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旅する魔女と異世界の弟子  作者: しるばーすたー


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1/5

転移門の異変

私は今、砂漠のど真ん中にいる。


見渡す限り、砂、砂、砂。

照りつける日差しに熱せられた空気が、景色をゆらゆらと歪ませている。


私の名はメグル。

世界各地を旅している魔女だ。


私がこんな場所まで来た理由は単純だった。

私たち魔女が「おおばあちゃん」と呼んでいる魔女から、ある頼み事をされたのだ。


「メグル、昔作った転移門に妙な反応があってね。悪いけど、様子を見てきておくれ」


転移門は、門の形をした大型の転移魔導具だ。

問題の一基は、私も以前訪れたことのある、この砂漠の遺跡の奥で眠っている。


どうやって遠く離れた転移門の異常を感じ取ったのかは、私も知らない。

尋ねても、おおばあちゃんは笑うだけで教えてくれなかった。


そして、私が調査役に選ばれたのは、砂漠になる前のこの土地と遺跡内部の構造を、固有魔法「万里図」に記録しているからだ。


私は片手を上げ、目の前に半透明の地図を展開した。

淡い光で描かれた地図には、現在地と遺跡の位置が浮かび上がっている。


万里図は、一度訪れて自分の目で確かめた土地を、地図として記憶できる。

さらに、記憶した地図と現在の地形を重ねれば、以前と変わった場所も見分けられる。


ただし、遠く離れた場所の変化まで自動で分かるわけではない。

現在の地形として映し出せるのは、もう一度訪れて自分の目で確かめた範囲だけだ。

今、地図の上では、現在の砂漠と二十五年前の草原が重なり合っていた。


この土地が砂漠になったのは、二十年前。

そのきっかけは、二十五年前にここで起きた古龍と厄災の戦いだった。


周辺の国や土地にも被害は出たが、戦いの中心だったこの場所ほど壊滅的ではなかった。

大地は削られ、その後、残された魔力の影響で草木は次々と枯れていった。

そして戦いからわずか五年で、この一帯は広大な砂漠へ変わってしまった。


私はあの戦いを直接見たわけではない。

それでも、遠く離れた場所にいた私でさえ、二つの巨大な魔力がぶつかり合うのを肌で感じた。


全身に無数の針を突き刺されるような、恐ろしくて気持ちの悪い魔力。

あんなものは、二度と感じたくない。


砂漠化してからまだ二十年しか経っていないのに、ここら一帯にはすでに凶悪な魔物が何体も住み着いている。


戦いの跡に残った魔力に引き寄せられてきたのか。

それとも、どこか別の場所から移ってきたのか。


まったく、どこから湧いて出たんだか。


そんなことを考えながら歩いていると、砂に半ば埋もれた遺跡が見えてきた。


石造りの入口には何本ものひびが走り、その奥から地下へ続く階段が伸びている。


いやー、あの戦いに巻き込まれて、ひびだけで済んだのはすごいな。

普通なら跡形もなく崩れていてもおかしくないのに。


私は警戒しながら遺跡へ入り、階段を下りた。


内部を見回してみたが、昔訪れたときと大きく変わった様子はない。


よかった。

中まで崩れていたら、遺跡内部の地図を一から記録し直すところだった。


この遺跡は地下四階まであり、無数の通路が複雑に重なり合っている。

構造を知らずに入れば、簡単に迷ってしまうだろう。


内部には魔物も多い。

私は闇の上級魔法「オブリビオン」で、周囲から自分の存在を認識されにくくしていた。


姿や匂いを消す魔法ではない。

たとえ視界に入っても、そこに誰かがいると認識しにくくする魔法だ。


ただし、気配を探ることに長けた相手なら、認識の中にそこだけぽっかりと穴が開いたような違和感から、私の居場所に気づくこともある。


同時に、無属性の上級魔法「サーチ」を遺跡とその周囲に薄く広げていた。

範囲内に存在する生命や魔力の反応を、自分の感覚に流し込む魔法だ。

範囲を広げすぎると脳に大きな負担がかかるため、身体強化魔法で脳と神経を保護しながら使っている。


今のところ、魔物らしい強い魔力反応はない。


昔と同じなら、この遺跡にそれほど強い魔物はいないはずだ。


万里図を頼りに地下三階まで下りると、地下四階へ続く隠し階段があるはずの場所へたどり着いた。

目の前にあるのは、何の変哲もない石壁。

