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「ミレイユ・エスティアナッ!!貴族という立場にありながら、貴様が犯した罪は死よりも重い!!よって貴様を斬首刑に処すッッッ!!!」
処刑人の罪状を読み上げる声がミレイユの破れた鼓膜を揺らした。
粗末な布切れを一枚だけ纏い、傷だらけの身体をひきづるようにして跪かされた彼女に、かつての美貌はもはや見る影もない。
ミレイユは第一皇子のタイリス・サーペンシャルの暗殺と王国の転覆を目論んだ悪女として、断頭台の上で短い一生を終えようとしていた。
「殺せッ!!」
「その女の首を刎ねろォッッ!!!」
「悪女め!!!」
民衆の罵声を浴びながら、ミレイユの心はありもしない罪で首を刎ねられることへの恨みの念で埋め尽くされていた。
『どうしてこんな簡単なこともわからないの? 本当に馬鹿な子』
『ねぇ、お姉様。そのドレスと宝石、私に譲ってくださらない? ほら、お姉様みたいに地味で湿っぽい女より私の方がずっと似合うもの』
『まったく、君のような人間が婚約者だと恥ずかしくて外も歩けない。すまないが、今夜のパーティは欠席してくれないか』
『なに!? 皇太子殿下殺害の嫌疑がお前にかけられているだと!? 何ってことをしてくれたんだ!!このッ、エスティアナの恥めッ!!』
馬鹿な子。可哀想な子。一族の恥晒し。──能無しのミレイユ。
エスティアナ公爵家の長女として生まれてからずっと、ずっとそう言われて生きてきた。
出来のいい妹と比べられることは日常茶飯事だったし、第二皇子である婚約者に嫌な顔をされるのにも慣れっこだった。
だってミレイユは“馬鹿”で可哀想な子だから。みんながそう言うから。
ミレイユはボロボロに傷ついた心を押し殺して、いつもにこにこ笑っていた。
いつか、誰かが認めてくれるはずだと信じて。
(その結果が、これか……)
処刑人に身体を押さえつけられ、首をもたげる。拷問で負った背中の火傷がじくじく痛んだ。
『……よ。これを使って──をすれば……』
『いや、でも──で、それで……は俺と君が』
『大丈夫よ。あの“能無し”にすべて被せれば。二人でこの国を治めるの……』
『……パルシア? ドルシェ様?』
脳裏に蘇るのはパルシアとドルシェが裸で抱き合い、顔を寄せて囁き合う姿だ。
絶望と怒りがないまぜになった光景。ミレイユは扉の隙間からそれを見た。
そしてミレイユに聞かれていたとわかった二人は、とびきり優しい顔をしてこう言ったのである。
「馬鹿で能無しのお姉様。最後くらいは私たちの役に立って死んでくださらない?」と。
「次のパーティで“これ”を兄上の杯に入れるんだ。そのくらいなら頭の足りない君でも出来るだろう?」と。
ミレイユはあまりにも怖くて、恐ろしくて、渡された小瓶をその場に捨てて逃げ帰った。
それからパーティにも出席せず、自分の部屋でガタガタ震えて過ごしたのである。
これは何か悪い夢だと。自分は悪夢を見ているのだと必死に言い聞かせて。
しかしミレイユは捕まり、拷問を受け、そして今。
断頭台の上で自分の首が落ちるのをただ待っている。
運命はあまりにも残酷だった。
力なくあげた目線の先には、パルシアとドルシェの姿があった。
「まぁ、見てドルシェ様。なんて見窄らしいのかしら。人間あんな風にはなりたくないものですわ」
「まったくだ。穢らわしい。しかし“能無し”には相応しい姿ではないか?」
「嫌だわ、ドルシェ様ったら!」
「ははは」
二人は葡萄酒の杯を傾けながら、ミレイユがの首が落ちるのを今か今かと待っていた。
それを見た瞬間、ミレイユは顔がカッと赤くなるのを感じた。
「──ひゅ」
みんなの言う通りだった。
ミレイユは馬鹿な女だから。
能無しだから。
嘲られて、利用されて、最後はボロ雑巾のように捨てられるのだ。
ガシャン。
刃が、落ちる。
長いブロンドの髪が風に舞って、ゴトリと落ちて。
それで、おしまい。




