シャルムの日記
ベレト、イザベラ、シャルムの死から数日が経った。王を失った悲しみで王国中は沈んでいたが、ずっとこのままではいられない。王都では貴族達が王の代わりを務めることで、何とか国の運営は成り立っていた。新しい王を決め王国を建て直す為、皆は少しずつ前を向いている。
オーラル城、シャルムの自室。
「流石シャルム様のお部屋だ。綺麗に片付けられているすね」
国王夫妻の部屋、そしてシャルムの部屋と、兵士がそれぞれに分かれて遺品整理を行うこととなった。シャルムの部屋は夫妻の部屋と比べて少し狭い為、新人兵士が一人で行う。整理を進めていると、一冊のノートを拾った。開いてみると、どうやらこれは日記のようだ。
「やっぱこういうのって、勝手に読んじゃマズイすかね? ……まあ、王族の日記なんてそうそう読めるもんじゃないし、言わなきゃバレないっしょ。読んじゃえ」
好奇心に勝てなかった兵士は、一ページ目に戻って日記を読み始めた。
七月十七日
僕は今日、二十歳の誕生日を迎えた。父上曰く、子が成人になった時、帝国で開かれる合同パーティーに出席するらしい。だから今年はそのパーティーが開かれるそうだ。パーティーは別にいいんだけど、何で数日間もするんだろう。一日だけでいいのに面倒くさいなあ。でも皇女様はとても美しいと噂されているし。それだけが楽しみだ。
七月二十五日
パーティー当日。僕達は王国の民族衣装に身を包み、帝国へと向かった。帝国も王国と同じく美しい街並みだったけど、その雰囲気が違って面白かった。お城に着くと、人が三人立っていた。多分帝国の民族衣装なんだろうなっていう服を纏っていた。その三人の中に一人小柄で華奢な体つきの美しい女性がいた。多分この人が皇女様なんだろうな。僕は一目で恋に落ちた。名前はベロニカというらしい。帝国の国花から名付けられた名前だそうだ。名前まで美しいなんて。僕達はお互い惹かれ合い、会ったその日の夜に初めて体を重ねた。そこからは帝国に滞在している間、何回も体を重ねた。これだけ色々と相性がいい女性はそうそういないと思う。パーティーが終わり僕が王国に帰った後も定期的に会おうと約束をした。
八月二日
パーティーが終わって数日が経った。今日はベロニカと会おうと約束した日だ。いつもなら父上に言われた通り王国と帝国の国境にある門から入っていたが、今日は帝国領の森から行ってみることにした。父上曰く捕まって牢に入れられるらしいが、バレなきゃ大丈夫だろう。森へは案外簡単に侵入できた。しばらく歩いていると、何やらキラキラする物を見つけた。知っている物だし、何なら僕も持っている。これは王家のブローチだ。でも、どうして王家のブローチがこんな所に? 僕は頭を働かせる。父上の性格からして、彼は森から侵入することはしないだろう。では母上の? 確かに母上の洋服にはブローチが付いていなかったけど……。そういえば、ベロニカの瞳は母上と同じで瞳の色が左右で違ったな。もしかして、僕の前に子供は産まれていて、何らかの理由で捨てられたとしたら? 母上が子供を捨てる時に王家のブローチを託したけど、子供を拾った人物に捨てられた? 誰が捨てた? 赤ん坊が持っている王家のブローチが見つかったら都合が悪い人? まさか皇帝か? 僕はベロニカが王家の人間じゃないかと仮説を立てて、彼女を調べることにした。
八月四日
王国で謎の疫病が流行る。感染すると皮膚が爛れるという恐ろしい病だ。王国中が謎の病に震える中、父上がどこかに出かけるところを見かけたので、後をつけることにした。父上はルーンの店に入って行った。カーテンが少しだけ開いていたのでそこからルーンと父上の話を聞いてみる。そこで得たのは、衝撃の事実と僕の仮説は正しかったということ。やっぱりベロニカは王家の人間で、言い伝えによって王国に災いを呼ぶ悪魔だからと捨てられたらしい。まあ本当は殺そうとしたらしいけど。二人の話が終わりルーンがこちらに近付いてきたので、僕も城に帰ることにした。自室に戻った僕は、今までのベロニカとのことを思い出す。そうか、僕はずっと姉とそういう行為をしていたのか。その事実に興奮した僕は、一人で致した。
八月五日
ベロニカは死んでいないとは言え、僕達はバラバラになってしまった。家族が欠けてしまっているというのは寂しいものがある。ベロニカも他人の家で生活していくのは寂しいだろう。本当の家族の元に帰りたいと考えているだろう。一度バラバラになってしまったが、僕達家族はやり直すことはできないか考える。今世は無理でも来世がある。そうだ、心中して生まれ変わればいいんだ。僕達がやり直す為には、あの皇帝達が邪魔だな。だから僕はまず、帝国の兵士にベロニカが皇帝の子供じゃないと密告することにした。
八月六日
今日から心中に向けて準備を進めていくことにした。父上、母上、姉を殺し、自分は劇薬を飲んで死ぬ。このやり方でいこう。さて、早速劇薬を作っていく訳だけど、どこで作ろうか。城にそういう都合のいい部屋とかないかな。地下に降りると、地下牢の中では謎の疫病に感染した人達が僕に助けを求めていた。「シャルム様、助けて……」って。確かに君たちのことは可哀想だと思うけど。ごめんね皆。僕は今忙しいんだよ。君達に構っている暇はないんだ。無視して地下を進むと、奥に扉があった。入ってみると、そこは怪しい薬品がたくさん置いてある部屋だった。誰かに使われていたような形跡がある。誰が使ってたんだろう。でも今はそんなこといいか。早く劇薬作りに取り掛かろう。
八月八日
寝る間も惜しんで作り続ける。そしてとうとう試作品完成。ちゃんと効くか試したいけど、誰に使おう? 部屋を出ると、ちょうど兵士が地下に降りてきたところだったので彼に実験台を頼むことにした。もちろん実験台になってほしいなんて直接的なことは言ってないよ。とりあえず適当なことを言って部屋に招き入れた。そして薬を飲ませると、苦しみだし、床にのたうち回り始めた。あれから五分ぐらい経ったかな。動かなくなったので確認してみると、死んでいた。一回目で成功なんて、僕ってなんて天才なんだろう。将来はこういう職業に就こうかな。でも苦しむのは嫌だな。どうせ死ぬなら苦しまずに死にたい。父上がいつ帝国に行くと言い出すか分からない。早く完成させないと。
八月九日
あれからまた寝る間も惜しんで作り続けていた。そして試作品2号が完成。これを誰で試すか。まあ一回目同様兵士でいいか。部屋を出ると、またしてもちょうどいいタイミングで兵士が地下に降りてきたので、彼に実験台になってもらった。飲ませてみたらすぐ死んだ。一日で改善点を見出し、完璧に仕上げられるって、やっぱり僕才能あるかも。父上が明日帝国に行くと言っていた。ギリギリ間に合って良かった。明日が楽しみだ。
日記はここで終わっている。兵士はこの日記に書かれていることを理解するのに少し時間がかかっていた。
「これって、やっぱ公にしない方がいいすよね。ベレト様が娘を殺そうとしていたり、シャルム様が家族殺害を企てていたり。王家の闇っす。これは闇に葬った方がいいすね」
兵士は「うん」と心を決めると、日記を燃やした。