だが、ここは私たち魔女族だけが知っている隠し扉になっている。


確か、この石だったよね。


壁の一部を押すと、重い音を立てながら石壁が横へ動いた。

私が中へ入ると、石壁は背後で自動的に閉じた。


階段を下り、地下四階へ着いた。


そこには入り組んだ通路などなく、広大な部屋が一つあるだけだった。

周囲に魔物の反応がないことを確かめると、私は万里図を閉じ、オブリビオンも解除した。

その中央には、扉のない石造りの門が立っていた。


高さは三メートルほど。

白かったはずの石は長い年月でくすみ、その表面には蔦のように細い魔力回路が刻まれている。


門の上部には紫色の魔石が埋め込まれ、側面には手のひらほどの制御盤が取り付けられていた。


今は門の向こうに石壁が見えるだけだが、正常に起動すれば、何もない空間が水面のような光で満たされ、遠く離れた場所へ通じる道が開かれる。


見たところ、魔石の表面にひびはない。

ただ、門全体から感じる魔力が、ときおり不自然に揺らいでいる。


これが、おおばあちゃんの感じた異常なのかな。


いきなり門を起動するのは危険だ。

まずは僅かな魔力を流して、どこに異常があるのか確かめてみよう。


私は制御盤へ手を置き、点検に必要な分だけ魔力を流した。


その瞬間、制御盤が私の手から強引に魔力を吸い上げ始めた。


「え?」


慌てて手を離す。

だが、すでに転移門はひとりでに動き始めていた。


門に刻まれた魔力回路が一斉に輝き、上部の紫色の魔石が激しく明滅する。


「ちょっと待って! 私はまだ起動してないよ!」


私の声など聞くはずもない。

部屋を覆い尽くすほどの強烈な光が、門から放たれた。


私は反射的に防護結界を展開し、目を閉じた。


次の瞬間、光は爆発することなく門の内側へ吸い込まれた。

腹の底まで響くような破砕音とともに、部屋全体が大きく揺れる。


恐る恐る目を開けると、石造りの門には無数のひびが走り、上部が半ば崩れ落ちていた。

動力源だった紫色の魔石も、真ん中から二つに割れている。


「は?」


思わず、間の抜けた声が漏れた。


壊れた。

それも、世界にほとんど存在しないS級魔石ごと。


どうしよう。

おおばあちゃんに、なんて説明しよう。


そう考えた直後、サーチの端に、それまで存在しなかった魔力反応が現れた。


人間だ。


位置は、この遺跡の外――砂漠の地表だ。

まさか、今の転移反応で誰かが現れたの?

でも、どうして門の前ではなく、砂漠の地表に?


座標を定める術式まで壊れていたのかもしれない。

だが、考えている暇はなかった。


さらに、巨大な魔力反応が一つ、サーチの範囲へ入ってきた。

その反応は砂の下を高速で進み、人間へ向かって真っすぐ近づいている。


まずい。

この気配は、サイレント・ワームだ!


地中を音もなく進み、獲物の真下から襲いかかるA級の魔物。

『気づいたときには腹の中』と言われるほど危険な相手だ。


私は人間とサイレント・ワームの距離を確かめ、魔物だけを捉えるように意識を集中させた。


「ライトニング・ピラー!」


私はサーチで捉えた反応へ狙いを定め、その真上に魔法陣を展開した。

地中のサイレント・ワームを狙い、一本の巨大な雷を落とした。

遅れて、落雷の轟音と衝撃が地下にいる私のところまで伝わってきた。


サーチ越しに、サイレント・ワームの反応が大きく揺れた。


だが、その魔力反応はほとんど弱まっていない。


「駄目、浅い!」


視界の通らない地下から、しかもサーチの端にいる相手を狙ったせいで、照準が僅かにずれたらしい。

雷はサイレント・ワームの身体を浅くかすめただけだった。


それでも、痛みで砂の中から顔を出したはずだ。

人間の反応が、サイレント・ワームから少しずつ遠ざかり始める。


よかった。

気づいて逃げてくれた。


でも、あれだけでサイレント・ワームを止めることはできない。

今の距離と精度では、これ以上の遠隔魔法は危険だ。

直接向かうしかない。


私は急いで階段を駆け上がり、隠し扉を抜けると、通路が広くなったところで箒へ飛び乗った。


お願い。

あと少しだけ、持ちこたえて。


私は人間の気配を目指し、遺跡の出口へ向かって一気に加速した。

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