アフターヌーンティー攻略
昨今、アフタヌーンティーが流行りである。それは私も知っていた。これまでに数度はカフェやレストランのものは行ったことがある。
格式高そうなホテルは、ない。
「……こ、これがかの有名な宮殿ホテル」
タクシーで乗り付けたりしそうな入口だ。今回は徒歩できているが、他にそんな人いないんじゃないだろうかと思う。
「大丈夫、コワくないから」
平然とした顔の涼さんが頼もしいというより遠い人のように思える。
「ほんとですか? マジですか? 品定めされません?」
「短パン、ビーサンでもなければ追い返されないから大丈夫。
ちゃんとかわいいから」
……。
ちょっとあらぬ方を向いてしまった。かわいいとか言うの反則。
今日の服はきれいめワンピとカーディガン、パンプスは今日のために通販で買ったものだ。さすがに通勤のオフィスカジュアルは嫌だなと思って。
亮さんは、襟付きシャツにカジュアルなジャケットとチノパン。靴は革靴だ。靴下は履いている。履いてなかったらチャラいと言ったかもしれない。
門前払いはされないと思うけど、やっぱり心配になる。
受付をあっさりスルーしてレストランの方に向かう。1階の喫茶スペースでやっているらしい。上階のバーでは夜アフタヌーンティーをやっているらしい。夜も午後だけど、それはなにか違うような。
開始時間前なので案内待ちをしている人たちが数名いた。女子会か、デートか、お一人様でも男性一人はいない。
「なるほど、一人で来るのはちょっとハードルが高いですね」
「一緒に来てくれて良かったよ。
今度、いくつかの旅館でデザートフェアしようって話があって最近流行りの物を調べてこいって。ほんと人使いの荒い」
そうやってぼやいている亮さんは普通の一般男性に見える。
このひとがうねる触手付きの怪異とは誰も思わないだろう。あと、温泉地を牛耳る地主にも見えない。ただ、実情を聞くと貸しているお金で固定資産税を払って、残りは相続税対策にまわしているらしい。
土地に価格がつくのに売ったって同額で売れないと嫌そうな顔で言っていた。
土地持ちには土地持ちの悩みがあるらしい。
うちは何もないから平和なもんである。
そこから間もなく名を呼ばれて席に案内された。庭園側ではなく、入口から近い場所だったがやや広めのソファ席で隣り合っても座れそうだった。
当たり前のように隙間を開けて座る亮さんを見つめた。
家のソファではよく隣り合って座っているのでもはやクセだろう。いちゃついているんじゃなくで、実家のくつろぎで。
私は向かい側に座った。
「あとで撮影するからこっちがわのほうが楽だと思うけど」
「大丈夫です。そのときは立ちます」
少し残念そうなのは演技なのか本気なのか。謎だ。
一杯目の飲み物を選んでから、ケーキなどをいれたボックスが出てくる。ここは三段セットではなく、和風の重箱で出てくるということで選んだらしい。
簡単にパクれそうというのが亮さんの言い分だ。いいのか、そんなに堂々パクって。
黒塗りの豪華なお重には、一段目ケーキ、二段目スコーン、三段目軽食となっていた。2人分が綺麗に入っていた。
「えっと、最初は軽食から……」
そういいかけて、違和感を覚えた。
「なに?」
「うねってます。腹ペコちゃんですか?」
髪の一部がうねっていた。美味しいご飯の予感にうきうきという感じだ。亮さんはがしっと髪を掴んだ。予備動作なしなのでちょっとびっくりする。
小さくなにかを呟くと静かになった。
「大丈夫?」
「ポテチは与えてきたんだけどね」
言い方が、寿司、焼肉前に食事させるに似ている。噂ではおにぎりやうどんなどを食べさせるらしい。
「どのくらい食べるんですか?」
「可能な範囲? それとも満足度?」
「可能範囲のほうで」
「際限なく、無限にって感じかな。
でも、どこまで食べられるかは試したことはないな」
「それでは今度、大食いのお店行きましょ! 豪快に鉢入りラーメン食べてみてください」
「それ、ズルしてる気がするな……」
苦笑いしている間に頼んだお茶がやってきた。私はダージリンを、亮さんはアッサム。お茶変可能らしいので、ここからお腹をチャプチャプにする予定である。
その前に撮影タイムに入った。怪異なのに、私よりスマホの採光がとか角度が、画像処理がと詳しかった。初期値おまかせな私と違う。
ふと周りを見れば、同様の撮影タイム入りしているテーブルが多い。私も撮らないと行けない気がして……。
「……あとで、画像送っておくね」
「よろしくお願いします」
何事も向き不向きがある。亮さんが何もかも出過ぎなのだ。
そこから、味の細かいメモを残したりと完全に仕事モードだった。デートじゃない。
なんか、腹が立って席を立った。
「もうちょっと詰めてくださいねぇ」
ぎゅむっと亮さんの隣にお尻をおしこんでやった。
「もうちょっと真面目にデートしてください。顔合わせの時の話題が必要なんですよ。
仕事ばっかりでという話します?」
「あー……。ごめん」
「真剣そうなところも悪くないですけどね」
怪異なのに、地元貢献しようとか本気なんだなと思えてちょっと感動したとは言わないでおこう。




