーい。準備OKいつでも良いわよ」
「じゃぁ、ローナの好きなタイミングで的を出して」
待っている間にシルフソードに魔力を流す。剣の刃の部分に風が纏う。ローナが的を飛ばした。
「さて、『斬撃』終わりっと」
「わぁ、その剣も良いですね。的が真っ二つ・・・しかも遠距離攻撃ができるんですね。近距離でも火属性の剣と性能は変わらないんでしょうか」
「ええ、基本的に剣自体はどれも同じレベルです。売店で購入できる剣です」
「あっ、今更ですがサラマンダーに剣の炎を飛ばすようにお願いしてみてください」
「はい、やってみましょう。お願いサラマンダー遠くに炎を飛ばして」
願いながら剣を振ってみると見事に剣から炎が噴き出しました。
「これはいけそうですね。まずはサラマンダーの剣を使いこなしてその後、シルフソードはいかがでしょう?」
「そうですね。まずはサラマンダーの剣を使いこなせるようにがんばります」
「じゃぁそろそろお腹もすいたので、食堂に行きましょう」
「もうそんな時間?」
「結構試しましたからね。お腹ペコペコです」
「そうですね。 私もお腹空いてきました」
カナタさんから武器の素材代、銅貨3枚を受け取り、食堂に行きました。
食堂に着くと女性陣が全員そろっていたので、皆で明日は何処に行こうかとかを話しながら夕食を楽しみました。